西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 
第82回 ブラヒム・ディアス

 日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。

 レアル・マドリードのブラヒム・ディアスが、アフリカネーションズカップを戦うモロッコ代表で絶好調。W杯で戦うかもしれない日本代表にとって脅威です。

【5試合連続ゴール】

 アフリカネーションズカップで5試合連続ゴール。ブラヒム・ディアスはベスト4へ進出したモロッコ代表の牽引役となっている。

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 スペインのマラガで生まれ、スペインのアンダー世代代表でプレーしてきたが、スペイン代表出場歴は2021年の1試合のみ。2024年3月にモロッコ代表の招集に応じた。

 モロッコでは4-1-4-1の右サイドMFでプレー。自国開催のネーションズカップではグループステージ3試合、ラウンド16、そして準々決勝とすべての試合で得点している。このまま下馬評どおりモロッコが優勝すれば、MVPに選出されることになるだろう。

 マラガのカンテラ時代に「マラガのメッシ」と呼ばれたように、ディアスのプレースタイルはリオネル・メッシに似ている。常に左足の近くにボールを置き続けるドリブルのタッチ、低重心のバランスの良さと初速の速さ、相手の重心を見てシンプルに逆をついていく運び方など、メッシとよく似ている。

 右のハーフスペースを主戦場とするところも同じ。ただ、非常に俊敏だがメッシほど速くはない。

そのせいかディアスのドリブルは抜き去るというよりずらす形が多く、フィニッシュも右足が多い。シュートに関しては利き足の左よりも威力があるかもしれない。

 相手を何度もずらす持ち方が特徴。動くと見せて止まる、止まりかけてまた動く、これを繰り返してずれを作る。その時のボディバランスが独特で、ほとんど転びかけているのを復元する能力が驚異的だ。

 ペナルティエリア右側でボールを持った時のディアスは、相手にとって最大の脅威。うかつに足を出せばPKになりかねず、そうかといって対峙しても強引に揺さぶられてシュートやラストパスを繰り出す一瞬の隙を作られてしまう。

 カタールW杯で4位だったモロッコは、4年前の主力の多くが健在。さらにブラヒム・ディアスという強力な「補強」があった。北中米W杯ではブラジルと同じグループCに入ったが、ブラジルを制して1位通過する可能性はけっこう高いのではないだろうか。

【隙のないモロッコ】

 アフリカネーションズカップ準々決勝ではカメルーンを2-0で下した。ここまでの5試合では最もモロッコらしいプレーぶりだった。

 開幕戦はコモロに2-0。

第2戦はマリに1-1、第3戦はザンビアに3-0。

 ラウンド16はタンザニアに1-0、内容的にはほぼワンサイドながらディアスの個人技からの1得点にとどまっている。ここまでの4試合は相手が守備を固める展開。本来、堅守速攻に強みのあるモロッコらしいプレーにならなかったのが原因だろう。

 準々決勝のカメルーン戦では相手が前に出てきたので、4-1-4-1のミドルゾーンのブロックで迎撃し、すかさずカウンターを仕掛けるモロッコの特徴が発揮された。この型になった時は、W杯の優勝候補に加えられるくらいの機能性と強さがある。カメルーンにほとんど決定機を作らせない完勝だった。

 モロッコの守備は隙がない。開幕戦で負傷したCBロマン・サイスが離脱、さらにMFの実力者アゼディン・ウナヒも負傷離脱、アンカーでチームの要のソフィアン・アムラバトもケガを抱えて、カメルーン戦でようやく交代出場。3人の主力を欠いていたが、守備の完成度は揺るぎなかった。攻撃のエースであるディアスを含め、全員の献身性と機能性が高い。

【技巧的かつ組織的なチームを象徴するエース】

 マラガのユースからマンチェスター・シティへ移籍してプロデビュー、さらにレアル・マドリードに移籍。

ミランへの貸し出しでは10番を背負って活躍し、昨季からレアル・マドリードへ復帰している。所属クラブを見てもディアスの価値が知れるわけだが、必ずしも順調なキャリアではない。

 シティでのユース時代はジェイドン・サンチョ、フィル・フォーデンとともに将来を嘱望されていたが、トップチームでは層の厚さに阻まれてほとんど出場機会がなかった。次のレアル・マドリードでもプレー機会は与えられず。貸し出し先のミランでの活躍でレアル・マドリードに戻り、ようやく出場機会が増えてきたものの、キリアン・エンバペ、ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ、フランコ・マスタントゥオーノ、ゴンサロ・ガルシアのいるFW陣のなかでレギュラーポジションを得るには至っていない。

 モロッコ代表は、はじめて絶対的なエースとして認められたチームなのだ。

 5試合連続得点に表われているように、ディアスは替えのきかない存在だが、厳しい競争で揉まれてきたせいか、守備でもまったく手抜きがない。その点で、技巧的かつ組織的な現在のモロッコを象徴する選手となっている。

 隙のないモロッコの守備だが、まったく弱点がないわけではない。

 攻撃でカウンターになった時は一気に複数がゴール前へ殺到していく。そのスピード感と迫力はモロッコの良さなのだが、ボールを奪われた時に中盤に大きなスペースが空いてしまうのだ。

 しかし、その弱点もすぐに打ち消している。

前進した選手たちの戻りがとても速いからで、ディアスはそこでの貢献度も高い。

 日本代表が北中米W杯グループFを1位または2位で通過すると、ラウンド32で当たるのはブラジルかモロッコになる可能性が高い。日本は強化試合でブラジルに勝っているが、モロッコも2023年にブラジルを破っている。もし、日本がモロッコと対戦すると、かなり似た者同士の熾烈な攻防になりそうである。

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