西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第83回 ハンニバル・メイブリ
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。
FIFAワールドカップでサッカー日本代表が対戦するチュニジア代表は、アフリカネーションズカップのラウンド16で敗退。プレミアリーグでプレーするハンニバル・メイブリが中心となっていますが、その戦いぶりを解説します。
【堅守速攻型のチュニジアの問題点】
カルタゴの将軍ハンニバルはローマ帝国を恐怖させた軍人で政治家。歴史的にも最強クラスの戦術家として知られている。カルタゴは現在のチュニジア。偉大な将軍の名を持つハンニバル・メイブリがチュニジア代表の10番だ。
チュニジアは今年のW杯で日本とグループステージ2戦目に対戦する。予選では無敗無失点、親善試合ながらブラジルと引き分けていることからも油断のならない相手だが、アフリカネーションズカップではラウンド16で敗退した。敗退直後、サミ・トラベルシ監督とコーチングスタッフが解任されている。あと半年でチュニジアがどう変わるかはわからないけれども、アフリカネーションズカップのパフォーマンスをみるかぎり日本の優位は動かないと思われる。
チュニジアの問題点は攻撃力だ。ネーションズカップの4試合で7得点している結果だけ見れば、得点力不足とは言えないかもしれない。むしろ堅守のはずが6失点しているので、そちらのほうに問題がありそうだが、失点の多さも攻撃力不足に関連している。
チュニジアの基本システムは4-1-4-1。これはモロッコとよく似ている。
ミドルゾーンにコンパクトな守備ブロックを置き、そこで奪ってのカウンターアタックが持ち味だ。ただし、チュニジアにはモロッコほどの攻撃力がない。モロッコも相手に引かれて得点には苦労していたが、チュニジアはさらに難儀していた。
4試合のうち、グループステージ第2戦のナイジェリア戦を除く3試合は、すべて対戦相手が守備を固めていた。そのためチュニジアがボールを保持して攻め込む流れになっていたわけだが、ローブロックを崩す攻め手がない。いわゆる持たされている格好になってしまい、攻めあぐねているうちに逆襲を食らってしまっている。堅守速攻型の弱点をそのまま露呈していたわけだ。
【攻撃の組み立ての軸となるハンニバル】
ナイジェリア戦は唯一、本来の堅守速攻型の戦い方になっていた。しかし、5バックで守備を固めていた前半に1点を失った。そのため4バックにして攻撃に出ようとしたら、逆に2点を失って0-3。3点差で気を抜いたのかナイジェリアの強度が落ち、終盤に2点を返したが2-3で敗れている。
ラウンド16のマリ戦は26分に相手が退場者を出して10人だったにもかかわらず、ようやく得点できたのが88分。しかしアディショナルタイムに同点とされ、延長でもスコアは動かず。PK戦での敗退となった。
守備を固めた相手に対して、チュニジアはサイドからシンプルにクロスボールを蹴り込むくらいしか攻め手がない。ドリブルで勝負できるタイプが少なく、パスワークでこじ開けることもできず。長身選手が多いのでセットプレーには威力があったが、引かれると崩せない傾向がはっきりと出ていた。
攻撃を牽引するのはインサイドハーフのふたり。33歳のベテラン、フェルジャニ・サシとこの1月で23歳になる中心選手の貫録のハンニバルである。
左側を担当するハンニバルは頻繁に下がってDFからボールを預かり、その間に左サイドバックのアリ・アブディが入れ替わりに高い位置へ進出する。この可変はそれなりに有効なのだが、アブディはドリブラーではなくクロッサーで、そのクロスの質もそこまで高精度とは言えず、一応形にはなっているものの威力はさほどなかった。
ハンニバルは精力的に動いて組み立ての軸となり、ときおりみせるスルーパスも効果的。FKやCKのキッカーとして鋭くカーブするボールを供給する。
チュニジアは2022年のキリンカップの時に来日している。その時は日本を3-0で破っての優勝だった。遠藤航を封じて日本の組み立てを阻害、カウンターアタックで着実に得点を重ねる堅守速攻のチュニジアらしいプレーぶりだった。
10代だったハンニバルも才能の片鱗を見せていた。当時はマンチェスター・ユナイテッドに所属。その後、バーミンガム、セビージャへの期限付き移籍を経て、現在はバーンリーでプレーしている。
【唯一のプレミアリーガー】
欧州各国のクラブでプレーしている選手が主力のチュニジアだが、プレミアリーグはハンニバルだけだ。そのせいか、ひとりだけプレーの基準が違っているように見えた。
4-1-4-1の守備において、相手のセンターバックが守備側のセンターフォワードと同じラインか越えるところまでボールを持って前進してきた場合、インサイドハーフがプレスをかけるのがセオリーだ。ハンニバルはセオリーどおり前に出てプレッシャーをかけていた。ところが、周囲が連動していない。
ハンニバルが周囲と違う判断で動いてしまっているとも言えるが、これで全体が連動しないのならハイプレスへ移行する機能がないということになってしまう。実際、そのために攻め込んでも逆襲を食らいやすく、失点の多さにつながっていた。
攻め手の少なさとともに、押し込んだあとの守備が整備されていない。守備的に戦う術は知っているが、攻撃的に振る舞うのは攻守ともに不得手のようだ。
ハンニバルはラウンド16で敗れたあと、「我々は多くを学ばなければいけない」とコメントを残している。プレミア基準からすれば未整備な部分が多いからだろう。
日本はチュニジアに敗れた4年前と比べると、ハイプレスの手順と威力において各段に進歩した。北アフリカの技巧に翻弄されることはたぶんもうないだろう。だが、残り半年、チュニジアがどの程度進化するかはわからないが、その中心にはハンニバルがいるはずで、いるべきである。
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