F1第22戦ラスベガスGPレビュー(前編)

 ラスベガスに降った異例の雨は、角田裕毅(レッドブル)にとって恵みの雨とはならなかった。乾いたオアシスを潤すどころか、肥沃な土のすべてを洗い流してしまった。

「タイヤがまったく機能しなくて、ビックリするくらい滑って、文字どおり氷の上を走っているような状態でした。何が起きたのかはわかりませんけど、間違いなく何かが欠けていたんだと思います。タイヤセットが何かおかしかったのか、すごく変な感じでした」

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 予選セッション後、角田のマシンに履かせたウェットタイヤの内圧設定にミスがあったことがわかり、ローラン・メキース代表は「すべての責任は我々チームの側にある、あってはならないことが起きてしまった」と角田に謝罪した。

「ほんのわずかな差とかではなくて、ウインドウ(適正範囲)から大幅に外れていましたし、コンペティティブ(競争的)な走りができるような状況ではありませんでした。どうしてこんな基本的なことにミスが起きたのか、避けられたミスだったと思いますし、しっかりと原因を分析する必要があります」

 タイヤの内圧は、ピレリが「最低内圧」を指定しており、それよりも低い内圧に設定することは許されていない。マシンに装着するタイヤはすべてFIAやピレリのスタッフによって内圧が測定されるため、これを下回っていたという可能性はない。

 考えられるとすれば、内圧を高く設定してしまった可能性だ。

 タイヤウォーマーを使用して70度に熱した状態で使うドライタイヤや60度のインターミディエイトタイヤとは違い、タイヤウォーマーを使用しないウェットタイヤには比較的低い内圧が指定されている。走行によりタイヤ温度とともに内圧も上がるため、最終的には同じような内圧に至ることになるからだ。

 もしインターミディエイトタイヤ用の内圧を設定してしまったとすれば、規定の最低内圧に違反することはなく、本来よりも大幅に高い内圧で走ることになる。今回の場合はフロントが24.0psiのはずが29.0psi、リアは21.0psiのはずが26.5psiという大きな差だ。

【あえて全面的に公表した意味】

 内圧が高ければタイヤは膨らみ、接地面積は小さくなる。

低グリップでタイヤに負荷をかけにくく、なおかつゴムが変形しない分だけ発熱も減って、温度の上昇も遅かったものと思われる。

 ふだんはウェットコンディションで使われるのはインターミディエイトタイヤであり、赤旗やセーフティカーが出されるような悪天候でしか履かないウェットタイヤを競技で使うことは極めて稀(まれ)だ。今回の内圧設定ミスもそういった環境のなかで起きてしまったのだろうが、チームとしては絶対にあってはならない。

 角田の足を引っ張ろうというような陰謀論は、チームにとってもマックス・フェルスタッペンのタイトル争いにとっても、何のメリットもないどころかマイナスでしかないため、非論理的であり論外だ。それでも、本来ならば内々で処理してドライバーに謝罪すれば済む事案を、こうしてメキース代表があえて全面的に公表したことの意味は大きい。

 予選19位という結果は、角田のパフォーマンス不足ではなくチームのミスのせいだったと明示して、角田の評判を守った。ここ数戦のミスの連続に、悪い意味でうがった見方をする声も少なくないなかで、あえてチームに批判が向くようなこの事実を公表したのは勇気の要ることだったはずだ。実際にチームへの批判は強かった。

 それでも、ドライバーの尊厳を守ってやりたいというチーム代表の存在は、角田にとって心強い。

 角田はドライコンディションのFP1で3番手タイムを記録しており、マシンに好感触をつかんでいた。FP2は赤旗、FP3と予選は雨絡みで誰も十分な走行ができていないなか、決勝での挽回をあきらめる理由はなかった。

◆つづく>>

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