2025年シーズンの米大リーグ(MLB)ワールドシリーズ連覇を成し遂げたドジャース。今年もその中心にいたのは、大谷翔平だった。

自己最多・球団記録の55本塁打、2年連続50本塁打超という打撃だけでなく、投手としても再びマウンドに上がり二刀流を復活させた。

「中0日登板」で胴上げ投手となった山本由伸、リリーフに転向した佐々木朗希とともに話題をかっさらったスーパースターが、ポストシーズンで見せた1試合で10K(奪三振)、3HR(本塁打)という快挙を、地元紙Los Angeles Timesは熱狂的に報じた。

 120点を超える秘蔵写真と日本未公開の13万字以上の詳述で、ワールドシリーズ連覇への全軌跡を記した『L.A TIMES』公式独占本『DODGERS' JOURNEY(ドジャース・ジャーニー) 大谷翔平・山本由伸 みんなでつかんだ世界一』(Los Angeles Times編、児島修 訳/サンマーク出版刊)。日米同時刊行された本書からその一部をお届けする。

指揮官もチームメイトもロサンゼルス市民も驚愕した大谷翔平の1...の画像はこちら >>

【3者連続三振からの先頭打者本塁打】

(ビル・プラシュケ 2025年10月17日)

 1回表には、3者連続で三振を奪う。

「ワーッ!」と歓声が上がる。

 直後の1回裏には、右翼席上段に飛距離446フィート(約136メートル)のホームランを叩き込む。

「ワーッ! ワーッ!」

 4回には再び投手として2三振を奪うと、その裏に今度はライトの屋根を越す469フィート(約143メートル)の本塁打を放つ。

「ワーッ! ワーッ! ワーッ!」

 そして7回裏、6回無失点10奪三振でマウンドを下りたあと、またしても歴史をつくる。センターへこの日3本目となる427フィート(約130メートル)の一発を打った。

「ワーッ! ワーッ! ワーッ! ワーッ!」

 大谷翔平、君は自分がどう思われているかを知っているだろうか。

 ロサンゼルス・ドジャースのファンは、自分が今、何を目の当たりにしているか自覚しているだろうか。ロサンゼルス市民は、スタジアムでどれだけ偉大なプレーが飛び出したかを理解しているだろうか。

 ワールドシリーズよ、今年も「ショータイム」を繰り広げる用意はいいか。大谷とドジャースは、今年も頂点を決める舞台へ舞い戻る。史上最高の選手が、ポストシーズンの1試合としては間違いなく史上最高のプレーを見せ、チームをスイープ(4連勝)でのナ・リーグ優勝に導いた状態で、だ。

【リーグチャンピオンシップMVP】

「おそらくポストシーズン史上最高のパフォーマンスだ」

 ドジャースのデーブ・ロバーツ監督はそう語った。

 試合結果は5対1だったが、実質的には1対0になった時点で勝負ありだった。大谷は1回、3連続三振を奪ってドジャー・スタジアムを沸かせ、ミルウォーキー・ブリュワーズの攻撃を10分足らずで終わらせると、直後に先頭打者ホームランをお見舞いする。

 どこまでも飛んでいくかのような、歴史に永遠に刻まれるホームランだった。投手が先頭打者本塁打をマークするのはMLB史上初。伝説の名選手ベーブ・ルースも成し遂げていない快挙だった。

 超人・大谷は4回にも同じ離れ業(本塁打)を披露すると、7回には3発目を叩き込み、チームを2年連続のワールドシリーズへ導いた。ドジャースが同シリーズに進出するのはここ9年で5回目。歴史に残る王朝としての地位を確固たるものにしている。

 シリーズMVPを獲得した大谷は、リーグ優勝のセレモニーで「本当に全員で勝ち切ったものだと思うので、みなさん今日はおいしいお酒を飲んでください」とコメントした。

 大いに飲ませてもらおう。それくらいの偉業だ。

 ドジャースはこのあと、1999年と2000年のニューヨーク・ヤンキース以来となる2年連続世界一を目指す。

 10月24日に開幕するワールドシリーズでは、シアトル・マリナーズかトロント・ブルージェイズと対戦するが、今のドジャースには過去のどんな強豪にもなかった武器がある。

 さあ、みなさんご唱和あれ。Ohhhhhtani!

「(ピッチングもバッティングも)どちらも最高の気分」という大谷の言葉も、プレーに比べればずいぶん控えめに思える。

【直前まで打率1割台と低迷】

 振り返れば、試合前の大谷はスランプに陥っていて、シリーズは11打数2安打、ポストシーズン全体では打率.158と苦しんでいた。あまりに打てないため、15日にはいつもの室内打撃ケージを出て、グラウンド上で打撃練習を行なったほどだ。

 練習前には、「投手としての負担が打撃に悪影響を与えているのでは」としつこく聞かれたが、本人は関係を否定した。

「体感的にはそうではないと思っている。基本的には、打撃に関してはやっぱり自分の思っている構え方であったりとか、技術的な部分がしっかりしていないと、なかなか結果に結びつくのは難しい。ピッチングは、もちろん自分がやることをしっかりやれば、いい結果が生まれてくる可能性が高いところではあるので、あまり関係ないのかなとは思っている」大谷はそう話していた。

 15日の異例の打撃練習で、大谷はライトの屋根までボールを運んでいた。

だからみんなそこで、何かが変わったことに気づくべきだった。本人も、もちろんふがいなかっただろうし、批判を黙らせたいとも思っていただろう。

 チームメイトのマックス・マンシーは言う。

「ものすごいプレーを期待されるなかで、間違いなくそれを上回る活躍を見せた。信じられないよ。びっくりだ」

 投球の面では不安はなかった。フィラデルフィア・フィリーズとの地区シリーズ初戦でも、6回をしっかり投げて勝ち投手になっていたし、この日も時速100マイル(約161キロ)の直球2つと88マイル(約141キロ)のスイーパーで3者連続三振という、絶好の立ち上がりを見せた。

 そしてその裏、大谷はフルカウントからブリュワーズの先発左腕ホセ・キンタナのスラーブを捉え、ついに周囲を黙らせる特大の一発を放つ。

「たしかに、ショウヘイが登板した試合では打席で苦しみ、うまく打てていないという話はよく出ていた」

 そうロバーツは言い、こう続けた。

「そう言われて、気持ちに火が点いたのかもしれない」

 4回にも初回を再現するかのように、投手として2三振を奪うと、打者として相手2番手チャド・パトリックから超特大のホームランを打った。

 すると、投打両面で圧巻のプレーを見せる大谷に対して、ファンは6回、おそらくかつてないタイミングで次のような声をあげ始めた。

 大谷がマウンドへあがるなか、「MVP、MVP、MVP......」というコールを響かせたのだ。

 そして、大谷が7回に四球と安打を許し、ついに降板することになると、オルガン奏者のディーター・ルールが「ジーザス・クライスト・スーパースター」のテーマを奏で、観客は割れんばかりのスタンディング・オベーションをいつまでも送った。

【3本目も打ちそうな気配があった】

 ところが、だ。この日の大谷の活躍はこれで終わりではなかった。

「ある意味、『ふつう、人間には無理だろう』というようなことも、ショウヘイになら期待できる」とロバーツは言う。

 6回被安打2で降板したあとの7回、大谷は再びダグアウトを出た。カーテンコールに応じて出てきたのではない。彼は大谷翔平で、相手3番手のトレバー・メギルにとっては不幸なことに、まだ打者としての出番が残っていた。

 そして、メギルの投じた直球はスタンドに消え、ポストシーズン史上最高の「スタッツ(成績)」が生まれたのだ。

 ナ・リーグ優勝決定シリーズで、打者として3本塁打、投手として6回無失点10奪三振をマークし、大谷はチームをワールドシリーズへ導いた。

「ホームランを打たないと思うヤツは、ベンチにひとりもいなかった」とマンシーは振り返る。

「2本目を打った段階で、これはひとりの選手が見せたなかでは史上最高の試合なんじゃないかという雰囲気になっていた。同時に、3本目も打ちそうな気配があった。

みんな疑いもしなかった」

 控えめで慎重なコメントの多い大谷は、試合後の会見で、「言ったでしょ」と口を滑らせかけ、思いとどまった。どこまでも礼儀正しい選手だ。だが、内には熱いものを秘めている。プレーを見ていれば、それがわかる。

「今日のこの試合以外は、やっぱり僕も苦戦していた」と大谷は言う。

「打てない人が出た時にしっかり自分が打ったり、打線が苦しい時に先発ピッチャーがしっかり抑える、そういうカバーのし合いが大事だと思う。今日の試合は、それが僕の役割のなかで発揮されていたのかなと思う」

 正直に言って、この日の大谷のプレーは、誰もが不可能だと思っていたほどのものだった。

 ドジャース加入2年目で、2年連続のワールドシリーズ制覇まであと4勝。

 Ohhhhhtani!

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