全日本フィギュア プレビュー 女子シングル編

 ジュニア時代からトリプルアクセルを武器にしていた17歳の中井亜美(TOKIOインカラミ)がシニアデビューの今季、ブレイク。初挑戦のGPシリーズ・フランス大会でいきなり坂本花織(25歳/シスメックス)を破って初優勝し、12月上旬のGPファイナルでも日本勢トップの2位と日本女子に新風を吹き込んでいる。

 ミラノ・コルティナ五輪代表がかかった12月19日開幕の全日本選手権では、中井の躍進が続くかという点に加え、GPファイナルで悔しい思いをした坂本と千葉百音(20歳/木下グループ)がその後の10日間でどこまで調子を戻してきているかが注目ポイントだ。

女王・坂本花織に衝撃デビューの17歳・中井亜美が挑む 五輪代...の画像はこちら >>

【優勝候補筆頭は坂本花織】

 三つ巴の戦いが予想されるなかで、中心になるのは豊富な経験を持つ坂本だろう。現役ラストシーズンと明言して臨んでいる今季、坂本は「伸びのあるスケーティングやパワフルなスピード感を見せたい」と本来の自分らしさを追求するプログラムで勝負をしている。

 6月のアイスショー「ドリーム・オン・アイス」でショートプログラム(SP)とフリーの新プログラムを披露するという早い準備をし、基盤をじっくりと作り上げる意識を持っていた。

 9月のチャレンジャーシリーズ(CS)・木下グループ杯は、SP、フリーともにミスが出て203.64点で千葉に13点近く差をつけられる2位。GPシリーズ初戦のフランス大会も2位ではあったが、224.23点とこれまでのシリーズ初戦に比べると高得点を出していた。

 さらに11月のNHK杯では、フリーで4分の1回転不足がひとつありながらも、フランス大会の敗因となったスピンのミスを修正し、今季世界最高得点の227.18点で優勝。GPシリーズ2戦ともに220点台に乗せたことに手ごたえを感じていた。

 GPファイナル3位の原因は、メンタルの調整がいまひとつうまくいかず、SPで最初の3回転ルッツをミスして0点になり大きく出遅れたためとはっきりしている。フリーでは全体1位の149.40点を出し、合計218.80点にして順位を上げている。

 全日本は、GPファイナルの悔しさをバネに万全な状態をつくり、これまでの経験値の高さをしっかり見せてくれるはずだ。

【衝撃デビューの中井亜美に注目】

 一方、フランス大会ではそれまでの自己ベストを20点以上更新する227.08点を出した中井のシニアデビューは衝撃的だった。今季世界最高得点の78.00点で首位発進したあとのフリーでは、最初のトリプルアクセルで手をつくミスがありながらもそのあとのジャンプはしっかり加点をもらう出来できっちりと決めきった。その溌剌とした滑りと勢いは目を見張るものがあった。

 次のカナダ大会ではSP、フリーともにトリプルアクセルでミスをし、他のジャンプもわずかなミスが出て合計203.09点で3位と心配させたが、GPファイナルでは220.89点で2位と、地力の高さを見せた。

 トリプルアクセルはGPシリーズ3戦で6本跳んだが、カナダ大会のフリーが2回転の判定となっただけで、他の5本はミスがあっても回りきっている大きな武器だ。今回の全日本は五輪がかかっていて緊張感も例年とは違うが、初挑戦で思いきっていけるだけに、坂本と僅差の優勝争いができる可能性もあるだろう。

 そのふたりに対抗する千葉は今季、GPシリーズ2試合はカナダ大会での自己ベスト217.23点を含め、2戦とも217点台と持ち前の安定感を見せていた。そして、GPファイナルのSPは顔が強ばるほど緊張したなかだったが、ノーミスの滑りで自己最高得点の77.27点を出して首位発進した。

 だが、初のビッグタイトルとともに五輪選考も意識したフリーでは緊張感が増大。最初の3回転フリップ+3回転トーループを決めたあとの3回転ループと3回転サルコウは、「繊細な微調整が足りず、タイミングが何から何までも合っていなかった」とダウングレード判定で転倒するミス。結果は総合5位と悔しいものになった。だが、転倒のあとのダブルアクセルからは加点もしっかり稼ぐジャンプにして崩れなかったのは彼女の強さの証明でもある。

 GPシリーズ2試合の217点台もともに小さなミスがあったなかでの得点だけに、220点台に乗せるポテンシャルはある。GPファイナルから精神面を立て直してくれば、坂本や中井とともにハイレベルな表彰台争いはできるはずだ。

【表彰台争いに加わる可能性があるのは?】

 五輪選考となるとこの3選手が少しリードする状況だが、それを追いかけるのがGPファイナル進出の渡辺倫果(23歳/三和建装・法政大)と、住吉りをん(22歳/オリエンタルバイオ・明治大)になる。

 渡辺の今季ベストはアメリカ大会の210.96点だが、それもフリーでは2本目のトリプルアクセルのダウングレードや他の回転不足のミスがあったうえでのもの。

フリーにトリプルアクセルを2本入れているのが強みだ。

 さらに今季のGPシリーズ、SPでは自己ベストの74.35点を含め、2戦とも74点台に乗せているのも戦いを有利に進められる条件になる。気持ちの強さでフリーを完璧にまとめられれば、表彰台争いに食い込めるだろう。

 住吉は今季、GPシリーズでは組み合わせの悪さに泣かされる結果になっている。国際大会初戦のCSロンバルディア杯では中井を抑えて209.59点で優勝。そして、GPシリーズ初戦のフランス大会は合計216.06点の高得点を出しながらも、220点台を出した中井と坂本に次ぐ3位という結果だった。

 さらにGPファイナル進出をかけたフィンランド大会では、千葉とアンバー・グレン(アメリカ)がいるなかで2位以上に入らなければいけないという状況で、SPから崩れて総合7位という結果になっている。だが4回転トーループを含めたジャンプのミスを抑えることができれば、自己ベストを超える得点も可能なだけに、悔しさをバネにした奮起を期待したい。

【島田真央をはじめジュニアも粒ぞろい】

 そんなシニアの表彰台争いに当然のように入ってくると思われるのが、初出場以来3大会連続で表彰台に上がっているジュニアの島田麻央(17歳/木下グループ)だ。昨年は219.00点で2位になっていて、その後の世界ジュニア選手権では構成要素が制限されているジュニアカテゴリーのなかでもフリーでトリプルアクセルと4回転トーループを決めて、世界2番目の得点となる230.84点を出し、1位の坂本に1.04点まで迫った。

 今季のジュニアGPシリーズは左足首のケガもあって得点を伸ばせず、UAE大会帰国後は2週間、ジャンプの練習ができなかった。それでも11月の全日本ジュニア選手権では、フリーで4回転トーループとトリプルアクセルに挑戦。

ダウングレードと回転不足で転倒する結果になったが、大会5連覇は達成。

 そしてジュニアGPファイナルではSPをノーミスの73.45点で1位発進すると、フリーでは4回転トーループを回転不足で転倒したが、冒頭のトリプルアクセルを含む他のジャンプはきっちり決めて、合計218.13点で大会4連覇を達成した。

 シニアカテゴリーの全日本ではSPにトリプルアクセルを入れられ、フリーでもステップシークエンスが入って要素が増えるだけに、優勝争いに食い込めるポテンシャルを持っている。

 またジュニアGPファイナルに進出した岡万佑子(16歳/木下アカデミー)と岡田芽依(15歳/名東FSC)、金沢純禾(13歳/木下アカデミー)もまだ自己最高得点は200点に乗っていないが、トリプルアクセルに挑戦するので注目だ。

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