米大リーグ(MLB)2025年ワールドシリーズ第7戦。ブルージェイズとの激闘を制したドジャースのマウンドに立っていたのは、第6戦でも先発して、「中0日」で登板した山本由伸だった。
大谷翔平、佐々木朗希とともに21世紀初のワールドシリーズ連覇を成し遂げ日本人27歳右腕の伝説はどのようにつくられたのか。地元紙Los Angeles Timesが密着した。
120点を超える秘蔵写真と日本未公開の13万字以上の詳述で、ワールドシリーズ連覇への全軌跡を記した『L.A TIMES』公式独占本『DODGERS' JOURNEY(ドジャース・ジャーニー) 大谷翔平・山本由伸 みんなでつかんだ世界一』(Los Angeles Times編、児島修 訳/サンマーク出版刊)。日米同時刊行された本書からその一部をお届けする。
【圧巻の投球でワールドシリーズMVP】
(ディラン・ヘルナンデス 2025年11月2日)
トロント──ドジャースがワールドシリーズ第6戦で勝利した直後、山本由伸は長年来の専属トレーナーに歩み寄った。
そして頭を下げて矢田修に言った。
「1年間ありがとうございました」
その時点では、自分のシーズンは終わったと思っていた。6回96球を投げ、試合後の会見では、翌日の試合でまた投げるよりはチームを応援したいと冗談交じりに言っていた。デーブ・ロバーツ監督も同じ考えで、第7戦で唯一起用できない投手は山本だと語っていた。
だが矢田トレーナーの考えは違った。
「明日、ブルペンで投球できるくらいにはもっていこうか」と言ったという。
山本がブルペンにいるだけで、ドジャースはトロント・ブルージェイズにプレッシャーをかけられる。
「そうやって乗せられました」と山本は笑いながら語った。
延長11回、ドジャースがブルージェイズを5対4で下して優勝を決めた試合で、山本は最後の2回3分の2を投げ、ワールドシリーズ3勝目を挙げた。
アレハンドロ・カークをゴロで併殺に打ち取り試合を決めると、山本はキャップをとり、天に向かって両腕を突き上げた。捕手のウィル・スミスがマウンドに駆け寄り、彼の腰を抱き上げた。
「今までに感じたことのないような喜びを感じた」と山本は言った。
第2戦を完投。第6戦でも6回を投げた。そして第7戦での貢献を加えると、シリーズ通算で17回3分の2を投げ、許した得点は2点のみ。
往年の名投手を彷彿とさせる活躍で、山本はシリーズ最優秀選手賞(MVP)とともに、世界中からの称賛を勝ち取った。
【大谷翔平も認めた世界一の投手】
「本当に彼が世界一の投手だと思っている」と大谷翔平は語った。
「チームのみんなもそう思っているんじゃないかな」
またフレディ・フリーマンは、昨季、肩の故障で3カ月離脱した山本が、身長5フィート10インチ(約178センチ)の体で担った投球量に舌を巻いた。
「だって彼はゆうべ、先発で投げているんだ。なのに今夜は、投手陣のなかで一番長いイニングを投げた」
フリーマンは山本が3試合で投げたことに加え、じつは「もう1試合」投げるために肩をつくっていたことも指摘する。
「あんなのは見たことがない」とフリーマンは言う。
編成本部長のアンドリュー・フリードマンも第7戦での山本について、「彼が前夜と同じ質のボールを投げられるなんて......。これまでメジャーの球場で見てきたなかで本当に最高の偉業だ」と語った。
このシリーズの山本のようなことをできる投手が、ほかにいるだろうか?
「いや、いないだろう」とフリードマンは言う。
「じつのところ、昨日の朝の時点では、ヤマモトでもできるとは思っていなかった」
第6戦の後、第7戦でのもしもの登板に備え、ホテルで矢田の治療を受けておくと山本から知らされた時は、あまり真に受けていなかったという。ところが翌朝、もう一度治療を受けたと聞かされた。
そして山本がロジャース・センターで「やり投げ」のルーティンをこなし、キャッチボールする姿を見て、フリードマンは第7戦での登板を現実的に考え始める。ただ、山本自身にはまだ投げられるという確信はなかった。
「自分が投げるとは思っていなかった」と山本は言う。
「でも練習してみたら感覚がよくて、気づいたら(試合の)マウンドにいました」
【通訳もゲンを担いで勝負パンツ】
山本の通訳、園田芳大(よしひろ)も準備はできていた。
ゲンを担ぐ園田は、山本の登板日にはいつも同じ"勝負パンツ"を身に着けている。第6戦でもそのウサギ柄のボクサーパンツを穿いていた。そして山本の再登板があるかもしれないと感じ、第7戦も同じパンツで臨んだのだ。
「万一に備えて、洗いませんでした」と園田は認めている。
山本はプロ入り後(先発転向後)、日米を通じて、連投したことは一度もない。9回にブレイク・スネルの救援を託された時には、どんな投球になるかわからなかったという。
1アウトからスネルが残した走者2人を背負って登板すると、カークに死球を与えて満塁。続くドールトン・バーショを本塁フォースアウトのゴロに仕留めるも、アーニー・クレメントに投じたカーブはレフトのフェンス際まで運ばれた。それを守備固めに入っていたアンディ・パヘスがウォーニングゾーンでキケ・ヘルナンデスと交錯しながらも捕球し、ブルージェイズのサヨナラ勝ちを防いだ。
山本は10回を三者凡退で抑え、11回表にスミスの本塁打で5対4とリードをもらい、11回裏を迎えた。
先頭打者のブラディミール・ゲレロJr.に時速96.9マイル(約156キロ)の速球を二塁打され、アイザイア・カイナーファレファの送りバントで三塁に進まれた。アディソン・バーガーには四球を出して走者一、三塁。
最後の瞬間について山本は、「本当に信じられなかったというか、最後に何を投げたかも思い出せないような、そういった興奮がありました。チームメイトが自分のところに来てくれた時には、今までで一番くらいの喜びを感じました」と語っている。
もう一度優勝して引退に花を添えたいと山本が望んでいたクレイトン・カーショーからは、今までで一番強くハグしてもらったという。ロバーツ監督も彼をがっちりと抱擁した。
山本は感極まって涙した。
その瞬間に圧倒され、彼は自分が成し遂げた偉業の大きさをまだ理解していないようだった。だがいずれ、わかる時が来るだろう。
ドジャースが王朝を確固たるものとしたその夜、山本はワールドシリーズを自らのものとしたのだ。










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