■『今こそ女子プロレス!』vol.30
マーベラス 暁千華 前編
赤という色は、特別な色だ。情熱を象徴することもあれば、"赤信号"のように危険を知らせることもある。
長与が纏うその赤は、いつしか「紅」と呼ばれるようになった。その紅を継いできたのは、里村明衣子と彩羽匠だ。
今年4月に引退した里村は"女子プロレス界の横綱"。一方の彩羽は、現在の女子プロレス界において圧倒的な存在感を放つ。ふたりに共通するのは、立っているだけで空気を変えるほどのオーラ。長与の系譜で紅を纏うということは、それほど大きな意味を持つ。
そして昨年10月。その紅を、新たに背負う選手が誕生した。
暁千華――。
猪突猛進。
「9歳の時から全女(全日本女子プロレス)が大好きで、対抗戦時代のバチバチした試合を見ると、すごすぎて笑っちゃう。プロレス以外でも、本当にすごいものを見ると、人って圧倒されて笑いが出ると思うんですよ。自分も"笑っちゃうような強さ"を身に着けたいんです」
19歳、暁千華の軌跡を追った。
【9歳の時に大流血戦を見てプロレスに開眼】
暁は2006年、石川県加賀市に生まれた。県の最南端に位置し、山と海に挟まれた静かな町だ。山中温泉や片山津温泉などの観光地を抱え、四季ごとに色を変える自然に囲まれている。そんな、のどかで豊かな土地で彼女は育った。
家族は父、母、3つ上の姉。暁は子どもの頃、恥ずかしがり屋で、人前に出るのが苦手だった。
両親はのびのび育ててくれるタイプで、暁が興味を持ったことを何でも応援してくれた。ピアノを習ったのも「やってみたい」のひと言から。温かい家庭で、彼女はゆっくり自分のペースを育てていった。
幼い頃、暁にはコンプレックスがあった。太っていたことだ。小学校3年生ごろから体型が変わり始め、運動が得意ではなかった彼女にとって、とりわけマラソン大会は憂鬱だった。いじめられたわけではないが、男子にからかわれることはよくあった。
プロレスとの出会いは9歳の夜だった。なかなか寝つけずにいると、女子プロレスファンの母が尾崎魔弓と下田美馬のシングルマッチを見せてくれた。
「劣等感ではないんですけど、やっぱり『お姉ちゃんすごいね』って言われ続けてきて。自分は飛び抜けたところもなく、何もかも中途半端で、太っていて......。だから、あんなふうに必死で闘う姿が、自分に響いたのかなと思います」
翌日からインターネットで全女について検索し、YouTubeの動画を見漁った。女子プロレスと出会ったことで、胸の奥で何かがゆっくりと動き出したのを感じた。
【マーベラス入門直前に起きた能登半島地震「いつか石川でプロレスを」】
中学に上がると、姉の影響で吹奏楽部に入部した。選んだ楽器はユーフォニアム。体よりも大きく感じるほどの重厚な楽器に惹かれ、「これを鳴らしてみたい」と思ったからだ。
3年生の時、「プロレスラーになりたい」という気持ちが芽生えた。長与は中学卒業後、すぐに全女に入門している。自分も高校へは行かず、プロレスラーになろう。そう考えたが、両親に「高校だけは行きなさい」と説得されて高校進学を決めた。
高校でも吹奏楽部に入部。普通科だった暁は、音楽大学を目指す芸術コースの部員たちのなかで埋もれていた。しかし2年生の時、彼女は部員の投票で部長に選ばれる。決してしっかり者というタイプではなかったが、部内で愛されていたのだろう。およそ50人の部員を束ねる日々のなかで、自然と責任感が備わっていった。
高校時代の愛読書は、『1985年のクラッシュ・ギャルズ』(柳澤健/文藝春秋)。長与とライオネス飛鳥の内面や、その時代の変化を掘り下げたノンフィクションで、ロープに伸ばす手にまで宿るこだわりが克明に記されている。90年代の女子プロレスの"バチバチした感じ"が好きだった暁は、この本によって長与の思想に触れた。「プロレスってこういうことだったんだ!」と、プロレスの見方がガラリと変わったという。
2年生の冬、暁はマーベラスに電話をかけ、履歴書を送った。長与の団体ならば練習は厳しく、プロ意識も高いはず。そう確信していたからだ。
マーベラスを選んだ理由は、もうひとつある。2021年6月のGAEAISMを配信で見たからだ。メインイベントの6人タッグマッチ終盤、橋本千紘と桃野美桜の一騎打ちになる。身長148cmの桃野が、大柄な橋本に何度倒されても立ち向かっていく。その表情に心を打たれ、思わず涙がこぼれた。
履歴書を送ったあと、暁は母とふたりで石川から上京し、マーベラス道場を訪ねた。プロレスラーになるにはどんなトレーニングをすればいいか、丁寧に教えてもらった。運動は決して得意ではなかったが、部活終わりにジムに通い、与えられたメニューを黙々とこなすようになった。
そんななか、2024年1月1日、能登半島地震が発生した。暁の住む加賀市は県の最南端だったが、それでも震度5強の大きな揺れに襲われた。3月にはマーベラスに入門するため石川を離れることが決まっており、故郷に対して後ろ髪を引かれる思いがあったという。
「石川はまだグチャグチャな状態で、テレビでもそういう映像ばっかり流れている時期でした。そんななかで東京に行くからには、絶対にプロレスで成功して、いつか石川でプロレスをやりたいという思いがありました」
【プロテストで急きょ始まった、彩羽との一騎打ち】
マーベラス入門時、暁の体重は78kgだった。先輩たちに「体を大きくしたの?」と聞かれたが、実際には食べすぎで増えただけだったという。そこからデビューまでに15kgの減量に成功した。
入門当初は腕立て伏せもできず、スクワットは70回が限界。前転、後転はできても、倒立前転はできなかった。できないことがあると悔しく、同じ指摘をされるのが嫌で、自主練を重ねた。負けず嫌いなタイプではなかったが、入門後にその気質が芽生えていく。
先輩たちの指導は厳しい。特に桃野の言葉は、いつも核心を突いてくる。練習中、暁は桃野にこう告げられたことがあるという。「体重移動が下手くそ。デカいのに軽い。重心をひとつの場所にぎゅっと集める練習をしたほうがいい」――。
その指摘は痛いほど的確だった。言われた瞬間、思うように動けない自分への悔しさと、「こんなに自分をちゃんと見てくれている」という感情が入り混じり、涙が込み上げてきた。暁はその言葉をバネにして、練習を積み重ねていった。
2024年9月29日、新木場1stRINGで公開プロテストが行なわれた。メニューはスクワット300回、三点倒立、ブリッジ1分、ブリッジ返り10回、回転運動、受け身、そしてスパーリング3分×3本。宝山愛、桃野とのスパーリングを終えた暁は、ほぼ満点に近い出来だった。
しかしその瞬間、長与は急きょ、彩羽をリングへ送り込んだ。
「匠さんが出てきた瞬間、『うわあ、クソ!』という感情が込み上げてきて。何に対して"クソ"なのか自分でもわからないんですけど、すごく悔しくて......。『めちゃくちゃやってやる!』ってスイッチが入りました」
スパーリングが始まると、彩羽に潰されていく。予定時間の3分が過ぎても長与は止めず、攻防は6分にも及んだ。最後は立ち上がることも難しい状態だったが、それでもなんとか足を踏み出せたのは、観客の声援が背中を押してくれたからだという。
結果は満点合格。限界の向こう側まで踏み込んだ末の合格だった。
【赤を纏い、Sareeeとのデビュー戦へ】
プロテストの数日後、彼女は"暁千華"というリングネームを授かった。「千の種から、千の華が咲く」という意味が込められている。"千"の字を目にした瞬間、胸の奥にじんわりとうれしさが広がる一方で、その重みにぞくりとするようなプレッシャーも押し寄せてきた。
デビュー戦は10月27日、名古屋国際会議場イベントホール大会に決まった。その2日前、暁の元にコスチュームが届く。長与と同じ、真っ赤な水着だった。里村は「自分が赤をもらうのは当たり前だと思っていた」と語っているが、暁にとって赤はあまりにも大きく、そう簡単に自分の色だとは思えなかった。
そして迎えたデビュー戦。対戦相手は、マリーゴールドとSEAdLINNNG、2団体のチャンピオンだったSareee。赤を纏い、暁は初めての大舞台に立つことになった。
私はその試合を記者席から見ていた。暁が入場した瞬間、隣の専門誌記者と思わず目を合わせた。「これですよ!!!」。プロレスラーの強さは脚に出る。照明に照らされた暁の逞しい太ももに、私たちは抑えきれない高揚を共有した。
真っ赤な紙テープが暁を覆った。使える技はまだ限られている。それでも彼女は、積み上げてきた練習のすべてを絞り出すように技を繰り出し、Sareeeの顔を思い切り張ってみせた。物怖じしない表情と堂々とした佇まいには、誰もが"逸材"の気配を感じただろう。
「Sareeeさんはオーラと圧が本当にすごかった。一発一発がめちゃくちゃ重くて、練習とはまったく違いました。最後、裏投げを食らった時は『やばい、終わった』と思ったけど、(フィニッシュ・フォールドの)裏投げを出してくださったことは、ものすごく光栄でした」
試合後、バックステージで暁に話を聞いた。「負けて悔しい」。しかし、それだけではなかった。「感情が出せなかった」と彼女は言ったのだ。デビュー戦でそんなことまで考えられる選手が、どれだけいるだろう。9歳から女子プロレスを見てきた暁は、プロレスが"感情のスポーツ"であることを理解している。
そして、暁にとって転機となる禁断の試合が組まれた――。
(後編:暁千華は「令和のクラッシュ・ギャルズって呼ばれたいわけじゃない」 19歳が抱く覚悟と大いなる目標>>)
【プロフィール】
◆暁千華(あかつき・せんか)
2006年3月30日、石川県加賀市生まれ。9歳の時、母親に見せられた尾崎魔弓 vs 下田美馬のシングルマッチをきっかけに全日本女子プロレスに夢中になる。高校卒業後、マーベラスに入門。2024年9月29日、新木場1stRINGの公開プロテストに合格。同年10月27日、名古屋国際会議場イベントホール大会でデビュー(対Sareee)。11月16日、キャリア3年未満の選手が争う「じゃじゃ馬トーナメント」を優勝。169cm、72kg。X:@marvelous_SENKA



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