錦織圭という奇跡【第11回】
奈良くるみの視点(3)
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◆奈良くるみの視点(1)>>「『SLAM DUNK』を貸してくれたのは、圭くんだった」
◆奈良くるみの視点(2)>>コートで豹変。厳しい要求に「そんなの無理だよ!」
世界が新型コロナウイルスに覆われた、2020年からの2年間──。
渡航規制や入出国後の隔離義務があるために、ひとたび海外に出たら、長期遠征を余儀なくされる。世界を覆った閉塞感は、旅を生活の場とするテニス選手たちを、心身ともに疲弊させた。
キャリア最高位32位を記録した奈良くるみさんにとっても、この頃は精神的にもプレー面でも多くの浮き沈みを経験した数年間だったという。そんな彼女のキャリア終盤は、錦織圭との関わりが増えたタイミングでもあった。
※ ※ ※ ※ ※
2021年の3月、奈良さんは遠征先の北米で負傷する。コロナ禍の異国での治療は難しいが、帰国によって奪われる時間も大きい。そんな折に、「うちに来れば?」と提案してくれたのが、錦織だったという。
「ケガをして、どうしようかと困っていた時に、圭くんに相談してみたんです。そうしたら、『うちに来れば』って。圭くんの家にトレーナーのロビー(・オオハシ)さんもいたので、『ロビーに診てもらえるから』ということで、コーチの(原田)夏希さんと一緒に圭くんのお家に行かせていただきました。
当時はコロナ禍だったので、IMGアカデミーに外部の人は入れなかったんです。
圭くんがめっちゃ優しいなと思ったのが、毎朝、スムージーを作ってくれたことなんですよ。当時の圭くんはかなり健康志向で、すごくヘルシーなスムージーだった記憶があります。食事は正直、私のほうが量を食べていたくらいで。『こんなに重いもの食べるの?』って指摘されたこともありました。あとは、みんなで謎の鍋を作った覚えが......ちょっと微妙な味でしたね。
夕食のあとは、必ずみんなでカードゲームをやるんです。そういう時も、圭くんは勝負師というか、すごく頭を使っているなって思いました」
【見るだけでも学ぶことがあった】
まるで合宿のようにともに過ごし、リラックスしつつも、錦織から多大なモチベーションも得た5日間──。
その効果もあっただろうか。直後に参戦した4月末のチャールストン開催のWTA500ツアー大会で、奈良さんは予選を突破し、本戦でもベスト16へと躍進。それは、前年にモチベーションを失いかけ、引退も考えていた奈良さんにとって、ここ数年で得た最高の戦果でもあった。
それから1年後の2022年4月にも、奈良さんは日本のナショナルトレーニングセンター(NTC/東京都北区)で、錦織と多くの時間を共有した。
「たまたま圭くんと私がNTCで、同じ時間帯で練習することが何度かあったんです。あの時は、最初は私が圭くんのとなりのコートでリターン練習していたのかな。そうしたら圭くんに、フォアハンドのテイクバックが大きいって言われたんです。
たしかに、テイクバックをコンパクトにしたほうがリアクションは早くなる。ただそうすると、私としてはパワーを出せるイメージが湧かなかったんですね。
そこで、圭くんのリターンをじっくり見てみたら、たしかにテイクバックは小さいけれど、体のローテーションがしっかりしてるんです。腕ではなく、体の回転で引き込む感じだなと思って。そこからはイメージもできるようになったので、やっぱり、見るだけでも学ぶことがかなりあるなと感じました」
そこからの錦織は、具体的な助言も与えてくれたという。
「かなり細かく見てくれました。『ボールへの入り方が遅い』とか、『そんなに前に突っ込まなくていいよ』とか、逆に『遠すぎる』とか。
【テニス、辞めてもいいのかな】
続けて、こんなエピソードも教えてくれた。
「たとえば、(原田)夏希さんが圭くんに『フォアでクロスを打って相手を外に追い出す時、どういうことを意識している?』って聞いたことがあったんです。その時は、あんまりはっきりした答えがなかったんですが、次の日に『考えてみたんですが、やっぱりボールの外側を叩くイメージです』って教えてくれました。
その時だけでなく、こちらの質問に対してしっかり考えて答えを出し、ちゃんと言葉で伝えてくれたことが何回かあったので、やっぱりすごく頭を使っているし、本当に頭がいいんだなと思いました。テニスを作り上げることに関しては『ここまで考えてるんだな』と感心したし、学ぶことはとても多かったです」
これらの日々は奈良さんにとって、多くを学び、純粋にテニスに打ち込んだ充実の時だったのだろう。実際にこの個人指導のあと、奈良さんのリターンのフォームは錦織とそっくりになっていた。
錦織との練習後、最初に参戦した韓国開催のITF(国際テニス連盟)賞金総額2万5千ドル大会で、奈良さんは5つの白星を連ね、ひとつもセットを落とすことなく優勝した。
それはここ一年ほど、納得できる試合や「力を出しきった」との感覚から遠ざかっていた奈良さんにとって、久々に覚える充足感と達成感でもあった。
「がんばれているから、テニス、辞めてもいいのかな」
そんな思いがふと「降ってきた」のは、優勝の翌日だったという。
2022年8月──。
(つづく)
◆奈良くるみの視点(4)>>引退を伝えると「もったいない」を連呼
【profile】
奈良くるみ(なら・くるみ)
1991年12月30日生まれ、兵庫県川西市出身。ジュニア時代から「天才テニス少女」として名を馳せ、中学・高校時代も数々の国内タイトルを制す。2009年にプロ転向し、2014年のリオ・オープンでツアー初優勝。2015年にはセリーナ・ウィリアムズ、2016年にはビーナス・ウィリアムズから金星を挙げる。2022年9月の東レ・パンパシフィック・オープンを最後に現役引退。ランキング最高位シングルス32位。身長155cm。



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