【優勝&五輪代表を決めたが......】
ミラノ・コルティナ五輪代表をかけた緊張感のなか、最終グループはミスをする選手が続出した全日本選手権男子シングルのフリー(12月20日)。最終滑走者の鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大)は2位に大差で優勝し、五輪代表を決めた。その結果をキス&クライで確認すると、両手で顔をおおって号泣した。
鍵山は「本当に悔しすぎて......。優勝したからというより、自分は弱いなという感情が溢れ出てきてしまって。本当は人前ではあまり泣きたくなかったんですけど、ブワーッと涙が出てしまいました。でも、これが今の実力だと思うし、もっと頑張らなきゃいけないと感じました」と話す。
隣に座っていた父の正和コーチも「全日本はやっぱり特別な試合なので、結果だけを見ればすごく満足しているし、感慨深いものはあります。ただ演技では、日々口をすっぱくして言ってきたことが大一番で出てしまった。たぶん、僕の言っていることが心に刺さっているというか、本当にわかったんだと思います。それで悔し泣きをしたのだと思います」と語った。
12月上旬のGPファイナルでやっと乗せることができた、合計300点台。今回の全日本は非公認記録にはなるが、それをさらに伸ばして五輪代表を決めるのが最大の目標だった。
12月19日のショートプログラム(SP)では、前半の4回転トーループ+3回転トーループと4回転サルコウは、GOE(出来ばえ点)加点でともに4点台をもらう納得のジャンプに。後半のトリプルアクセルはバランスを崩し減点されたが、得点は今季2度目の100点台となる104.27点で、合計300点超えの準備を整えた。
【五輪への課題は「気持ち」】
しかし、フリーでは心のなかに少しブレが出てしまった。序盤の4回転サルコウと4回転トーループは完璧に決め、3回転ルッツも柔らかく跳ぶ。しかし、トリプルアクセルからの3連続ジャンプは、3連続こそ成立させたものの、最初のアクセルがパンクしてシングルになった。さらにシットスピン後の4回転トーループは転倒して連続ジャンプにできず、基礎点を下げる結果になった。
「ショートがすごくよかったがゆえに、迷いはあまりなかったんですが、少し狙いすぎたのか、いつもと違う部分があったのかなと思います」と、鍵山は言った。
正和コーチは「通し練習のなかでも失敗を見たことがないですが、踏み切る前の構えに入った時に一瞬躊躇(ちゅうちょ)したのがわかった。それで踏み切りが少しあいまいになってパンクしたという感じでした。試合では後半になるとデリケートになりすぎてしまう。失敗したくないという気持ちが先に立ちすぎてそうなりやすい」と分析する。
最初の4回転サルコウはSP以上の加点をもらうジャンプで、4回転トーループも完成度が高かっただけに、310点台に乗せられるという気持ちが先走ってしまったのだろう。結果的にフリーは183.68点で、合計287.95点にとどまった。
「点数が出たらスーッと立ち去りたかったんですけど、頭のなかにいろいろなことが浮かんできて......。以前はフリーで挽回することが多かったんですけど、今季はなかなかフリーをそろえられないので、優勝にふさわしい演技ができなかったという気持ちがすごく強かったです。
直前の練習まではいい感じに調整できていて、あとは自信や気持ちの持っていき方が課題になっています。自信のつけ方や試合にどういう気持ちで臨むのかというのは自分で自分の正解を見つけるしかないので、これまでの失敗や成功の体験をすべて自分の強みに変えていけるように、(五輪までの)残りの1カ月くらいをしっかりと頑張りたいと思います」
【ナチュラルでいることが大事】
「大きな舞台で自分の弱さを実感した」と話す鍵山。だからこそミラノ・コルティナ五輪へ向けての課題をしっかり把握できた。
「前回(北京五輪)銀メダルだからといっても、守りに入ることはまったく考えていないし、自己ベストや勝ちを求めた攻める姿勢がすごく大事だなと思っています。4回転フリップの練習は続けるし、(演技に)入れたいという気持ちはすごく大きいですけど、1カ月でなじむかどうかというところ。
フリップに限らずどのエレメンツでも、自分が今持っている技術を全部出さなければいけません。ショートもフリーも全力で血がにじむような努力でやっていかなければいけないと思うので、日々後悔しないような生活を送って五輪という舞台を全力で楽しみたいです」
こう話す鍵山は、昨季はとくに「エースとはどうあるべきか」ということを考えていたという。「これまでのエースと言われた羽生(結弦)くんや(宇野)昌磨くん、大ちゃん(高橋大輔)のレベルにはまだ全然到達できていないというのが現状だと思います」と話すが、身近に接した羽生や宇野を見ていたなかで、それぞれの姿勢の違いも感じた。
「その姿を見て自分も育ってきたなかでいろいろ考えて解釈したうえで、自分はナチュラルでいることが一番大事だという結論に至った。行動と胸を張った立ち姿で自分なりの今の立場をつくり上げていけたらいいのかなと思います」
こう決意する鍵山にとって幸運だったのは、今回ともに代表になった佐藤駿と三浦佳生が、ノービスやジュニアの頃から切磋琢磨してきた身近な存在だということだ。
「佳生くんは明るめだし、おしゃべりで、駿は逆に口数が少なくて気持ちを表情にも出さなかったりして、そのなかに僕がいて本当にバランスがいい。3人でいるとすごく落ち着くし、自然体でいられる関係性なので、五輪でも変に気を張らず、自然に雰囲気を楽しめるのではないかなと思います」
互いを刺激し合い、信頼し合う関係性のなかでのびのびと戦うことができれば、鍵山もおのずと自身のエース像を確立することができるだろう。



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