福田正博 フットボール原論

■J1は鹿島アントラーズの9年ぶりの優勝で幕を閉じた。2位は柏レイソル

3位に京都サンガF.C.。上位3チームはそれぞれ監督のすばらしさがあった。福田正博氏が解説する。

【優勝の鹿島。鬼木監督の見事な戦いぶり】

 鹿島アントラーズが9年ぶり9度目のJ1王者に輝いた。

 最優秀選手賞にGKの早川友基が輝き、ベストイレブンは早川のほか、DF植田直通、FWレオ・セアラが受賞した。そして、この結果へと導いた鬼木達監督は、優勝監督賞を手にした。

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 鬼木監督は鹿島での優勝でJ1優勝回数は歴代最多の5度目。初めて2つの異なるクラブを率いてJ1制覇を成し遂げた監督になった。就任1年目にして見事な戦いぶりだった。

 鬼木体制になった今シーズンの鹿島の粘り強さには、何度も驚かされてきた。6月の第20節サンフレッチェ広島戦では0-1から90+2分にレオ・セアラのゴールで追いつき、7月の第24節柏レイソル戦では2度リードを奪いながら相手に追いつかれたが、終了間際に松村優太が決勝ゴール。

10月の第35節京都サンガF.C.戦でも0-1とリードされたなか、90+6分に鈴木優磨の同点ゴールで引き分けに持ち込んだ。

 選手としてプレーしたクラブに監督として復帰した初年度で優勝した鬼木監督だが、順風満帆にシーズンを送ったわけではない。鹿島は今季3連敗を2度も喫している。普通なら3連敗もしたらズルズルと順位を下げるし、それが2度もあったなかで、しっかりとチームを立て直して優勝した。

 鬼木監督とは印象的な出来事があった。試合中継の解説を担当した試合後、東京に戻る新幹線が鬼木監督と同じになった。挨拶をし、それぞれの車両で帰ったのだが、駅についてホームに降りると鬼木監督が私を待っていた。

 自分のサッカーが私の目には「どう映っているのか」と訊ねられたのだ。川崎フロンターレを率いた頃から鬼木監督を取材することはあっても、個人的なつながりはない私にも見解を訊ねてくる鬼木監督の姿勢をみて、結果を残す監督というのは「聞く姿勢があるんだな」との思いを強くした。これは日本代表の森保一監督も持ち合わせているものでもある。

 監督になる人物はそれぞれ強いサッカー観があるのは当たり前のこと。鬼木監督にしろ、森保監督にしろ、そこにこだわりは持ちながらも、固執せずに他者の意見を求める貪欲さがあるのだろう。

だからこそ、優勝という結果にチームを導けるのだと思う。

 最優秀選手賞やベストイレブンについていえば、鈴木優磨の名がなかったのが残念だ。今季の鹿島を見れば、確かに早川友基や得点王になったレオ・セアラは目立つ存在だった。しかし、鹿島というチームが勝利に貪欲で粘り強く戦えたのは、間違いなく鈴木優磨がいたからだ。彼のリーダーとしての覚悟の部分をもっと評価してもらいたかった。

【柏のV字回復は監督と選手の相互理解】

 2位の柏は、昨季まで残留争いをしていたチームが見事なV字回復をしたと思う。開幕前からリカルド・ロドリゲス監督のサッカーと柏というチームの相性のよさから躍進を予想してはいたが、最終盤まで優勝争いを演じるとは思いもしなかった。

 その要因には、リカルド監督が長くJリーグで指揮してきたことで、監督が選手たちの特徴を把握していて、選手たちもまた監督がやりたいサッカーを理解していたことがあるだろう。だから就任1年目ながら結果が出せたのだと思う。ボールポゼッションは50%を超え、アクチュアルプレーイングタイムも長い。自分たちが主導権を握って試合を進めることを勝ち点獲得につなげていた。

 ただ、最終的な勝ち点は柏が75で、優勝した鹿島は76。勝ち点1差にフォーカスすれば惜しかったとなるものの、結局のところJ1優勝ラインをクリアできなかったからという見方ができる。

 J1の優勝ラインというのは、消化試合数で得られる最大勝ち点の2/3が目安になる。10試合終了時点なら最大勝ち点30の2/3にあたる勝ち点20、20試合終了時なら最大勝ち点60の2/3にあたる40点といった具合に勝ち点を積み上げ、全38試合終了時点で最大勝ち点114の2/3にあたる勝ち点76以上になっていれば栄冠に手が届く。もちろん、混戦なら優勝ラインが下がることもあるが、1シーズン制で優勝争いが2、3チームの場合、基本的にはこの優勝ラインから外れることはない。

 柏の引き分け数12はリーグ最多タイで、5敗はリーグ最少だったが、これこそがV字回復できた要因であり、優勝に届かなかった課題でもある。

 シーズン当初にリカルド監督が意識していたのは、優勝ではなく残留以上の結果だったはずだ。そのため前線から激しいチェイスで守備を助ける垣田裕暉をスタメンに据えたのだろう。垣田を1トップで29試合に先発させた(今季6得点)ことで、チームは5敗しかしなかったのだと思う。

 一方、優勝争いの大詰めの終盤2試合で先発に起用されたのは、細谷真大だった。逆転優勝にゴールが最低条件のなか起用された細谷は、第37節で期待に応えてハットトリックを達成(今季11得点)。ただ、シーズンを通じて先発起用されたのは13試合だった。

「たら・れば」の話をしたいわけではない。あくまで数字に過ぎず、時期ごとに選手のコンディションやパフォーマンスは一定ではない。

細谷をもっと先発させていたら得点シーンは増え、勝ち点を伸ばせたかもしれないが、敗戦数が増加した可能性もある。V字回復は垣田がいたからであることは間違いない。

 ただし、今季の成績を受け、周囲の柏に対する期待はハードルが高まり、「次は優勝だ」となるのが世の常である。そうしたなかでリカルド監督がどういう意識で来季のシーズンに臨むのかは興味深い。今季と同じように中位を目指しながら最終的に上位進出のチャンスを伺うのか、それとも優勝を意識した戦いをするのかは、いまから注目している。

【京都の3位躍進に監督の変化あり】

 クラブ史上最高成績の3位になった京都には、「よくやった!」と言いたい。

 曺貴裁監督は現役時代に一緒に浦和でプレーし、指導者になってからも親交が続いているが、今季は開幕前に「変わったな」と感じていた。「ラファエル・エリアスには自由を与えたほうがいい」と話していたからだ。

 以前までの曺監督なら、FWに得点力がどれだけあっても、守備を怠ることは譲らなかった。変化のきっかけは2020年、2021年に京都に所属したピーター・ウタカ(現栃木シティ)が、守備はしなくともゴールという結果を残したからだろう。昨季途中から加入したラファエル・エリアスも圧倒的な得点力を持っていたことで、守備の部分は目をつぶっても、得点力が最大限に生きるようにと柔軟に対応した。

 言葉にするのは簡単だが、一家言を持つのが監督であり、その最たるものが曺監督だったことを知る者としては、懐が深くなったと感じた。

もちろん、それ以外の選手たちに求めるハードワークに妥協はない。シーズン途中にキャプテンでボランチの川﨑颯太がマインツへ移籍するなど戦力的に厳しい状況になりながらも、最後まで粘り強く戦ってクラブ史上最高の3位を手にした。

 曺監督は来季の続投も決まっている。ラファエル・エリアスも複数年契約しているため来季もプレーする予定だ。日本人選手たちも曺監督のサッカーを理解している選手たちが集まっている。来年でJリーグ参入30周年を迎える京都が、さらにハードに、さらに成長した姿を見せてくれることを楽しみにしている。

 そのほかのチームに対しても思うところはあるが、シーズン序盤から苦戦した横浜F・マリノスと、戦力的に厳しかったなかで東京ヴェルディがJ1に残留できたことは、本当に喜ばしい。なぜなら、来季はジェフユナイテッド千葉が17年ぶりにJ1に帰ってくるからだ。

 Jリーグ創設時の「オリジナル10」が揃い、リーグは秋春制への最初のシーズンに挑む。Jリーグ黎明期にプレーした者にとっては、感慨深いシーズンになりそうだ。

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