木村和久の「新・お気楽ゴルフ」
連載◆第57回

 ゴルフのDX化......って、デラックス化じゃないですよ。DXとはデジタルトランスフォーメーションの略で、IT化や自動化でゴルフの質が向上していくということです。

 特に令和に入ってからはゴルフ場のDX化が著しく、個人的にはDX化に飼いならされてしまい、昔のアナログゴルフに戻れなくなりました。

【木村和久連載】乗用カートの進化を含め、ゴルフ業界のDX化は...の画像はこちら >>
 具体的に言うと、まずは乗用カートのナビゲーションシステム。この進化がすばらしく、ピンまでの距離がナビボードで表示されるのは当たり前。池やバンカーまでの距離もボードで教えてくれます。

 しかも、最近は乗用カートがフェアウェーに乗り入れできるコースが増えています。つまり、乗用カートを横づけすれば、ボールの位置から直接ピンまでの距離(池やバンカーも同様)を測れるのです。こうなってくると、手持ちの距離計測器を使わなくてもいいほど。それぐらい、現在のナビシステムは優れています。

 乗用カートのナビシステムはさらにすごくなっていて、スコアをボードに入れて登録すると、それがスマホのアプリに連動しており、翌日には自分のスマホにスコアが送られてくるのです。日本最大のゴルフグループであるPGMがアコーディアを傘下に収めたことによって、今では350ほどのコースでそれが可能になっています。

 さらにその大手グループでは、乗用カートに装着する送風機を開発。それが装着された乗用カートは夏場、大人気となっています。

 また、2025年夏からは西武系などの一部コースで、エアコンクーラー付きの乗用カートが運用されています。実際、それに乗ってラウンドしてみましたが、クーラーのあまりの涼しさに、マジで乗用カートから降りたくなかったです。

 そうして、この冬にはシート部分にヒーターを装着した乗用カートまで登場。ラウンド環境がずいぶんと変わってきました。

 翻(ひるがえ)って、コース以外の部分でのDX化も著しいです。何より、ラウンドの予約においてはスマホのアプリですることが多くなりました。

 おかげで、ゴルフ場でのチェックインも、プレー代などの支払いも、すべてセルフレジでオーケー。そのくせ、「ジャケット着用」というコースがあったりして、セルフレジで自動チェックインするなら、ジャケット着用の確認は誰がするのやら? そこは矛盾していますよね。

 クラブハウス内のレストランに目を向けても、オーダーがタッチパネル化。ファミレスなどと同じようなシステムになったコースも出てきました。料理の配膳もまた、ロボットが運んできて......それは、ちょっと味気ないですね。

 ゴルフ場のDX化がここまで進む背景には、人手不足が深刻だからです。

 配膳ロボットの価格は1台、150万円~300万円ぐらいだそうです。1年フル稼働すれば、以降は従業員をひとり雇うお金が浮く計算。実のところ、配膳ロボットはリースがほとんどで、300万円も払うことはありませんから、導入初年度から利益が出るようです。

 あと、服を着替えるロッカー室に行くと、お掃除ロボットが一生懸命床の掃除をしていたり、クラブハウスの周りの芝では自動芝刈り機が活躍していたりして、ゴルフ場における最近のDX化は本当に目覚ましいです。

 こういう状況は基本的に大手チェーン、それも大衆コースで行なわれていることが多いです。

 個人的には、ゴルフ場のDX化には賛成です。便利このうえないですし、DX化によって安くプレーできるなら、それでいいじゃないですか。

 そもそもゴルフ場のDX化は、1950年代のアメリカで乗用カートの運用が始まったことが最初とされています。要するに、DX化はアメリカスタイルの象徴で、それを日本のハイテク技術が進化させてきた、というわけです。

 じゃあ一方で、歩きラウンドを基本とする日本の名門倶楽部はどうなんでしょうか。先日、その類いのコースでラウンドしましたけど、DX化はだいぶ遅れていましたね。

 ただそれでも、キャディさんが腕にナビゲーションウォッチを装着して細かく距離を教えてくれていました。

ですが、こっちはアベレージゴルファーが4人。みんながいちいち距離を聞くので、キャディさんがテンパっちゃって大変でした。

 昔は、コースの脇にあるヤーデージ表示の木を参考にして、自らの距離感を信じてショットしていたものです。それが現在は、アマチュアの競技までならレーザー式の距離計を使っても大丈夫です(※プロツアーでも一部使用可能。距離測定のみ)。

 ですから、個人で距離計測器を所持するか、乗用のナビボードを使用するか、おそらく今では9割以上の人がナビの恩恵を受けています。

 今後は名門倶楽部の歩きラウンドにおいても、歩きカートにナビボードを導入するとか、DX化に舵を切らないといけない時代が来たような気がします。

 詰まるところ、乗用カートを含めたDX化を進めないと、客離れが起きてしまうのです。

 そもそも戦前に開場した日本の名門倶楽部は、英国を見習った倶楽部作りをしたので、歩きラウンドが美徳になったのでしょう。そうした考えはよろしいかと思いますが、ここ10年で異変が起きているのも確か。名門倶楽部のメンバーさんたちからも、「少し歩くのが不自由になったから、乗用カートに乗りたい」というリクエストが出始めているのです。

 その結果、名門倶楽部でも今や、超高齢者や体が不自由な方に限り、芝を傷めない2人乗りの乗用カートをほとんどのところで導入しています。

やはり、生涯スポーツとしてのゴルフですからね、そこは配慮しないと。

 というわけで、ゴルフ場のDX化はどこのコースも実施し始めています。今後は、その程度の差がポイントになっていきます。

 業界最大手のPGMでは、上級コースを「グランPGM」というシリーズにして、値段を少し高めに設定しています。そこでは、セルフレジ、乗用カートのナビ付き、スコア自動記入などは他と同様にやっていますが、フロントやレストランでは高級ホテルのようなおもてなしをしています。

 端的に言えば、DX化に緩急をつけているんですね。「グラン」シリーズのコースは、料理も美味しいし、従業員もキビキビ動いてくれて気持ちがいいです。

 これがある意味、ゴルフ場のDX化とプレーヤーが共存する、ひとつの答えになるような気がしてなりません。

 いずれにしても今後、さらなるDX化がどう展開されていくのか。その動きを見守りたいと思います。

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