アメリカで注目を集める井上尚弥の対戦相手は、中谷潤人のほかに...の画像はこちら >>

後編:「モンスター」井上尚弥のPFPの位置付けと2026年展望

【ウシクに及ばない部分とは】

 2026年、井上尚弥は『リングマガジン』のパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングで1位に再浮上し、同時に各媒体、団体が選定する"Fighter of the Year(年間最優秀選手)"も受賞する可能性がある。まだ今年度のファイトシーンが本格的にスタートしていない段階で気が早い話であるが、この2冠に最も近い位置にいるのが、ほかならない"モンスター"であるはずだ。

 新年を迎えた時点で、井上はPFPの2位(注・過去すでに2度にわたってトップに立った経験があり)。

1位のテレンス・クロフォード(アメリカ)が昨年12月、無敗のまま引退を表明したことで、2位のオレクサンデル・ウシク(ウクライナ)が1位に、3位の井上が2位にそれぞれランクアップした形になった。

 クルーザー級からヘビー級に上げても勝ち続け、その2階級で4団体統一を成し遂げたウシクの功績は、どれだけ賞賛されても大げさな評価ではない。しかもキャリアを通じてほとんどの試合を敵地で戦ってきたことを考慮すれば、ウクライナの拳豪は依然として過小評価されていると感じることも多い。

 とはいえ、PFPランキングは往々にして「What you have done lately(最近、何をやったのか)」で判断されるもの。ランキングの活性化を考えればそうあるべきであり、特に2025年は4戦をこなし、世界リングを沸かせ続けた井上の功績も高く評価されてしかるべきである。実際に昨年末、『リングマガジン』のランキング選定委員である南アフリカのドロークス・マラン氏は、アラン・ピカソ戦での判定勝ち直後にすでに井上の1位復帰を推していた。

「PFPのトップに立つ存在として、井上のことは常に頭にある。ピカソをストップしていれば、間違いなく1位に据えたいと思っていた。実際にはそうならなかったので、反対の立場の主張にも反論するつもりはない。ただ、今年(2025年)、井上は(キム・イェジュンを除けば)かなり手強い相手を相手に4度のタイトル防衛を果たした。一方、ウシクはその1戦が非常にすばらしい勝利だったとしても、1年で1試合しか戦っていない」

 ここではほかの選定委員から、井上1位再浮上の賛同は得られなかった。それでもこのような意見を聞けば、"モンスター"が依然としてトップに近い位置にいるボクサーとして目されていることはわかってくるだろう。

そして、来るべきビッグイベントを印象的な形で制せば、PFPの頂点もきっと見えてくる。

 そう、鍵になるのは、5月に予定される中谷潤人とのスーパーファイトである。

【中谷潤人と2026年の井上尚弥】

 31戦全勝(24KO)の中谷は現在、リングマガジンのPFPでも6位にランクされている。井上の輝かしいキャリアのなかでも、PFPランカーとの対戦が実現すれば初めてのこと。この試合の価値、意味、インパクトに関して、日本のボクシングファンには、詳しく説明する必要はないだろう。

 中谷は昨年12月、セバスチャン・エルナンデス(メキシコ)戦で厳しい経験を味わった。判定勝ちを収めたものの、試合後にはPFP7位のシャクール・スティーブンソン(アメリカ/ライト級)と順位を入れ替えるべきという声が選定委員の間で挙がったほどの大苦戦。ただ、強豪ボクサーとは苦戦を糧にさらに成長するもので、通称"ビッグバン"が5月までにもっと強くなっても不思議はない。

 過去最大のステージで5歳も若い中谷という難敵を乗り越えれば、"モンスター"の株はさらに上昇する。もちろん内容次第だが、明白な勝利でさえあれば、井上のPFP1位浮上は有力だろう。特にウシクは昨年7月以降は試合をこなしておらず、次戦の相手として元王者アンディ・ルイスJrの名が挙がってはいるものの、まだ具体的な進展がないのであればなおさらだ。

 まだ気が早いことを承知で少し先走っておくと、"中谷戦以降"も楽しみである。井上は「(2026年は)2試合かもしれないとは聞いています」と述べており、計画どおりなら秋~冬に挙行されるのであろう次々戦も当然ビッグファイトになるはず。

そこでの有力プランは、フェザー級に上げての5階級挑戦に違いない。

 昨年12月のピカソ戦前、井上自身とその陣営が「(2026年)5月のフェザー級挑戦もあり得る」と話したことが大きなニュースになった。結局、5月はやはり中谷戦になりそうな雲行きだが、そこをクリアすれば、その後にフェザー級への昇級を考えるのは自然な流れだろう。

 フェザー級にもWBO王者ラファエル・エスピノサ(メキシコ)、WBA王者ニック・ボール(イギリス)、IBF王者アンジェロ・レオ、WBC暫定王者ブルース・カーリントン(ともにアメリカ)といった名前の通った王者がいる。エスピノサ、レオ、カーリントンとの対戦であれば、アメリカでのタイトルマッチ開催も可能。"モンスター"にとってもラストになるかもしれない"昇級戦"の行方は興味深くもある。

【中谷戦以上に待望されているマッチアップとは?】

 最後にもうひとつ。アメリカでは井上とジェシー・"バム"・ロドリゲス(アメリカ)との対戦がおそらく中谷戦以上に待望のカードになりつつあることを記しておきたい。すでにフライ級、スーパーフライ級の2階級を制した"バム"は23勝 (16KO) 無敗。2025年はプメレレ・カフ、フェルナンド・マルチネスとの2度のスーパーフライ級統一戦でも連続KO勝ちを飾り、圧倒的な強さと勢いでPFPランキングでも3位まで浮上してきた。

 欧米での知名度では"バム"は中谷を上回っており、井上との対戦は正真正銘の軽量級スーパーファイトになる。単なる"大興行"ではなく"メガマッチ"をアメリカで行おうと目論めば、"バム"以外の選択肢はないと言い換えてもいい。

現在2階級も離れているのがネックだが、昨年11月に話を聞いた際、井上も現在26歳の若者の力量を認める言葉を残していた。

「試合をフルで見たことはないんですけど、強いとは思っています。好きなタイプのボクサーですし、噛み合うでしょうね。階級を上げてきてくれるのであれば対戦相手候補のひとりとして、もちろん可能ではありますけど、ただ今はまだスーパーフライ級で戦っている選手なので」

 身長164cmの"バム"は骨格的にも大きくはなく、フェザー級以上への昇級は難しいのではないか。となると、井上戦の可能性は2026年後半、井上がスーパーバンタム級に残り、"バム"が一気に同階級まで進出してきたときくらい。可能性は高いとは言えないが、頭の片隅に残しておきたいマッチアップではある。

 こうして見ていくと、相手はどうあれ、2026年の井上は2試合のビッグファイトを行なう可能性が十分にあることがわかってくる。もちろんまずは難敵"ビッグバン"との戦いに完全集中だが、順調に運べば、そのボクシング人生の中でも最大の1年になるかもしれない。そうなると、上記どおり、PFP1位と年間最優秀選手受賞は射程圏内―――。

 軽量級の最前線を走り続けてきた"モンスター"は、もうキャリア終盤に近づいているはずだが、それでもその勢いと充実感が衰えることはない。話題性に関しては、おそらく今がピーク。井上に魅せられた世界中のボクシングファンにとって、目の離せない時間がまだまだ続くことは間違いなさそうだ。

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