現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 ラ・リーガは第17節で今年の日程を終了。スペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、今季前半戦の久保建英について評価してもらった。

【今季前半は期待外れの結果に】

 イマノル・アルグアシル政権下の2024-25シーズンの後半戦は、久保建英にとって決してラクではなかった。そしてセルヒオ・フランシスコ新監督の下でスタートした2025-26シーズンの前半戦はさらに悪化したため、久保にとって2025年は忘れたい年になると言えるだろう。

久保建英の今季前半は「失望」とスペイン人記者 新監督の3バッ...の画像はこちら >>
 ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)での彼のサッカーやポテンシャルを目の当たりにしてきた者にとって、この衰退は失望以外の何物でもない。2025年1月からのパフォーマンスに評価をつけるとすれば 『Suspenso(不可/最低評価)』であり、2025-26シーズンの前半戦も明らかに期待外れの結果となった。

 久保は私たちがこれまで見てきたラ・レアルの選手のなかでも優れたひとりであったが、今や彼のパフォーマンスに対して否定的な評価も出てきている。今季前半戦を10点満点で評価した場合、3点を超えることはなく、明らかに我々を失望させていた。

 そして、それを誰よりも彼自身が理解しているということを、年内最後のレバンテ戦で示した。久保はヘディングですばらしいゴールを決めたあと、敵地まで足を運んだサポーターに対し、喜びのパフォーマンスよりも、これまでの自身の不甲斐なさを謝罪するパフォーマンスを選択したのだ。

「Qué fue antes, el huevo o la gallina?(鶏が先か、卵が先か)」。スペインでよく使われるこのことわざは、私たちが議論している問題に当てはまる。久保のパフォーマンスが悪いのはラ・レアルが調子を落としているからなのか、あるいは久保のパフォーマンスが低下したからラ・レアルが調子を落としているのか――。

 この議論に答えは出ない。確かなのは、ラ・レアルが好調だと久保も非常に高いレベルでプレーし、逆に久保が乗っている時はラ・レアルも絶好調だったように、相乗効果があったということだ。

しかし、今はチームも久保もどちらも調子がよくない。それが問題だ。

 彼が以前ほど味方のサポートを受けられていないのは明らかだが、私の見解では、今の久保はピーク時に比べ、プレーの俊敏さや鋭さ、閃きが鈍り、味方へのパスやシュート時に的確に判断を下せていない。さらに試合の流れを遅くしている。

 彼は動きながらではなく、静止した状態でボールを受けるのを好むが、相手ディフェンスのバランスを崩すことができていないだけでなく、持ち味であるカットインもあまり機能していない。そのため、今はより縦に仕掛け、サイドでの突破を試みることが多くなっているが、マークを抜け出せたとしても、右足のクロスがうまくないため壁にぶつかってしまう。この深刻な問題は2026年に向けて改善すべき明らかな点だ。

 彼は今季ここまで2得点1アシスト。ほかの選手たちと比べるとはるかにポジティブなプレーが少なく感じられる。これは攻撃における重要性や影響力の低さを示唆している。

【激化するポジション争い】

 仮にすべての攻撃陣が万全な状態だったとしたら、今の久保のパフォーマンスや存在感、有効性を考えると、控えに回ったとしても決しておかしくはないだろう。彼がこれまでいかにチームに多大な貢献をしてきたとしても関係ない。

 久保のポジション争いのライバルとして、今夏加入したゴンサロ・ゲデスが挙げられる。

何年も出場機会に恵まれず試合感を取り戻すのに少し苦労したが、今やほかの選手とは一線を画す好調ぶりで、レギュラーとして申し分ない存在となった。

 機動力があって貪欲に突破を狙い、絶えずゴールを目指す姿勢がある。また、クロスの精度の高さも相まって重要な地位を築いている。ここ8試合連続で先発し、左サイドや右サイド、トップでプレーしながら3得点1アシストを記録。常にプレーする準備ができていることも彼の長所だ。ピッチでの彼の献身的な姿勢を、チームが苦しんでいる今の時期こそ多くの選手が見習うべきだ。

 アンデル・バレネチェアもコンディションがよければ間違いなくレギュラー確定だ。ドリブルで相手をかわし、ゴラッソや信じられないようなアシストを記録し、ほぼすべてのプレーを成功させている。

 ここまで6ゴール(3得点3アシスト)に関与しているが、フィニッシャーが決めればさらに記録を伸ばしていたはずだ。最近までイゴール・スベルディアに並び全試合で先発していた。2022-23や2023-24シーズンの久保のように、チームとサポーターに輝きをもたらしている。

 キャプテンのミケル・オヤルサバルの地位は揺るぎない。

リーダーシップと統率力は言うまでもなく、プレーに対するインテリジェンス、得点力、チャンスメークの能力も際立っている。戦線復帰したレバンテ戦で、ゴールにつながったプレーひとつを見てもそれは明らかだ。

【マタラッツォ新監督は3バック志向】

 成績不振によりセルヒオ・フランシスコが解任され、新監督にイタリア系アメリカ人ペッレグリーノ・マタラッツォが就任した。レギュラーが確約されていない久保にとっては、多くの不安を抱えたまま2026年を迎えることになるが、ドイツでの経験豊富な彼の下で、来年こそラ・レアルがいい方向に変わると信じたい。それは選手とクラブにとって"電気ショック"となるはずだ。また、今までにない外部からの異なる視点をもたらしてくれることにも期待したい。

 ユリアン・ナーゲルスマン(現ドイツ代表監督)のアシスタントコーチ時代(ホッフェンハイム)、そしてシュトゥットガルトやホッフェンハイムでの監督時代を含め、彼のサッカー観は常に3バックとウイングバックのシステムで構成されてきた。これにより、ポジション変更を余儀なくされる選手もいれば、レギュラーの座を失う選手、頭角を現わす選手も出てくるだろう。これはラ・レアルを揺るがすことになる。

 久保にとっては新たな可能性を開くチャンスにも、大きな問題にもなり得る。3-4-2-1が採用された場合、彼の新しい役割は日本代表で担っている2シャドーのようなポジションになるかもしれない。よりインサイドでのプレーが多くなるが、動きは非常に自由で、右サイドに縛られることがなくなるだろう。

 右サイドバックのホン・アランブルがボール扱いに問題を抱えている点を考慮すると、右ウイングバックとしてプレーする可能性もある。この選択肢は久保にとって新境地であり、新たな役割を学ぶ覚悟が必要となる。

 現実的に考えるとシャドーの可能性が最も高いが、その場合、久保はゲデスとのポジション争い(すでに一緒にプレーしているとはいえ)から、ブライス・メンデス、カルロス・ソレール、アルセン・ザハリャン、ルカ・スチッチ、ミケル・ゴティといった攻撃的MF陣に加え、オヤルサバル、バレネチェアといったFW陣とレギュラーの座を争うことになる。

 冬の移籍市場でセンターフォワードが加入するかどうかは不明だが、3-5-2のシステムが採用された場合、久保は2トップの一角でプレーする可能性もあるだろう。アレクサンデル・セルロートと前線でコンビを組み、ダビド・シルバを背後に擁した2022-23シーズンの中盤ダイヤモンド型の4-4-2のように、縦に鋭い電光石火のセカンドトップとしての役割を担うかもしれない。

 これまでの実績を考えると、どのシステムであっても久保はレギュラーに値していると思うが、現状のままだと不動の地位を得ることは不可能だ。チームの流れを引き継いでいない外部からやってくる外国人監督とあれば、なおさら難しいものがある。

 そのため、久保がやるべきことはただひとつ、真の意味でステップアップして新監督の信頼を勝ち取ることだ。新年の幕開けとともに新生ラ・レアルが始まろうとしているなか、久保はどんな形であれ、再びスターのひとりとなるために戦い続けなければならない。

髙橋智行●翻訳(translation by Takahashi Tomoyuki)

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