今季がアーセナルのシーズンにならなければ、いったいいつになるというのか──。

 ミケル・アルテタ監督が統率するガナーズは4シーズン連続で、プレミアリーグのタイトル争いを演じている。

最後に優勝したのは2003-04シーズン。アーセン・ベンゲルが指揮を執り、ティエリ・アンリが得点王に輝き、無敗優勝を飾って"The invincibles"(無敵のチーム)と呼ばれた頃だ。過去3シーズン、そこから19年ぶり、20年ぶり、21年ぶりの栄冠を追い、時には届きかけたこともあったが、最終的にすべて2位に終わっている。

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 毎回、ファンの期待は落胆に変わるが、新シーズンには再び楽観的な展望が開ける。実際、近年のプレミアリーグで最も高く安定した成績を残しているのも事実だ。

 今季も序盤戦からポジティブな状況が続いた。昨季王者リバプールがスクアッドを大きく入れ替えたことで不振に陥り、マンチェスター・シティはジョゼップ・グアルディオラ監督のもとで再建の途上にある。この2大ライバルの不調もあって、アーセナルは7節終了時から首位の座を守っている。

 ただし似たようなシチュエーションは、2022-23、2023-24シーズンにもあった。だがどちらも結果的に、シティに追い抜かれてしまった。アルテタ監督はシティでアシスタントとして補佐していた恩師グアルディオラを、まだ超えることができていない。

 それでも──。

いよいよ、機は熟したのではないか。

 現在43歳のバスク地方出身のスペイン人指揮官、アルテタはアーセナルで7シーズン目を迎え、着実に強化してきたチームをさらに充実させている。2025年夏にも2億5000万ポンド(約526億円)を投じて豪華な新戦力を獲得し、近年の巨額投資は続いた。

 今年3月には、2024年11月にエドゥがクラブを離れてから不在だったスポーツ・ディレクターに、アンドレア・ベルタが就任。アトレティコ・マドリーで名声を築いたこのイタリア人は、すぐさま噂通りの手腕を発揮し、リバプールに狙われていたマルティン・スビメンディ、トッテナム・ホットスパーが食指を動かしていたエベレチ・エゼ、複数のクラブが熱を上げていたヴィクトル・ギョケレスを獲得し、すでに煌びやかな才能が揃っていたチームをさらに強化した。

【「様々な状況に対処できたから、ここにいる」】

 重厚になった選手層のおかげで、今季序盤にカイ・ハバーツとマルティン・ウーデゴールが負傷離脱しても、昨季の同じ頃のような痛手にはならなかった(昨季はそれもあってリバプールのスタートダッシュを許した)。事実、11月8日の第11節が始まるまでに失ったポイントはわずかに5。

 だが、ウィリアム・サリバとガブリエウ・マガリャンイスのふたりの主力センターバックが戦列を離れたのは痛かった。最後に二人が揃った第11節でサンダーランドと引き分け、第13節のチェルシー戦もドロー、第15節ではアストン・ビラに1-2と惜敗している。

 その後に2連勝し、17試合を終えて勝点39の首位でクリスマスを迎えた。ただし12試合を終えた時点では後続に7ポイントをつけていたが、現在は2位のシティと2ポイントしか差がない。

 過去33シーズンのプレミアリーグで、クリスマスを首位で終えたチームが優勝したケースは17回ある。アルテタ監督が率いるアーセナルはこれまでに2度、そのポジションにいたことがあるが、どちらもリーグ制覇を逃した。

今季、3度目の正直となるか。

「もちろん、今後に困難はあるだろう。ただ我々は様々な状況に対処できてきたから、今この場所(首位)にいるのだ」

 クリスマスに入る前の12月20日のエバートンとのアウェー戦(1-0の勝利)後、アルテタ監督はそう話した。指揮官は自信を維持しているように見える。

 アルテタ監督はグアルディオラの弟子とも言える。だが、先達よりもデータを重視し、セットプレーやロングスローを積極的に採用する。フランス人のセットピース・スペシャリスト、ニコラス・ジョヴェルを雇い、ユリアン・ティンバーのロングスローをガブリエウ・マガリャンイスの頭に合わせる形が、大きな武器になっている。むろん依然として、巧みにパターン化されたようなショートパスの崩しも得意だ。

 シティのグアルディオラ監督はそうしたトレンドや直線的な攻撃を好まず、あくまで創造的なスタイルを続けている。ただし、同胞の弟分には敬意を示す。9月下旬にアーセナルとシティが1-1のドローに終わった後、グアルディオラ監督は次のように話した。

「ミケルは実に有能な指揮官だ。

信じ難いほどに素晴らしい選手を揃え、強力なチームを築き上げている。現在、欧州で最もタフな相手のひとつだ。月日を重ね、移籍マーケットを経るごとに、彼らは強くなっている」

 アストン・ビラのウナイ・エメリ監督も、同じくバスク出身のアルテタ監督を称える。

「アーセナルではアルテタの求める高いスタンダードに、選手たちがしっかり答えている。すごいレベルだよ」

 ただしこの発言は、アストン・ビラが後半追加タイムのエミリアーノ・ブエンディアの決勝ゴールでアーセナルに劇的な2-1の勝利を収めた後だ。エメリはアーセナルで成功できず(2018-19シーズンに就任するも成績不振で2年目に途中解任)、その後任にアルテタが就いたわけだが、2025年12月6日のビラパークではエメリに軍配が上がった。

 アーセナルは続くウォルバーハンプトン戦を終了間際の相手のオウンゴールで制し(2-1)、エバートンにはギョケレスのPKで競り勝った(1-0)。華のない連勝は、強者の証か、それとも......。

【アーセナル、シティ、ビラの三つ巴か】

 ウーデゴーアの復帰は頼もしく、デクラン・ライスには賞賛が寄せられる。プレミアリーグを5回制したウェイン・ルーニーもそのひとりだ。

「決断の下し方、いつどこにどんな強さでパスを出すのか。味方のどの足に、どのタイミングでボールをつけるのか。

彼のプレーは実に細やかなんだ。それにあのフィジカルだ。観ていて本当に楽しいよ」

 生え抜きのエースアタッカー、ブカヨ・サカの奮起を期待するファンは多いはず。今季は負傷の影響もあって、ここまで4得点・1アシスト。以前の圧倒的な姿は影を潜めている。「やることに集中している」と24歳は淡々と言うが、なかなか超えられない一線をまたぐには、ちょっとした奇跡が必要になるかもしれない。

 たとえば、1992-93シーズンにマンチェスター・ユナイテッドがプレミアリーグの最初のシーズンを制した時、4月10日のイースターにスティーブ・ブルースが終盤に2得点を連取し、勢いをつけた。2011-12シーズンのシティのリーグ初優勝は、最終節の後半アディショナルタイムにセルヒオ・アグエロが"あの凄まじいゴール"を決めたからこそ実現したものだ。そこから、ユナイテッドもシティも王朝を築いている。

 はたして、アーセナルは今度こそ、ついに、悲願を達成できるだろうか。条件は揃っている。直近のエバートン戦のベンチには、エゼ、ガブリエウ・マルチネッリ、ノニ・マドゥエケ、ガブリエウ・ジェズス、ミケル・メリーノ、18歳の逸材イーサン・ヌワネリがいた。

この戦力で、「できない」とは言えないはずだ。

 現状、勝点39の首位アーセナル、同37の2位シティ、同36の3位アストン・ヴィラの三つ巴の形になりつつある(4位チェルシーは同29)。

 22年ぶりの優勝へ──。クリスマスの後、アーセナルは三笘薫の所属するブライトン&ホーブ・アルビオン戦を迎える。ホームできっちり勝って、希望を保てるか。

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