Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由

サンフレッチェ広島 ヴァレール・ジェルマン インタビュー 後編

今のJリーグでは、さまざまな国からやってきた多くの外国籍選手がプレーしている。彼らはなぜ、日本を選んだのか。

そしてこの国で暮らしてみて、ピッチの内外でどんなことを感じているのか──。今回はサンフレッチェ広島のヴァレール・ジェルマンに話を聞いた。華やかなキャリアを持つフランス人アタッカーの横顔に迫る。

【広島で輝く若手がこのまま成長していけば...】

「ヨウタロウ、ソウタ、サトシ......同じチームのロッカールームにも、将来に期待できる若手はいるよ。10代や20代前半のチームメイトたちだが、練習でも試合でも彼らのクオリティーには驚かされてばかりだ」

 19歳の中島洋太朗、23歳の中村草太、23歳の田中聡──ヴァレール・ジェルマンが称えるサンフレッチェ広島の若手だ。彼らを間近で見て、共にピッチに立ってきた35歳のフランス人アタッカーはこう続ける。

ジダンに憧れたジェルマンがストライカーとして活躍できた理由を...の画像はこちら >>

「3人ともすばらしいシーズンを過ごした。今季のハイパフォーマンスを継続できれば、欧州のトップリーグでも通用するようになると思う。もちろん、海外で成功を収めるにはさまざまな要素が必要になるが、もし彼らがその能力を十全に発揮できたなら、フランスでも活躍できるはずだ」

 このうち、田中は2022-23シーズンに湘南ベルマーレからベルギーのコルトライクへ期限付きで移籍した経験を持つ。序盤戦こそレギュラーを務めていたものの、徐々に出番を失っていき、正式契約には至らず1年で帰国している。生まれ故郷を離れて3年目を迎えているジェルマンも、海外でプレーする難しさを感じることはあるという。

「当たり前だけど、外国でプレーするのは簡単ではない。知らない世界、初めてのチーム、初対面の人々とうまく順応しなければならないし、言葉が通じないのはストレスになる。

自分も、広島に来たばかりの頃は何かと不都合を感じたよ。オーストラリアは英語圏だけど、日本には英語を話す人があまりいない。通訳の方がいてくれるから、不自由はそれほどなかったけど、やはり自由に会話ができないと、色々なものを溜め込んでしまうことにもなるから」

【日本のサポーター文化を賞賛】

 そんな時にジェルマンを支えたのは、広島のファンの声援だ。彼が長くプレーしたモナコはそもそも住民が少ないうえ、フットボールに興味を持つ人も多くなく、ホームスタジアムに5桁の観客はなかなか入らない。マルセイユには熱狂的なサポーターがいたが、彼らは時に熱くなりすぎるきらいがあった。ジェルマンは言う。

「もちろん日本のファンにも熱い人はいるが、節度を守って応援してくれる。あとは概して穏やかな人々だ。相手の選手やサポーターにも敬意を払う人が多く、不穏な空気を感じることはほとんどない。

 だから日本のスタジアムは、声を出して応援してくれる人だけでなく、子どもや女性、家族と、誰もが楽しめる場所になっている。雰囲気も最高だ。これは本当にすばらしいことだと思う。フランスでは、こうはいかないよ。

基本的にフットボールのスタジアムは男たちの場所だ。相手の選手やサポーターは敵だから、悪態をついたり、野次を飛ばしたりする対象で、仲良くなるようなことはほとんどない」

 1990年にマルセイユで生まれ、フランスで育ったジェルマンにとって、8歳の時に自国開催のW杯で世界一になったフランス代表のエース、ジネディーヌ・ジダンは同郷でもあり、特別な存在だ。またマルセイユでリーグ・アンを3連覇した父ブルーノには、最も大きな影響を受けた。

 ただし父はセントラルMFで、ジェルマンの独特な得点感覚やポジショニング、間の取り方は、彼に教わったものではないと思える。憧れたジダンにしても、攻撃的なMFだった。

「フットボールは自由なスポーツだから、とにかく"見て盗む"ことが大事だと思う」とジェルマンは言う。

「自分はジダンに憧れ、父が最初のコーチだったけれど、彼らとは違ってストライカーを目指したので、我流で今のスタイルを築いたんだ」

 広島に加入して最初の試合となったACL2のライオン・シティ・セイラーズ戦でのヘディングのゴールや、湘南ベルマーレとのリーグカップ準々決勝第2戦の後半途中に投入され、追加タイムに頭で決めた決勝点を見るかぎり、密集地帯で瞬時にフリーになれる稀有な能力がジェルマンには備わっているようだ。参考にした選手は、フィリッポ・インザーギとか?

【将来は強化担当として日本人選手を欧州へ?】

「いや、特別に誰というのはないが、良い選手の動きはすぐに試すようにしてきた。今なら、トッププレーヤーのプレーが簡単に見られるのだから、僕らの時代よりも随分楽に研究できると思う」

 このスポーツをプレーしたことのある人ならわかるはずだが、ペナルティーエリア内で瞬間的にボールを頭や足でとらえてゴールを奪ったとき、どうしてそんなことが起きたのか一瞬、わからなくなることがある。

 ただ、できた。なぜかはよくわからないけれど。

 コーナーキックからのヘディングを決めた時、キッカーがボールを蹴った次の瞬間、自分の頭の前でボールが弾けてゴールになっていた──そんなことが何度かあった。

 そうした得点者の勘とか間のようなものを研ぎ澄ませていった形が、ジェルマンの身上のひとつなのだろう。特別に身体能力に恵まれているわけではないが、感覚的にゴールを奪うストライカーの極意──そんなものがあれば、後進に伝えてほしいものだが、彼は率直にこう応じた。

「35歳という年齢を考えれば、もうこのレベルのフットボールを長く続けるのは難しいと思う。でも現役引退後は家族と過ごす時間を長く作りたいので、監督やコーチをするつもりはないんだ。フットボールは大好きだけど」

──フットボール・ディレクターなど、また違う形でもこの競技に携わることはできます。

「そうだね。実際に、興味深い仕事だと思う。私の街、モナコでは今、ミナミノ(南野拓実)が活躍している。彼こそ、日本人選手の高いクオリティーを証明している選手だ。私は個人的にも日本の選手の優れた能力を知っているから、もし本当にそんな職務に就くことになれば、少なくとも2、3人は日本人選手をヨーロッパに連れていくよ」

 ジェルマンはにこやかに、また同じフレーズを口にした。

(了)

前編 >> 今季Jリーグ随一のキャリアを誇るジェルマンが日本のレベルの高さに驚愕「大きな可能性がある」
中編 >> エムバペの覚醒を間近で見たジェルマンがモナコでのあのシーズンを振り返る「かけがえのないもの」

ヴァレール・ジェルマン Valère Germaim
1990年4月17日生まれ、フランス・マルセイユ出身。元フランス代表のブルーノ・ジェルマンを父に持ち、モナコの下部組織からファーストチームに昇格した。

2016-17シーズンには当時10代のキリアン・エムバペらと共にリーグアンを制し、チャンピオンズリーグのベスト4に進出。その後、マルセイユ、モンペリエ、マカーサーFC(オーストラリア)を経て、今年2月にサンフレッチェ広島に加入した。

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