石川祐希のAttack The World vol. 15
今夏、2028年ロサンゼルス五輪に向けた、男子バレー日本代表の新たな旅路が始まった。五輪の頂点を知る新指揮官ロラン・ティリ氏を迎えた新チームの中心にいたのは、もちろん主将の石川祐希だ。
【昨季のチームとの違い】
――次の五輪に向けた新たな戦い、石川選手はどのようなテーマを持って臨みましたか?
「選手は大幅に変わっていないとはいえ、監督が変わればいろいろとやり方は変わります。ティリ監督は以前からコミュニケーションを取ったことがありましたが、一緒に練習したことはなかったので、『まずは、どんな監督なのか探りながらやってみよう』と考えていました。こちらからはあまり要求せず、言われたことをしっかりやってみる、というスタンスですね。1年目は何かアクションを起こすのではなく、監督の言うことや、やり方を全部受け入れる感覚です。僕個人としては、それをテーマにして臨みました」
――以前も、ティリ監督が求めるバレーボールを理解することが重要になる、と話していました。監督が求めるバレーボールはどういうものだと感じましたか?
「求めるものは、(フィリップ・)ブラン前監督の時とあまり変わらないと思います。やはり日本はディフェンスで勝負するチームなので、パスの返球率やディフェンスが求められました」
――ブラン前監督は、基本的には数字やデータに重きを置いて戦術を練るタイプでしたが、その部分に違いはありましたか?
「そこはちょっと違いましたね。ブラン前監督のほうが、データや戦術に関しても細かかったし、決まりごとが多かったです。『こうなったらこうする、ああなったらこうする』ということが明確にされていた感じですね。ティリ監督はどちらかというと、コートに入っている選手の感覚を大事にするタイプでした。
ただ、(現在自分がプレーする)イタリアでも決まりごとがけっこう多いので、『自由すぎるんじゃないか』と感じた部分もあります。
――それは来年以降、チームが練られていけば解消できそうですか?
「そこは、まったく問題ないです。僕も、監督に対して『こうしよう』というアクションは起こすのは1年やってみてからでいいかなと思っていたので、来シーズン以降に調整していけるんじゃないかと思います」
【「雰囲気がちょっと緩んでいた」】
――石川選手は代表の活動がスタートしてからも、ペルージャでトレーニングを積んでいて合流が遅くなりました。その影響はありましたか?
「昨季もネーションズリーグの1週目はパスしているので、難しさはあまり感じなかったですね。チームに対しての働きかけとか、チームへの馴染み方とか、そういった部分で苦労はしていないです。ただ、昨季はペルージャでケガが多かったので、イタリアでトレーニングをしていた期間はボールに触りませんでした。代表に合流してから、すぐにボールを使った練習をして、試合にも出て、といった新たな調整法を学べました」
――ネーションズリーグは今年も決勝トーナメントに進みましたが、初戦でポーランドに敗れました。
「今季、ポーランドと戦うチャンスは(ネーションズリーグと世界選手権で)2回あると考えていました。結果的に世界選手権では対戦できませんでしたが。ポーランドのような世界トップのチームに勝っていくことが僕たちの成長につながると思っていたので、ネーションズリーグで対戦できたのはいいことでしたね。
第1セットを23-25、第2セットを24-26で落としましたが、いい勝負ができました。結果的にストレートで負けたとはいえ、次につながると思います。僕は決勝トーナメントの1週間前にケガをしてしまい、試合前日まで6対6の練習に入ることができなかったので、いろいろとチームには迷惑かけてしまいました。
――そして今季、最大の目標に掲げていた世界選手権。初戦のトルコ、続くカナダにも負けて1次リーグ敗退となってしまいました。
「負けたことに関してはもちろん悔しいです。ですが、『負けるべくして負けた』と思っています。結果が出てからの後づけになってしまいますが、かなりいい練習ができていたか、と言われると、そうではなかった。雰囲気がちょっと緩んでいたところもあって、それが試合に出てしまったと思います。そこに関しては、キャプテンの僕が詰めていかないといけなかったので、甘かったです」
【キャプテンとしてやるべきこと】
――大会では、世界の各チームも進歩している印象を受けました。日本がディフェンスを武器にして勝ってきたなかで、海外もディフェンスのレベルが上がっているように感じます。
「間違いなく各国のディフェンス力は上がっています。どのチームもボールを拾うようになってきたのは、試合をしているなかでも感じました。ただ、決して僕たちのディフェンスが悪くなったわけではない。
――世界の進歩というよりも、自分たちのプレーのクオリティが少し悪かった、ということでしょうか。
「両方ですね。僕たちの立ち位置も変わってきています。以前は僕たちが下に見られていましたが、"強い"と認められはじめたことで、思いっきりぶつかってくるチームが増えてきました。特に(世界選手権で戦った)トルコやカナダからはそんな気迫を感じました。逆に僕たちは、受け身になってしまった。アグレッシブさが欠けていた。相手が乗ってきた時に、跳ね返すだけの力がありませんでした。こちらも、もっと質を高めてくことができたと思います」
――石川選手は、「ロサンゼルス五輪までの4年間で大事になるのは、世界のベスト4にコンスタントに入っていくこと」とおっしゃっていました。
「練習の取り組み方です。今季も悪いわけではなかったですが、雰囲気の作り方はキャプテンとしてもうちょっとうまくやっていかないといけない。
あとは監督とのコミュニケーション。監督が求めるものに対し、僕たちが今まで積み上げてきたものをどうやってマッチングさせるか。いい方向にチームを持っていくことが僕の大事な役割です。今季は監督に対して、自分たちから『こう思っている。こうしたい』という話はしなかったですが、来季は監督の求めることを受け入れる部分と、自分たちが主張することのバランスの取り方、話し合いも大事になっていくでしょう。
あとは、ずっと言っていることですが、個人の能力向上はもっともっと必要だと感じています。世界選手権で勝ち上がったチームを見ても、イタリアやポーランドのリーグで主力として活躍している選手が、代表チームでもしっかり力を出して戦っていました。トルコ、ブルガリア、ベルギー、ポルトガルなどもそうですね。
一方で日本は、国内のリーグでプレーしている選手もいれば、海外のリーグでやっている選手もいます。個人能力を上げようと思ったら、それぞれがプレーしているリーグで活躍できるようにならないといけません。
――そこが噛み合えば、来季はベスト4に食い込むことができるという手応えがあるのでしょうか。
「あります。今季は特に、チームとして攻撃の面で苦労したので、もうちょっと積み上げていかなければいけないですね」
(連載16:イタリア11季目の石川祐希は「スタメンにこだわらない」 誕生日を目前に30代の目標も明かした>>)
【プロフィール】
◆石川祐希(いしかわ・ゆうき)
1995年12月11日生まれ、愛知県出身。イタリア・セリエAのペルージャ所属。星城高校時代に2年連続で三冠(インターハイ・国体・春高バレー)を達成。2014年、中央大学1年時に日本代表に選出され、同年9月に代表デビューを飾った。大学在学中から短期派遣でセリエAでもプレーし、卒業後の2018-2019シーズンからプロ選手として同リーグで活躍している。2021年には日本代表のキャプテンとして東京五輪に出場し、29年ぶりに決勝トーナメントに進出。2024年のパリ五輪でもキャプテンとしてチームをベスト8に導いた。
公式X:@yuki14_official>> 公式Instagram>>



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