現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 レアル・ソシエダはラ・リーガ5戦連続無敗で、9位に浮上と好調を維持。そうしたなか久保建英にはまた移籍の噂が出た。

スペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、移籍の可能性について言及してもらった。

【ビッグクラブへ移籍の噂】

 久保建英がレアル・ソシエダを退団する可能性をめぐる噂や報道は絶えることがない。すべてが順調で、彼自身が残留を望んでいると発言した時でさえ、それらが止むことはなかった。

久保建英のビッグクラブ移籍ははたして成立するのか 地元スペイ...の画像はこちら >>
 久保は国際的な選手であると同時に、世界的な影響力を持ち、メディアの注目度が非常に高い選手でもある。彼は母国で模範的かつアイドル的な存在であり、サポーターの多くは、彼がベストの選択をすること、ベストだと思われることを強く望んでいる。

 そんな久保に対して最近、イングランドからの関心が再燃した。今回はこれまでと違い、権威や信頼性のないメディアやタブロイド紙ではなく、大手メディアであるBBCが間もなく始まる冬の移籍市場に向けて、あるクラブが久保に強い関心を示していると報じたのだ。

 そのクラブとは、財政面や競争力、メディアの注目度において、プレミアリーグのビッグ6の一角を占めるトッテナムである。トーマス・フランク監督は厳しいシーズンの後半戦に向け、センターフォワードとウイングの補強で攻撃力を高めたいと考えている。昨季のヨーロッパリーグ優勝によりチャンピオンズリーグ出場権を獲得し、プレミアリーグで上位入りを狙うこのロンドンのクラブは、久保を獲得候補リストに載せている。

 しかしそのことを手放しで喜んではいけない。才能ある選手にとって、経済力のあるクラブへの移籍が次のステップとしてベストの選択肢だ、と安易に判断するのは危険である。スペインで期待の新星として頭角を現したブライアン・ヒル(現ジローナ)を思い出してほしい。

 彼は若くしてトッテナムに移籍したがうまく適応できず、チャンスを与えられなかったため、キャリアが停滞してしまった。世界的なスターになることを約束されていたが、成功も信頼も得られないままレンタル移籍を繰り返すことになったのだ。

 トッテナムが久保の契約解除金6000万ユーロ(約108億円)の支払いを検討する可能性はあるだろう。なぜならそれが唯一、久保自身の同意を得てラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)から引き抜く方法だからだ。

 しかし、久保はすばらしい選手だが、ロングボールを多用してセカンドボールを狙い、長年率いたブレントフォードをプレミアリーグで最も伝統的なチームへと変貌させたトーマス・フランクのダイレクトで英国的なサッカーに、彼のプレースタイルが適合しているとは言えない。

【契約解除金の内容】

 また、久保の移籍に関して、レアル・マドリードがキャピタルゲイン(購入価格と売却価格の差による収益)の50%を受け取る権利を保有していることは周知の事実だ。そのため、ラ・レアルは値下げ交渉に応じるつもりはないだろう。満額で売却しても得られる移籍金は3300万ユーロ(約59億4000万円)程度だ。これはラ・レアルにおける久保の存在価値を考えるとかなり低い金額である。

 久保の契約解除金が決して安くないことに加え、昨年2月に2029年まで契約更新していることから、ラ・レアルは今回の報道を冷静に捉えている。

 また、彼のこれまでの姿勢や最近の発言を考慮すると、まだ発展途上のチームで、彼自身が確固たる自信を持てていない厳しいシーズンの真っ只中に、ずっと幸せを感じていた船から下りるというのは現実的ではない。さらに移籍金の全額が恩義のあるクラブに入らないことを考えるとなおさらだ。

 そのため冬にラ・レアルを離れる可能性は非常に低いだろう。

一方、この日本のスター選手の去就をめぐる物語は来夏、より複雑な新しい章を迎えると私は予想している。

 契約は2029年まで残るが、来季以降の去就は不透明だ。彼が今季をよりよい形で終えられるのか、それともゴンサロ・ゲデスやアンデル・バレネチェアの控えになるのか、今後の状況を見ていく必要があるだろう。来シーズン開幕時に久保が控えになっていたらかつてなら驚きだっただろうが、今はそれほど非現実的な話ではない。

【4人のウイングのなかでの争い】

 日本代表で2戦連続の先発出場を果たした久保は、サン・セバスティアンに戻って最後にチーム練習に復帰した選手となった。疲労や時差ぼけでほとんど準備期間のないなかで、エル・サダールの厳しいピッチでのオサスナ戦に臨まざるを得なかったため、ベンチスタートとなったことはまったく不思議ではなかった。

 後半15分にバレネチェアと同時にピッチに入り、及第点のプレーを披露した。右サイドでブライス・メンデスやカルロス・ソレールと2、3回面白い連係を見せ、ペナルティーエリア手前からシュートを放ち、終盤には試合を締めくくるためにボールをキープしていた。

 セルヒオ・フランシスコ監督は試合後の会見で、オサスナ戦で起用した4人のウイングについて、「ふたり(ゴンサロ・ゲデスとアルセン・ザハリャン)はゴンサロのゴール直前に交代させる予定だった。サイドでプレーした4人は皆、脅威となるプレーを見せてくれたと思う。バレネチェアとタケは常に相手を脅かす選手であり、相手もそれを実感している。我々には密接に連係してプレーすれば、ダメージを与えられる力を持つ選手たちがいる」と全体的に高評価していた。

 チームがいい流れにあるなか、監督はラ・リーガ3位と好調のビジャレアルとの次戦に向けて、4人のウイングのうちのふたりをスタメンに選ぶという難しい決断を下さなければならない。

 久保はラ・レアルでスターとしての活躍を常に求められているにもかかわらず、今季ここまではいいパフォーマンスを発揮できていない。シーズン終わりにはワールドカップを控えている。だからこそ、これまで以上にステップアップして、皆にその実力を示す必要がある。

髙橋智行●翻訳(translation by Takahashi Tomoyuki)

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