ホンダ5年ぶり「F1復帰」の決意(後編)

◆前編>>

 ホンダF1のパワーユニットRA626Hの開発総指揮を執ってきた角田哲史ラージプロジェクトリーダーは、アストンマーティンとの連携は順調に進んできたと振り返る。

「2023年の春に再参戦が決まって以降、かなり早い段階からディスカッションを続け、今年に向けて準備をしてきたつもりです。

お互いの関係性は非常にいいと思っています。

 つい最近も、おおむね実車に近い形でのテストをアストンマーティンのエンジニアやメカニックの方たちと一緒にやれたので、準備はそれだけ進んでいます」

【F1】ホンダの根底に流れる本田宗一郎の想い 復帰の理屈なん...の画像はこちら >>
 RA626Hの前方に突き出たオレンジ色のケースは、ライバルメーカーとは違い、2段重ねになっている。これは車体側からの要求に応えてのものだという。

「バッテリーとコントロールユニットが、あのバッグの中に入っています。当初、チームから、とにかく短いパッケージングにしたいという話があり、2段組みにしたんです。

 今日見ていただいたのは、もちろん最終仕様ではありませんが、あの形にしたのはそれが理由です。中身はまったく新しいバッテリーを作り上げました。これによって、ある程度は競争力に貢献できるのではないかと思っています」

 ホンダとアストンマーティンの間にはすでに家族のような絆(きずな)があると、アストンマーティンのチーフストラテジーオフィサー(最高戦略責任者)を務めるアンディ・コーウェルは言う。

「私たちは謙虚でいなければならない。ものすごく強力なライバルたちと戦っているわけだから、もちろん時間はかかる。でも、家族のように一体となって協力しながら進んでいる。

 昨日の夜も三部(敏宏/ホンダ社長)さんとローレンス(・ストロール/アストンマーティン・オーナー)と一緒に食事をしていて、テーブル越しに『これは家族なんだ』という話をした。

F1の話もあれば、ほかのプロジェクトの話もある。でも、まずはF1、そして勝つことがすべてだ」

【F1への想いはくすぶり続けていた】

 ホンダのパワーユニット開発とレース運営を担うホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長も、アストンマーティンとの絆をこう語る。

「我々は『ワンチーム・ワンファミリーでやろうよ』と言っています。単なるPU(パワーユニット)マニファクチャラーとコンストラクターという関係から、さらにもうひとつ上に行き、目指すクルマの方向性、開発の方向性や課題といったことをすべて共有しながらひとつのチームとして作り上げ、長期的にタイトルを狙えるようになれればと思っています」

 2021年限りでF1から撤退を余儀なくされたあとも、ホンダ内部ではF1への想いがくすぶり続けていた。

 だからこそ、レッドブルパワートレインズへの供給および運営支援という形でF1に関わり続け、技術と知見を絶やすことなく、復帰に向けた足がかりを模索していた。

 そのなかで動き、参戦の条件となるPU製造者登録を行ない、アストンマーティンからのラブコールを受けて提携を取りまとめ、ホンダ本社の承認を得るところまで漕ぎ着けたのが、渡辺社長だった。

「最終的には、2023年4月のホンダ(本社)の経営会議で私が提案するという形で再参戦が決まりましたが、その間には非常に大きな議論がありました。『辞めたのにすぐ戻るのか』という意見もあれば、一方でやはり『ホンダはF1なくしてホンダではない』みたいな意見もあり、相当な議論があったなかでの結論でした。でも、『やると決めたからにはやるんだ、勝つんだ』ということで、意思統一がされています」

 電動化、脱炭素、新たな時代のモビリティへの貢献、さらにはF1の知見による人材とプロダクトの磨き上げなど、ホンダのF1復帰にはさまざまな理由がある。

 しかし根底に流れているのは、F1という世界最高峰の舞台で戦い、世界一になるんだという情熱だ。レースに血湧き肉躍る、泥臭いまでのチャレンジスピリットだ。

 理屈なんてどうあれ、そのひと言ですべてが体現できる技術者たちの集団──。だからこそ、ホンダはホンダなのではないか。

【私たちが受け継ぐホンダの姿勢】

 三部社長は言う。

「ホンダの挑戦の根底には、創業者・本田宗一郎の想いがあります。『世界一にこだわれ』『最も困難なものに挑戦せよ』。この想いは、まさにホンダの『挑戦のDNA』の原点です。

 容易な道ではなく、あえて困難な道を選び、そこから学び成長して、世界に誇れる技術を築いていく──。この精神こそ、今、私たちが受け継ぐホンダの姿勢そのものです。

 そして私たちは、そのスピリットを共有するすばらしいパートナー『アストンマーティン』とともに、同じ目標に向けた新たな挑戦が今シーズンからいよいよ始まります」

 この先に待ち受けているのは、決して平坦な道ではないだろう。

 しかし、そこにホンダスピリットがある限り、ホンダはホンダであり続け、我々に感動を与え続けてくれるはずだ。

編集部おすすめ