連載第81回 
サッカー観戦7500試合超! 後藤健生の「来た、観た、蹴った」

 現場観戦7500試合を達成したベテランサッカージャーナリストの後藤健生氏が、豊富な取材経験からサッカーの歴史、文化、エピソードを綴ります。

 1977年にスタートした歴史あるユース年代の国際大会、SBSカップ。

昨年までの夏開催から今年は冬開催へ変更となり、ハイレベルな試合が行なわれました。

【日本はスペインに逆転負け】

 SBSカップ国際ユースサッカーが静岡県藤枝市で開始され、U-18スペイン代表が優勝を飾ったが、大会2日目(12月20日)に行なわれた、U-18日本代表対U-18スペイン代表の試合を見に行ってきた。

サッカー日本代表の未来をつくるSBSカップ 夏から冬への開催...の画像はこちら >>
 U-18日本代表は、2027年にウズベキスタンとアゼルバイジャンで共同開催されるU-20W杯に向けて、新しく就任した山口智監督(前湘南ベルマーレ監督)の下で立ち上げたばかりのチーム。一方、U-18スペイン代表もいいメンバーをそろえた、本気度の高いチームだった。そして、試合もかなりレベルの高いものとなった。

 日本は立ち上がりの9分に(日本側から見て)左サイドをオスマン・ディアジョ・ティアオに突破され、最後はダニエル・ヤニェス・バルラに押し込まれて早くも失点してしまう。ディアジョはボルシア・ドルトムントB、ヤニェスはレアル・マドリード・カスティージャ所属の選手だ。

 しかし、日本もすぐに反撃。12分には徳田誉(鹿島アントラーズ)が相手DFのパスをカットして中央の新川志音(サガン鳥栖U-18)につなぎ、新川が持ち込んでゴール左に豪快に蹴り込んで同点に追いつく。

 さらに、15分には左サイドの木實快斗(ギラヴァンツ北九州)のクロスに右ウイングバックの松本果成(湘南ベルマーレ)が飛びこみ、豪快なボレーシュートをたたき込んで逆転に成功した。

 しかし、時間の経過とともにスペインがゲームを支配。日本は自陣に押し込まれてしまう。左サイドのディアジョのドリブル突破はその後も脅威だったし、さらに左サイドバック(SB)のディエゴ・アグアード・ファシオ(レアル・マドリード・カスティージャ)が攻撃参加をしかけてきた。

 SBの攻撃参加は日本でも珍しくはないが、そのスピード感や的確なポジション取りはさすがにスペインの選手。日本は前線からプレッシャーをかけようとしたがすぐにかわされてしまうので、次第にブロックを敷いて対応するしかなくなってしまった。

 31分にFKからのこぼれ球を決められて同点とされ、さらに後半に入ってもスペインの攻勢が続いた。

 耐える日本......。ベンチの山口監督はシステム変更などでひっくり返す策を考えていたというが、53分にはアンカーの鈴木楓(FC東京U-18)が2枚目のイエローで退場となり、以後は4-4-1のブロックを作って耐えるしかなくなった。

 日本はよく守って時計の針は80分を回ろうとしていた。この大会では同点の場合はPK戦が行なわれるので、耐えきればPK勝ちも狙える。

 だが、ちょうど80分が経過した直後に左サイドを突破されてホセ・アンヘル・ガイタン(ビジャレアルB)に決められ、さらに反撃に出た裏を取られて再びガイタンに決められて2点差の敗戦となった。

【ユース世代の"勝負弱さ"解消へ】

 今年、チリで行なわれたU-20W杯で日本代表はグループリーグを首位突破。ラウンド16でもフランス相手に圧倒的優勢に試合を進めたが、120分間ゴールを割ることができず、逆に終了直前にPKを取られて涙をのんだ。

 U-20W杯予選を兼ねたU-20アジアカップ(2月、中国)でも優勢に試合を進めながら勝ちきれない試合が多く、準々決勝のイラン戦も引き分けに持ち込まれ、かろうじてPK戦でW杯出場権を獲得した。

 日本の選手は個人戦術やテクニックなどに優れているが、アジア杯、W杯を通じて勝負弱さを感じざるを得なかった。

 今年のU-20日本代表を率いたのは船越優蔵監督だった。

船越監督は、指導者としてはいくつかのクラブの育成部門を担当したあと、2023年に当時のU-18日本代表監督に就任した、いわば「育成畑」の指導者だ。

 船越監督だけでなく、年代別日本代表を率いる監督には育成専門の指導者が就任することが多い(船越監督は来シーズンからアルビレックス新潟のトップチームの監督に就任)。

 僕は、今年のU-20アジア杯やU-20W杯を見ながら、勝負にこだわる采配ができるJリーグのトップ監督経験者に担当させてみてはどうだろうかと考えていた。勝負にこだわらないと、いずれはU-20アジア杯で敗退してU-20W杯出場権を失う可能性があるし、U-20W杯で上位進出を果たすことは日本代表の将来を考えても大切だと思ったからだ。

 そして、実際に2027年U-20W杯を目指すU-18日本代表の新監督には、つい先日まで湘南を率いて「残留争い」という勝負にこだわる采配をしていた山口監督にバトンが渡った。

 その最初の大会で、日本代表はスペインという世界レベルの強豪と真剣勝負に近い試合を戦った。早い時間に先制されたもののすぐに逆転。追いつかれたあとは押し込まれる展開となり、耐えていたものの退場者を出すという、さまざまな状況を経験できた。

 立ち上げの段階でこんな真剣勝負に近い試合を経験できて、新チームには勝負にこだわる姿勢が身につくことになるかもしれない。敗戦は残念だったが、このスペイン戦はすばらしい経験になったのではないだろうか。

【夏から冬の開催変更で試合はレベルアップ】

 SBSカップには毎年欧州や南米の強豪が来日している。昨年はU-18アルゼンチン代表が来日したし、スペインは2015年にも来日している。

 僕は、2015年のスペイン戦も観戦したが、この時の日本は町田浩樹や板倉滉、堂安律、小川航基などがいて、1対1で引き分けている(スペインには、レアル・ソシエダで久保建英と同僚のミケル・オヤルサバルがいた)。

 ただ、この時のスペインは真夏の日本の暑さにてこずっていた印象が強かった。

 SBSカップは、昨年まで夏休み中の8月に開催されていたからだ。10年前のスペイン戦も8月13日。日本独特の蒸し暑さは、欧州の選手たちにはあまりにも過酷な環境だ。

 そのSBSカップが今年から12月開催に変更された。スペイン戦は雨のなかでややスリッピーなピッチだったが、気温は14度とサッカーの試合にふさわしい条件だった。それだけに、スペイン代表も力を出しきることができた。

 変更のきっかけとなったのは昨年の大会だった。開幕日の静岡ユース対U-18アルゼンチン代表の試合はキックオフの50秒後に雷雨で中断。約2時間後に60分ゲーム(30分ハーフ)として再開されたものの、後半開始から4分15秒が経過したところで再び雷雨となり、試合は約35分間で終了。その時点のスコアでアルゼンチンの1対0の勝利となった。

 それがきっかけで今シーズンから冬の開催になったのだが、試合のレベルは間違いなく上がった。

 現在の形式では連戦があるので(今年の場合、木曜、土曜、日曜に試合)80分ゲームにせざるを得ないが、せっかく冬の大会になったのだから、連戦をなくして90分ゲームができるようになるといいのだが......。

 いずれにしても、山口監督率いる日本代表を今後も見守っていきたいものである。

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