ホンダ・レーシング
渡辺康治社長インタビュー
前編「2025年~総括」

 ホンダは2025年シーズンをもって、レッドブルファミリーとの8年間のタッグを終了した。

 2021年の撤退後も、ホンダはレッドブルパワートレインズ(RBPT)へのパワーユニットサプライヤーとして関わり続けた。

レッドブルが達成してきた数々の成功の裏側には、間違いなくホンダの貢献が欠かせなかった。

【F1】角田裕毅シート喪失でホンダ・レーシング社長の想いは....の画像はこちら >>
 当初はRBPTがパワーユニットを受領し、単独で運用していく予定だった。だが、そんな簡単にできることではなく、ホンダがHRC(ホンダ・レーシング)として運用を担い、ホンダだからこそできる開発努力を重ねてマシンパッケージを進化させ続けてきたからこそ、レッドブルは数々の栄光を手にすることができた。

 2025年は角田裕毅がレッドブルのシートに座り、ホンダもそれを支えた。最後はシートを喪失することとなり、来季は岩佐歩夢とともにリザーブドライバーを務めることとなったが、ホンダとしてはどのような思いを持っていたのか。

 HRCの渡辺康治社長に聞いた。

   ※   ※   ※   ※   ※

── レッドブルファミリーとの8年間が終わりました。

「ホンダとしては、もともと(2022年以降のF1活動を)続けるつもりはなかったわけです。ですが、彼らに迷惑をかけないようにしようということで、どのような形でパワーユニットを継続して使ってもらうか、というところから話が変わっていき、最終的には基本的に我々が設計から製造・組み立てまでやって、オペレーションもする形になりました。

 そのほうが競争力を確保できますし、機密を守ることにもつながりますから、双方にとってベストな形だったと思います。ただ、撤退を決めたあとにこれだけパートナーシップが深くなって実際に結果を残せたのは、自分たちもここまでできるとは思っていませんでしたので、レッドブルに感謝しています」

【社内でマックスのファンが増えた】

── RBPTが当初計画していたのは、パワーユニットを受け取って自ら運用するというものでした。しかしそれは簡単なことではなく、ホンダが全力でサポートしてきたからこそ、レッドブルはこれだけの成功を収められました。それだけホンダの貢献は大きかったわけですよね。

「そうですね。『開発凍結だから何もしない』というふうに思われがちですし、その努力や貢献をわかっていただくのはなかなか難しいと思うんですけど、HRC Sakuraのメンバーたちは極限までパワーユニットを使いきっていくスタンスで、ピリピリしながらもやり続けました。勝ち続けた2023年だって『自分たちのミスで連勝が止まるなんてことはあってはならない』という思いもありました。

 2024年はマシンが苦しいなか、少しでも車体側に貢献していこうと、どれだけ高い温度でパワーユニットを使えるかをテストして、エンジニアたちもパワーユニットをいじめながら空力面に寄与しようと最後までがんばってくれました。そんな状況のなかであれだけの結果を挙げてこられたのは、本当にうれしかったですね」

── この8年間で、特に記憶に残っているのは?

「2019年のオーストリアGPの初優勝や、2021年の最終戦アブダビGPのタイトル獲得は特に記憶に残っていますが、個人的には今年の日本GPも涙が出るくらいうれしかったですね。それほど競争力があるとは思えない状況ながらも、マックス(・フェルスタッペン)がポールポジションを獲り、優勝しました。

 マックスのホンダに対するリスペクトみたいな思いもすごく感じたし、それがHRC Sakuraのメンバーたちにも伝わって、社内でもマックスファンが増えました。彼のタイトル獲得のために貢献したいという思いがより一層強くなったのは、あの勝利があったからこそだと思います。マックス自身も『ホンダにとってどれだけ鈴鹿が大事なのかはわかっているよ』と言ってくれて、彼の思いはものすごく感じましたね」

【角田のシートは残すべきと伝えたが...】

── 今後はまた、どこかでフェルスタッペンとタッグを組む可能性も?

「今日(最終戦アブダビGP)で一旦お別れするのは寂しい気持ちですが、この先に何があるかはわかりません。機会があれば、ホンダとしてはもちろんウェルカムです。

 我々はチームを持っていないので、ドライバーの選択権があるわけではありませんけど、我々が一緒にやるチームのドライバー選定に意見を出すことはできます。最終的にはチームに決めてもらうことになりますけどね」

── 角田裕毅のシート喪失について、ホンダとしてはどのように捉えていますか?

「残念ではありますが......世界最高峰のレースの20席しかないシートに残っていくのは、そんなに甘い話ではないでしょう。速さを見せた部分もあったとは思いますが、いろんな理由はあれども、うまく結果が出せなかったことも事実です。

 チームがいろんな角度から評価してドライバーを決めていくうえで、最終戦が終わるまでは我々もパートナーですから意見を交換できる状態にはありましたので、『角田裕毅はレッドブルグループの4つのシートのなかには残すべきなのではないか』という意見は伝えました。レッドブル側も『ホンダの意見としてわかりました』ということでした。

 メキシコシティGPを訪れた際にも、我々は対面でかなり話をしましたし、その後もリモートで継続しながら最終決定前にもいろんな話をしました。しかし、チームとしてこういう判断に至ったということです」

── 角田選手に足りなかったのは、何だとお考えですか?

「『結果を出せなかった』ということが大きな要因ではないかと思います。ただ、2026年はレッドブルの開発に貢献して、もう一度レッドブルのシートを獲りにいくのか、もしくは他チームでチャンスを探すのか、いずれにしてもまだあきらめる必要はないと思います。

 下で留まっている人よりも上を目指して挑戦する人は、それだけものすごいプレッシャーと苦労を味わいますし、上を狙えば狙うほど挫折をする確率も高くなる。今回はチャンスを逃しましたけど、彼の人生にとってもすごくいい勉強になったと思いますし、まだまだ強くがんばってほしいと思っています。

 来年以降の立ち位置で、我々がバックアップできることがどこまであるかはわかりません。我々がバックアップする必要もないかもしれませんけど、ホンダファミリーのひとりとして温かく見守っていくつもりですし、チャンスがあれば一緒にやりたいなと思っています」

【角田はホンダドライバーであり続ける】

── 岩佐歩夢選手の2025年については?

「まずは岩佐歩夢がスーパーフォーミュラのチャンピオンになったことは、ホンダ陣営としては最高にうれしかったですね。彼自身も『自分のタイトル獲得だけでなく、自分が負けて他陣営(トヨタ陣営)が3連覇するのはホンダとして許せないという、その両方を背負って走りました』と言ってくれていました。

 今シーズンの最初からずっと『SFのチャンピオンを獲得することは、直接F1にリンクしなかったとしても、あなたの人生にとってものすごく大事です。獲りにいきましょう』と伝えてきました。

それをきちんと実現してくれたので、何らかの形で先につながればと思っています」

── 角田選手も岩佐選手も一旦はホンダから離れるものの、関係が完全に途切れるわけではなく、その先に関してはまだ可能性もあると。

「そのとおりですね。彼らはホンダ育成出身ですし、契約うんぬんではなく、気持ちとして彼らはホンダドライバーであり続けます。

 そういう人たちがほかで活躍しても構わないし、ずっと経ってからホンダに帰ってきたっていい。縛りつけて『ウチ以外に乗ったらクビだ』なんていうことではなく、ひとりのトップアスリートとして歩みたい道を歩んでくれればいいと思っています。ホンダとしては、そういうところをバックアップしていければと考えています」

◆渡辺康治・後編>>「我々にはF1で長く積み重ねてきた技術やノウハウがある」

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