【ボクシング】在米専門記者が解説する井上尚弥のリヤドシーズン...の画像はこちら >>

後編:井上尚弥のリヤドシーズンと中谷潤人戦

世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)vs.アラン・ピカソ(メキシコ)はどんな試合になるのか。12月27日、サウジアラビアのリヤドで行なわれる一戦の予想は、6度目の防衛戦となる井上優位に一方的に傾いている。

32勝(17KO)無敗1分けという戦績を持つメキシカンは、年齢的にも25歳でまだ成長途上。ただ、メキシコ国立自治大学(UNAM)で学んだ秀才ボクサーという話題性こそあれど、現時点では井上に対抗し得る実力者とはみなされていない。そんななかで、挑戦者はどこに勝機を見出すのか。

『リングマガジン』のマヌーク・アコピャン記者に今戦の見どころと展開、結果予想をじっくりと語ってもらった。

前編〉〉〉前戦・アフマダリエフ戦の振り返りから見る在米記者たちの予想は?

【ピカソ戦の意義と2026年以降の展望】

 井上対ピカソ戦は最高級のマッチアップではないのは、事実だろう。ただ、たとえ下馬評が一方的なものであったとしても、私は井上が戦うのであれば、相手が誰であっても興味を持つ。現実的な話をすれば、122パウンド(55.34キロ)がリミットのスーパーバンタム級では、もう井上の相手はほとんど残っていない。それゆえにピカソ、キム・イェジュン(韓国)、ラモン・カルデナス(アメリカ)といった実績豊富とは言えないチャレンジャーにもチャンスが巡ってくる。

 9月にムロジョン・"MJ"・アフマダリエフ(ウズベキスタン)と戦う前には、『井上はMJを避けている』なんて言う人もいた。ただ、実際に戦えば、苦もなく勝ってしまった。だから今、彼は非常にユニークな立ち位置にいる。すでに4階級を制覇し、その4階級目でも中谷潤人以外には相手がいないのだ。

 126パウンド(57.15キロ)のフェザー級にまで上げるのが適切なことかどうかはわからない。

そこでは身長185cmのWBO同級王者ラファエル・エスピノサ(メキシコ)のように、自身よりはるかに大きな選手と対戦しなければならないかもしれない。そんな立ち位置にいるからこそ、スーパーバンタム級での中谷戦は非常に興味深い。中谷は井上と同じように軽量級から上がってきた選手。しかもこれだけ高評価されているライバルが同国人というのはすごいことだ。

 アメリカのボクシングでもこのような構図はあるが、ファンが望むカードはなかなか実現しない。フロイド・メイウェザー対テレンス・クロフォードの新旧対決はお蔵入りになったし、現代でもクロフォード対ジャロン・エニス戦のようなカードの成立は難しい。

 しかし、日本では魅力的なカードが具現化する。世代交代の瞬間になるかもしれないし、井上が『自分こそが常に史上最強だ』と示すかもしれない魅力的な対戦が、現実的なものになっているのだ。

 井上は誰からも逃げない。中谷を避けてピカソとの対戦を選ぶような選手なら問題だが、彼は違う。しかも、トップボクサーは年に1~2戦が通常になった今の時代に、年4戦もする選手はほかにいない。だからピカソが最高級の実力者でないにしても、ここで井上がピカソと戦うことに、私は何の問題も感じない。

【ピカソ戦は6ラウンド以上続くとは思わない】

 井上対ピカソ戦を具体的に展望すると、やはり挑戦者に大きなチャンスがあるとは考え難い。ピカソはまだ25歳と若く、経験も十分とは言えない。戦績のなかで最も評価できる星は昨年8月のアザト・ホバニシャン(アルメニア)戦での判定勝利くらいだが、ホバニシャンは一時期、井上のスパーリングパートナーだった選手だ。ピカソにはキャリアを代表する大きな勝利がない。亀田京之介と戦って2-0の判定勝ちを収めた今年7月の前戦も内容はいいとは言えなかった。

 興味深い点を挙げれば、井上は昨年5月のルイス・ネリ戦、今年5月のラモン・カルデナス戦において、1、2ラウンドという早い段階でダウンを奪われていることだ。開始直後から時間を与えず、リズムに乗らせなければ、何らかの波乱の余地はあるのかもしれない。

とにかく最初から激しい戦いに持ち込むこと。ピカソが試合を面白くするには、そこをつく以外にない。ただ、問題は、ピカソが32勝中KOは17に過ぎず、決してパワーパンチャーとは言えないことだ。

 井上側に懸念材料があるとすれば、サウジアラビアという開催地くらいだ。東京とサウジアラビアの6時間の時差がどれほど影響するのかはわからないが、少なくとも日本と勝手が違うのは確かだろう。

日本の会場のような1万5000人の大声援は、そこには存在しない。過去のサウジ興行を思い返しても、比較的落ち着いた雰囲気になる可能性がある。ウィリアム・スカル戦でのサウル・"カネロ"・アルバレスはその環境が影響し、精彩のない判定勝ちに終わったが、井上も気持ちを高めるのは多少難しくなる。

 それでも最終的には、井上はプレデター(捕食者)だ。目の前にピカソがいれば、いずれ仕留める。試合が3ラウンドを過ぎれば、予想どおりに一方的な展開になると思う。4、5ラウンドで終わらなかったとしても、井上は6ラウンドにはリズムをつかんで倒すだろう。6ラウンド以上続くとは思えない。いずれにせよ、またしても印象的なKO勝利で終わると思っている。

 正直、ピカソには早すぎる挑戦だと思う。挑戦する資格があるかどうかはわからないが、先ほども述べたとおり、井上にはもう相手がいない。だからこそ、井上の強さを改めて示す機会になると見ている。

 今回の興行の真のストーリーは、井上と中谷が同じ日に、メインとセミで戦うこと。そして5月の直接対決計画がすでに進んでいることだ。両者がそれぞれ見栄えのいい勝ち方をしてくれるだろう。試合後にリング中央でフェイスオフし、メガファイトの日程を発表してくれることを願っているボクシングファンは私だけではないはずだ。

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