高丘陽平、MLSを語る(中編)

 2025年シーズン、高丘陽平(バンクーバー・ホワイトキャップス)はMLS(メジャーリーグサッカー)のファイナリストになっている。

 ハイライトは世界最高選手リオネル・メッシを筆頭にジョルディ・アルバ、セルヒオ・ブスケツ、ロドリゴ・デ・パウル、ルイス・スアレスなど、代表やクラブで世界王者になったスーパースターを擁したインテル・マイアミとの決勝戦だろう。

試合は結局、3-1と惜しくも敗れたが、互角以上に渡り合っている。

 メッシの特別な輝きを感じる試合でもあった。1-1で迎えた後半、自陣でややもたついたバンクーバーの選手の隙を見逃さず、メッシがボールを奪い返すと、デ・パウルへのスルーパスから得点。さらにメッシはアルバからのサイドチェンジを胸で受けると、ボールの落ち際を左足で裏に出し、アルゼンチンFWタデオ・アジェンデがゴールネットを揺らした。

「メッシにしか見えない風景があって、自分も感じようとしたんですが......」

 高丘はそう振り返るが、特別な一戦だった。

高丘陽平が間近で感じたMLSスター選手たちのプレー 「メッシ...の画像はこちら >>
――インテル・マイアミにはCONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)チャンピオンズカップ準決勝で勝利していたし、メッシが相手でも勝ち筋があって挑んだはずですが......。

「そうですね。相手のやり方はわかっているなか、どこが弱いかもわかっていました。ボールを持ったメッシは危険だけど、付け入る隙はあって、自分たちがボールを持つ戦略で、運んで決めきるまで準備していましたが......」

――インテル・マイアミは老練な選手が多く、勝負強かったです。

「自分たちが"決勝の戦いができなかった"ですね。今まで続けてきたサッカーは大事でしたけど、プラス、サッカーじゃない部分というか......。マイアミと比べると、勝負の際での甘さなのか」

――いわゆる「世界」を感じましたか?

「同じ舞台でプレーしているなか、"こいつらが世界だ"とは感じなかったです。

メッシがボールを持ったらチャンスにつながったし、その凄さは感じましたけど」

【ディフェンスラインのわずかな崩れも見逃さない】

――ただ、38歳で世界最高選手のメッシは異質でした。

「ボールを持った時の彼にしか見えていない景色があると思うので、そこを僕も感じ取ろうとしたんです。でも、ワンテンポに満たないタイミングの違いで、ずらされてしまって。その一瞬が、試合だと致命的でした」

――メッシからアジェンデというラインはひとつの得点パターンで、研究していたはずです。

「何度も映像で観ていたし、CONCACAF準決勝でもあったシーンなので。でも、決勝特有の空気か、うまく対応できませんでした。メッシは、ディフェンスラインのわずかな崩れも見逃さなかった。ボールを奪い取ったシーンも、バンクーバーの選手の体が強張っているのがわかって、"ここは突きにいける"と判断したのでしょうね」

――メッシを始め、10人もアルゼンチン人選手がいるマイアミは、リードすると狡猾でした。

「2-1とされたあとは、厳しくファウルに来て文句を言い、ちょっとでもファウルを受けると痛そうに転がって(苦笑)、審判と喋りながら時間を稼いで......僕らはリードを許して追いつこうという展開で、常に先手を取られて、彼らの特徴のほうが出やすかったですね。マイアミのほうが"決勝用のサッカーをしていた"とも言えます」

――メッシはオールスターに選出されており、高丘選手も選ばれたので、味方で戦っていた(相手はメキシコリーグ選抜)かもしれないんですよね。

「メッシは選出されていたんですが、試合に来ませんでした。同じく来なかったアルバも罰金で、次のMLSは出場停止でしたね(苦笑)。

当日までスタッフも、選手も、『メッシは来るの、来ないの?』ってまったくわからない状況で、一緒にやってみたかったですけどね」

【GKは身長がすべてではない】

――今シーズンは3年目のMLSで、日本人GKのパイオニアとして名を刻みつけました。

「MLSでアジア人のGKは自分がひとり目だと思うので、"いいイメージ、いい印象を与えないと"という使命感を持ってやってきました。次に来る人にも道をつくってあげたいって」

――ロサンゼルス・ギャラクシーの吉田麻也選手は、キャプテンとしてMLS優勝をやってのけています。さすがのひと言ですね。

「2023年に入ってすぐにキャプテンになり、2024年はフルで出て、MLSカップ優勝でした。麻也さんの場合、欧州でのキャリアが評価を受けて入った形で、自分とは違いますが、同じ日本人がリスペクトされるのは誇りに思います」

――3シーズンの挑戦で、何を得たでしょうか?

「端的に言うと、適応力ですかね。MLSは、本当にいろんな国の選手が来て、対戦します。スタジアムの移動距離の長さ、時差もあるし、天候も違う。場所によっては高地で空気が薄く、ボールが伸びる。人工芝のピッチや幅が狭いところもあるし、ニューヨークだったらヤンキーススタジアムでのプレーになり、経験したことがない環境でベストパフォーマンスを出せるかが求められます。

 自分の場合、試合前に入念にピッチを確認しますね。照明の感じ、芝の匂いや質感、ピッチの横幅も測り、今年は緑色のボールだったので反射の感じとか。

豊富な情報を頭に入れて、そのなかで選択する。取捨選択の精度が上がったのが、適応力とも言えますね」

――MLSは一見して、パワフルでスピードのある選手が多く、その強度は遥かにJリーグを凌駕し、クロスひとつをとっても迫力が違います。

「いるべきポジションにいて、正しい体の使い方ができていれば、怖くはないですね。正しいパワーでボールにいけないから負けるので。相手がでかくて勢いを持って来ても、自分が先に片足で跳び、正しいタイミングで手を使えたら、負けないですよ」

――高丘選手は身長183cmで、大型化するGKのなかでは小柄ですが、ハンデを感じさせません。MLSでベストGKのひとりになったのは、まさにその証左です。

「客観的な数字ではリーグでも一番小さいGKですが、ピッチで小ささは感じません。身長はひとつの要素で、すべてではない。正しいポジションをとり、正しい選択をできるか。自分はその精度や質で戦ってきたし、ハイボールも、正しく技術とタイミングを使えば、2メートルの選手にも負けません。データ的にも、リーグでのハイボールのキャッチ率、パンチ率はかなり上位ですよ」
(つづく)

高丘陽平(たかおか・ようへい)
1996年、神奈川県生まれ。横浜FCジュニアユース、ユースを経て、2014年、トップチームに昇格。

その後、サガン鳥栖、横浜F・マリノスを経て、2023年、MLSのバンクーバー・ホワイトキャップスに移籍。3シーズン目となる2025年は、MLSの頂点を決めるMLSカップ準優勝に貢献した。

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