『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載vol.2(20)

東京グレートベアーズ 大前隆貴 前編

【小学校の時は「リベロにしか目がいかなかった」】

 東京グレートベアーズの大前隆貴(23歳)は、幼くしてひとつの道筋を見つけた。

「小学校の頃、春高で活躍していた星城高校の川口(太一)選手を見て、『こんなふうになりたい』って思いました」

【男子バレー】東京GBの大前隆貴が憧れた石川祐希と同級生のリ...の画像はこちら >>

 当時、星城高校は石川祐希を擁し、2年連続の高校三冠(インターハイ、国体、春高バレー)を達成している。だが、彼の目に留まったのは石川ではなく、リベロの川口だった。

川口は卒業後、豊田合成トレフェルサ(現ウルフドッグス名古屋)に入団し、フィンランドやドイツのクラブでもプレーしている。

「川口さんのようなリベロになりたくて、ずっとマネしていました。小学校ではフライングを、ベッドで練習してから床でやっていましたね。レシーブが好きで、リベロにしか目がいきませんでした。川口さんと同じように星城高校に入って、春高に出るのが目標になったんです」

 しかし、大前が"天職"のリベロに辿り着くまでの道は曲がり角の連続だった――。

 愛知県名古屋市に生まれた大前は、小学3年でバレーを始めているが、その土台ができるのはもっと早かった。

「ふたりの姉が小学校の部活でバレーを始め、クラブチームにも入っていたんです。自分は幼稚園の年少の頃からそれについていって、端っこでパスをやっていたら、いつの間にかバレーが好きになって。習う前から、ずっと壁に向かってパスをしていました」

 アンダー、オーバーのパスを壁に向かって繰り返すと、姉の練習も終わっていたという。それほど没頭していた。

「ちゃんとチームに入ったのが小3の時。ずっとボールを触っていたから、姉が入っていた女子チームの方が『男子チームも作るか?』となって。

それで、姉の友達の弟が加わって3人になって、それぞれ学校の友達を呼んで6人になった。いきなり大会に出たんですが、県大会まで進めて楽しかったです。翌年以降はもっと人が集まり、6年生の時には東海大会で優勝しました」

 大前は、まさに"はじまりの人"だった。小学校は自由で、バレー漫画『ハイキュー‼』(集英社)の変人速攻もマネしていたという。「これくらいの速さだったら、変人速攻じゃん」と、バレーに夢中になった。ちなみに、そのクラブは鳴東VBCで、今や全国指折りのクラブだ。

【春高本戦の前に起きた体の異変】

「中学は男子バレー部があったんですが、経験者は自分ひとりだったので、指導者みたいな感じでやっていました。上級生も『なるほど』って素直に聞いてくれたんですよ」

 中学時代のポジションは一応スパイカーだったが、なんでもやった。JOC(ジュニアオリンピックカップ。各都道府県の選抜チームで争われる全国大会)のメンバーにも選ばれたが、当時のJOCはリベロがなく、セッターを務めた。

 そのままセッターを続け、憧れの星城高校から声をかけてもらったという。頭の回転が速く、センスもあったのだろう。

「高校ではいろいろ教えてもらいました。

セッターを始めて間もなかったので、『ジャンプトスって、どうやってやるの?』という感じでしたね」

 大前は笑みをもらす。ただ、目指していた春高には思わぬ形で出場することになる。

「1年の時からレギュラーだったんですが、予選で負けてしまって。3年生になってようやく出場を決めたんですが、イップスで思うようなトスが上がらなくなったんです。それで監督に、『出られません』と伝えました。それを言わなかったら出ることはできたでしょうけど、ちゃんとトスが上がらないのが怖かったし、ほかの3年生の高校バレーを終わらせるわけにはいかなかったんです」

 憧れの舞台は、リリーフサーバーとしての出場に終わった。それは悔しい思い出だが、それが転機となる。愛知学院大学で、リベロとしてプレーする機会を得たのだ。

「ずっとリベロをやりたかったので、とにかく楽しくて。1年生の時から出させてもらい、いろんなリベロを見ながら『これ、いいな』と技術を盗んで。それで西日本インカレで優勝して、個人賞ももらいましたし、いい方向に進みました」

【SVリーグ開幕直前のケガにも前向き】

 大前は、瞬く間に大学バレー界有数のリベロになった。あらゆるポジションを、リベロの視点でやってきた経験が実を結んだのかもしれない。

大学3年の夏、就職活動をするなかで一念発起した。

「『Vリーグ(現在のSVリーグ)でプレーしたい』という思いはありましたが、実際にできるとは思っていなくて。でも、『東京グレートベアーズがリベロを募集していて、練習に参加できる』という話を聞いたんです。

 そこで、『こんなことできたっけ』と思うくらいにうまくいったんですよ。柳田(将洋)選手のサーブをセッターの正面に返すことができたり、ジャンプトスをしてブロックをゼロ枚にすることができたり。ルンルンで帰ったのを覚えています」

 大前は朗らかに笑った。4年生になる前に内定をもらい、昨年2月には東レアローズ静岡戦でSVリーグデビューを飾っている。熱狂が渦を巻く会場で、昂揚感を覚えた。

「親には、『運がいい』と言われます」

 バレーの神様に愛されているのだろう。すべての道がつながっていた。急がば回れ。トップリーグのリベロに辿り着いたのだ。

 ただ、神様も時には厳しい。2025-26シーズンのSVリーグ開幕4日前、大前は右手の中手骨骨折で手術を受けた。全治2~3カ月という診断で、右手には痛々しい傷あとがあった。

「フライングで指からいってしまって......。最初は突き指だと思って、練習を続けたんですが、レントゲンを撮ったら『折れています』と。いい準備ができていたのでショックでしたけど、深津(旭弘)さんに『神様が何か教えてくれているんだよ』と声をかけてもらいました」

 大前はあけすけに言う。そこに暗さはない。リベロとして成功するイメージがあるからだ。

「復帰したら、レシーブで持ち味を出したいです。1点取ったら走り回って、雰囲気をよくしていきたい。コートに入ったらチームの温度が上がる選手になりたいです」

 回り道をしながらトップリーグに辿り着いた男に、焦りはない。

(後編:大前隆貴は日向翔陽と星海光来をベストメンバーに選出「ちっちゃくても勝てる」>>)

【プロフィール】

大前隆貴(おおまえ・りゅうき)

所属:東京グレートベアーズ

2002年11月21日生まれ、愛知県出身。

174cm・リベロ。ふたりの姉の影響で、小学3年でバレーを始める。中学時代、JOC(ジュニアオリンピックカップ)に出場する代表メンバーに選ばれた。星城高校時代はセッターとして活躍し、3年時に春高バレーに出場した。愛知学院大学ではリベロで西日本インカレで優勝し、リベロ賞などを受賞。卒業後の2025年、東京グレートベアーズに入団した。

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