MLBのサムライたち~大谷翔平につながる道
連載21:齋藤隆
届かぬ世界と思われていたメジャーリーグに飛び込み、既成概念を打ち破ってきたサムライたち。果敢なチャレンジの軌跡は今もなお、脈々と受け継がれている。
MLBの歴史に確かな足跡を残した日本人メジャーリーガーを綴る今連載。第21回は、36歳で迎えたルーキーイヤーから7年間メジャーで生き抜いた齋藤隆を紹介する。
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【ルーキーシーズンの巡り合わせ】
「外野にあるブルペンから、マウンドに向かって走っていく時の芝生の感触をよく覚えています。なんだかふわふわして、雲の上みたいで」
齋藤隆がメジャーリーグのマウンドに初めて上がったのは、2006年4月9日のことだった。36歳のオールドルーキーである。
齋藤は2005年のオフ、メジャーリーグ挑戦を入団以来お世話になってきたベイスターズの幹部に伝えた。
「もしも、移籍がうまくいかなかった場合、またベイスターズでお世話になれれば、とお話しさせていただいたんですが、どうやら僕の場所はないようでした。これは本当に退路を断たれたな、と」
どうにかロサンゼルス・ドジャースとマイナー契約を結び、スプリングトレーニングには招待選手として参加した。背水の陣である。
「最初、しくじりました。日本では年齢が序列を決めますよね。メジャーは違うんです。メジャーでの経験年数がすべて。
オープン戦では尻上がりに調子を上げていったが、開幕はAAAで迎えることになった。
「そのあたりは契約社会なんですよね。開幕時は、メジャー契約が優先される。これも勉強になりました」
ところが、開幕してクローザーのエリック・ガニエが故障すると、すぐさまコールアップ。ひとりで飛行機に乗り、4月9日にフィラデルフィアで初登板(対フィリーズ)となった。4月は12試合でわずか1失点。5月になるとクローザーを任されるようになり、15日には初セーブをマークする。好調の理由はなんだったのか。
「日本にいる間は、肘の故障に苦しんでいました。ずっと、痛みから逃れられない感じで。ところが、ロサンゼルスの気候は温暖で、おそらくそれが修復に役立ったんじゃないかと思います。
このシーズン、齋藤は24セーブをマークするが、忘れられない試合があるという。
「この年は、(サンディエゴ・)パドレスとのポストシーズン進出争いが激しくて、9月は本当にどちらも譲らない展開。9月18日のパドレス戦で、1点ビハインドの展開でマウンドに上がったんですが、3点取られてしまった。申し訳なくて。ところが9回裏に、ジェフ・ケント、JD・ドリュー、ラッセル・マーティン、マーロン・アンダーソンが4者連続でソロホームラン。4者連続ですよ。そんなの、想像できますか? アメリカって、こういうことが起きるんだって、思いました」
ところが、ドジャースは10回表に勝ち越しを許してしまう。そのとき、齋藤に声をかけてきたのがノーマー・ガルシアパーラだった。
「ノーマーが言うんです。『齋藤、今シーズンは、君がここまで俺たちを連れてきてくれた。今日は俺たちが君を助ける番だ』。そう言って、サヨナラ2ランホーマー。
ルーキーシーズンのデータで圧巻だったのは、奪三振107個に対して与四球は23個、78回を投げて被本塁打はわずか3本。抜群の安定感を見せた。
【メジャーで成功した大きなカギ】
2007年もクローザーとして活躍し、オールスターに選出され、シーズントータルで39セーブを挙げたが、驚くべきはWHIP(1イニングあたりの被安打と与四死球の数)が0.715であること。この数字は滅多にお目にかかれない。ほとんど走者を許すことなく、「ワン・ツー・スリー」、三者凡退で試合を締めくくっていたことになる。
2009年は契約延長を勝ち取るも、右肘の故障があり、戦線離脱をする期間ができてしまった。しかし、ドジャースでの齋藤の落ち着き、活躍を他の球団は見逃さなかった。
その後、ボストン・レッドソックス、アトランタ・ブレーブス、ミルウォーキー・ブリュワーズ、アリゾナ・ダイヤモンドバックスのユニフォームを着た。36歳のオールドルーキーは、42歳までアメリカでプレーした。そして2013年からは日本に戻り、生まれ故郷の仙台に本拠地を構える楽天で45歳までプレーしたのである。
それが可能になったのは、齋藤のスライダーは、今でいう「スイーバー」に該当するほど、大きな変化を見せていたからだと思う。
「ベイスターズの時は、スライダーにそれほど自信を持っていたわけではなかった。
ところが、メジャーの打者は齋藤のスライダーをとにかく追いかけてきた。
「振ってくるので、空振りが取れた。シーズンが進むにつれて『これは使える。これで生き残れる』と思いました」
日本でプレーしている時よりも、曲がり幅が大きくなっていたのだ。その一因として、「個人的な見解ですが」として、齋藤はボールの質の違いを挙げた。
「メジャーのボールはひと回りとまでは言いませんが、大きめだなとは感じていました。縫い目も粗く、糸も太く、糸穴も大きかった気がします。いろいろな要素が重なって空気抵抗が大きくなり、曲がり幅が大きくなったのかもしれませんね」
アメリカはオールドルーキーにとって、まさに新天地だったのだ。
【Profile】さいとう・たかし/1970年2月14日生まれ、宮城県出身。東北高(宮城)―東北福祉大。1991年NPBドラフト1位(横浜大洋)。2006年2月にロサンゼルス・ドジャースと契約。
●NPB所属歴(16年):横浜大洋(1992~2005/93~横浜)―東北楽天(2013~15)
●NPB通算成績:91勝81敗14ホールド55セーブ(403試合)/防御率3.75/投球回1575.0/奪三振1331
●MLB所属歴(7年):ロサンゼルス・ドジャース(2006~08/ナ)―ボストン・レッドソックス(2009/ア)―アトランタ・ブレーブス(2010/ナ)―ミルウォーキー・ブリュワーズ(2011/ナ)―アリゾナ・ダイヤモンドバックス(2012/ナ) *ナ=ナショナル・リーグ、ア=アメリカン・リーグ
●MLB通算成績:21勝15敗84セーブ39ホールド(338試合)/防御率2.34/投球回338.0/奪三振400 プレーオフ(4年/2006、08、09、11)=1勝0敗2ホールド(10試合)/防御率1.69/投球回10.2/奪三振9










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