学校での部活を取り巻く環境が変化し、部員数減少も課題と言われる現在の日本社会。それでも、さまざまな部活動の楽しさや面白さは、今も昔も変わらない。

 この連載では、学生時代に部活に打ち込んだトップアスリートや著名人に、部活の思い出、部活を通して得たこと、そして、今に生きていることを聞く――。部活やろうぜ!

連載「部活やろうぜ!」

【声優】西山宏太朗インタビュー 後編(全2回)

【部活やろうぜ!】声優・西山宏太朗がバスケットボール部で得た...の画像はこちら >>

 声優という仕事は、マイク前での個の表現であると同時に、チームで作品をつくる協働でもある。息を合わせ、間をつなぎ、言葉をパスする。それはまるで、コート上で仲間を信じて走るバスケットボールそのものだ。

 西山宏太朗が中学校バスケ部で培った"楽しむ力"と"折れない心"は、アフレコ現場やステージ、そして新たに始めたテニスにも息づいている。

【声の呼吸にバスケのリズムが宿る】

――声優の現場で、バスケットボール部の経験は生きていますか?

西山宏太朗(以下、同):精神力がいちばん大きいですね。思うようにいかないときに、踏みとどまる粘り。あとは呼吸とタイミング。TVアニメ『キミと越えて恋になる』(TOKYO MXほか)では、バスケ部に所属する相田雪紘役を演じていて、プレーの呼吸を声に乗せるとき、体で覚えた感覚が活きていると感じます。

――それにアフレコはチームプレーですもんね。

 そうですね。言葉のキャッチボールって、パスの出し方と同じなんですよね。相手が次に動きやすいように、受け取りやすいタイミングやスピードで声を届ける。

シーンの空気を感じ取りながら、自分の"呼吸"と相手の"呼吸"がぴたりと重なる瞬間があるんです。

 そういうときって、演じるというより"一緒にそこに生きている"感覚に近くて。スタジオに立って、みんなの息遣いやちょっとした間が揃ったときに「あ、この感じ、部活で感じてた空気だ」と思うことがあります。チームでひとつの作品をつくっている実感があって、すごく好きなんです。

――そもそも、声優を志したきっかけってなんだったんですか?

 小学生の頃に、声優さんの顔を紹介する番組があったんですよね。アニメのキャラクターの裏側に、ちゃんと"声を担当している人"がいるんだって知ったとき、すごくワクワクして。「声で世界をつくる仕事って面白そうだな」って思ったのが最初のきっかけです。

 それと、小学校のときに担任の先生から「朗読が上手で賞」をもらったことがあって。学年末に一人ひとりを表彰してくれるイベントだったんですけど、あの賞状がすごくうれしかったんですよ。「声で表現することが、好きなんだな」「もしかしたら、自分に向いてるのかも」って、自信をもらえた瞬間でした。その頃から、学芸会では影絵の朗読をやったり、キャラクターの声を積極的に担当したりして。気づいたら、自然と声優になりたいって考えるようになっていました。

――そうした"空気がひとつになる瞬間"って、スポーツでも感じられるものですよね。最近はBリーグの現場にも行かれたそうですね。

 レポーターとして伺ったんですが、選手の集中力と気迫がすごいんです。会場全体がひとつの塊みたいになっていて、そのなかに身を置くと「やっぱりスポーツっていいな」って思うんですよね。観ているだけで胸が熱くなるし、どこか懐かしくて。

 それに、このお仕事をいただけたのも、プロフィールの特技に"バスケ"って書いてあったからなんです。中学の頃に部活でやっていた経験が、こうしてまた別の形で自分に返ってくるのがうれしくて。「好きだったことはちゃんと自分の中に残っているんだな」って感じました。

【コミュニティはひとつじゃなくていい】

――こうやってお話を伺っていると、西山さんにとって部活は単なる活動以上の存在だったように感じます。では、学生にとって、部活動にはどんな価値があると思いますか?

 部活って、そこでしか味わえない役割や責任があると思うんです。クラスの教室とはまた違う関係性が生まれて、一緒に汗をかいて、同じ目標に向かっていく。その時間が積み重なることで、ただの友達とも少し違う、特別な絆ができるんですよね。

 それと、ひとつの場所にとどまらず、できれば複数のコミュニティに触れてみてほしいなと思います。僕自身、バスケだけじゃなくて書道やアトリエにも通っていて、それぞれの空気の中で、違う自分でいられたことがすごく大きかったんです。

 たくさんの場所に足を運ぶほど、「あ、自分はこういうことが好きなんだ」「こういう環境が心地いいんだ」っていう小さな発見が増えていく。そういう積み重ねが将来の選択肢を広げてくれる気がしますし、自分の軸にもなっていくと思います。部活って、そういう出会いのきっかけをくれる場所なんですよね。

――形にこだわらず、興味が湧いたらまず動いてみる。そして、またやりたくなったら自然と戻る。そういうスタイルが、いまの仕事にもつながっている気がしますね。

  "新陳代謝"がいいんですよ(笑)。でも、続けなきゃいけないって決めて苦しくなるより、気持ちが動いたときにちゃんと踏み出せる方が、自分には合ってるんだと思います。英語も、いまはアプリやチャットで勉強していて、続いてくれていたらラッキーくらいの気持ちです。やめても、またやりたくなったら戻ればいい。

それくらいの柔らかさでいいと思うんですよね。

――そんな西山さんが、"いまやるならこれだ"と思うスポーツは?

 やっぱりバスケですね。また体育館に行って、友だちと汗かいて、キャイキャイやりたいです。実はちょっと前に急にバスケがしたくなって、バスケットボールを買ったんですよ。で、そのままお店からドリブルしながら帰りました(笑)。

 テニスは......軽井沢でやるのが夢です(笑)。めっちゃミーハーですよね。でも、そういう理想のシチュエーションごと楽しみたいタイプで。道具を揃えるところからワクワクしたくなるんです。

――最後に、部活を迷っている学生や何かを始めようと思っている人にメッセージをお願いします。

 やってみて、合わなければやめていいと思う。でも、まずは一歩踏み出してみてほしいです。

誰かと同じ目的で集まって、汗を流したり、なにかを一緒に積み上げたりする時間って、大人になると意識しないと作れないんですよね。

 自分もまた、部活をやりたいなって思うくらい、あの時間は特別だったので。仲間と出会える場所を、自分のためにつくってあげてほしいです。

【部活やろうぜ!】声優・西山宏太朗がバスケットボール部で得た呼吸と一体感が、声優の現場で生きる

●Profile
西山宏太朗(にしやま・こうたろう)/10月11日生まれ、神奈川県出身。
2009年に行なわれた第3回81オーディション特別賞を受賞し、2011年より81プロデュース所属となる。デビュー以降数々の作品に出演し、2018年には第12回声優アワードにて新人男優賞を受賞する。声優として活躍するなか、2020年秋頃にミニアルバム「CITY」にてアーティストデビュー。

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