連載第87回
サッカー観戦7700試合超! 後藤健生の「来た、観た、蹴った」
現場観戦7700試合を達成したベテランサッカージャーナリストの後藤健生氏が、豊富な取材経験からサッカーの歴史、文化、エピソードを綴ります。
寒波・降雪のなか行なわれたJリーグ開幕節。
【寒波・降雪の影響を受ける2月開催】
Jリーグの秋春制移行に伴って行なわれる特別シーズン「百年構想リーグ」が開幕したが、開幕節が開催された2月の第1週、日本列島は大寒波に見舞われた。
もともと、北国や豪雪地帯のクラブのホーム開幕は、3月に設定されていた。たとえば青森県勢として初めてJ2に昇格したヴァンラーレ八戸はホーム開幕が待ち遠しいことだろうが、プライフーズスタジアムでのホーム開幕戦(対横浜FC)は3月8日に設定されている。青森県は記録的な寒波に襲われており、太平洋側の八戸は降雪量こそ多くないが、気温は日中でも氷点下になる日もあるから、ホーム開幕が遅れるのはやむを得ない。
その八戸の、栃木SCとの開幕戦はカンセキスタジアムとちぎで予定されていたのだが、この試合も降雪の影響で中止になった。2月8日に予定されていたJ2・J3百年構想リーグ地域リーグラウンドのうち3試合が降雪のために中止になってしまったのだ。
幸い、注目度の高いJ1の試合は予定通りに開催され、各スタジアムには数多くの観客が集まったが、降雪のなか、あるいは周囲に雪が降り積もったままの試合も多かった。
今シーズンは例年より早い2月第1週の開催だったという事情はあるが、今後も2月にはこうした事態を避けるのは難しいだろう。
本格的に秋春制に移行する2026-27シーズンは12月第2週あたりでウィンターブレークに入り、リーグ戦再開は2月中旬になると伝えられているが、それでも豪雪や寒波の影響を受ける可能性はある。
一方で、シーズン開幕は2026年8月7~9日とされており、まさに猛暑の時期の開幕となる。
反科学主義の立場に立つアメリカのドナルド・トランプ大統領は、自国を襲った大寒波に際して「地球温暖化はどうなった?」と温暖化対策を揶揄する投稿を行なったが、「温暖化」は必ずしも冬場の気温上昇を意味しない。「温暖化」が冬場に偏西風の蛇行などを引き起こして、大規模な寒波をもたらすのだ。
気候変動が激しくなればスポーツも大きな影響を受ける。現在、ミラノ・コルティナ冬季五輪でも競技会場付近で降雪量が減っているため大量の人工雪が必要となり、それがエネルギー浪費や環境破壊をもたらすという批判もある。
【欧州リーグの冬も寒い】
秋春制には欧州サッカーのシーズン制に合わせることによるメリットがあるので、Jリーグ発足直後から秋春制導入が論じられてきたが、これまでは豪雪地帯のクラブの反対によって導入が見送られてきた。だが、このところの真夏の猛暑が問題となるなかでついに秋春制導入が決まった。
ただ、どんなシーズン制を採用するにしても、日本でサッカーのリーグ戦を実施するとなると冬場の寒波や豪雪、夏場の猛暑や雷雨の影響を避けられない。その影響を少しでも軽減する方法を模索していくしかないのだろう。
では、そもそも欧州ではどうして秋春制を実施しているのだろうか?
日本に比べて緯度が高い欧州大陸の冬は寒さが厳しい。ただ、日本と違ってほとんどの地域で降雪量はそれほど多くないので、スカンジナビア諸国など北欧やアルプス地域を除けば真冬でも試合開催が可能だ。だから、ほとんどの国で短いウィンターブレークをはさみながらリーグ戦が実施されているし、イングランドなどはブレークなしで年末年始にもリーグ戦が行なわれる。
ただし、寒い。
冬場の観戦は僕も何度か経験しているが、フランス北部のボーヴェというところで2部リーグ(リーグ2)を観戦した時、試合中に急激に気温が下がって氷点下になり、ピッチが凍りはじめるとボールの挙動まで変わったのを見て驚いた記憶がある。
また、2017年11月にロシアW杯欧州予選プレーオフ(2次予選)最終戦のスイス対北アイルランドの試合を観にバーゼルに行った時は、街中の広場はすでにクリスマスマーケットで賑わっていて"本格的な欧州の冬"といった雰囲気で、18時の試合開始時の気温は4度ほどあったが、冷たい雨も降ってきたので本当に寒かった。
冬の寒さに比べれば、欧州の夏はすごしやすい。もちろん、イベリア半島などは暑いし、ドイツなどでも熱波に襲われることもあるが、日本のように2カ月近くにわたって連日高温多湿が続くことはない。
それなら、欧州こそ春秋制にすれば極寒のなかでの観戦を強いられることはないし、夏場には遅い時間まで明るくて快適な夕刻に試合を行なえばいいのではないか......。
そう考えるのは僕だけではないようで、もう何十年も前から、欧州でも「春秋制に移行すべき」と主張する人はいる。
だが、「春秋制移行論」はほとんど論議されることすらない。
欧州の人たちにとって、たとえ極寒のなかでの観戦を強いられるとしても「サッカーは冬のスポーツ」というのが常識なのだ。
【欧州はどうして秋春制なのか】
近代的なフットボールという競技が確立されたのは19世紀のイングランドでのことだった。中世から存在する「フットボール」という遊びを近代化したものだった。
「民俗フットボール」とか「マス(大衆の)フットボール」と呼ばれる中世のフットボールには明確なルールも人数制限もなく、ただ「ボールを敵陣に運び込んだら勝ち」という負傷者続出の"野蛮な遊び"で、冬の寒い時期にキリスト教の暦に従って年に1回行なわれるお祭りのようなものだった。
だから、近代化したあともフットボールは冬のスポーツで、19世紀のイングランドでは「夏はクリケット、冬はフットボール」というシーズン制がはっきりしていた。
だから、サッカー(アソシエーション式フットボール)だけでなく、ラグビー(ユニオン式とリーグ式)もアメリカンフットボールもオーストラリアンフットボール(オージーボール)も、基本的にフットボールはすべて冬のスポーツなのだ。
肉体的接触プレーが激しいラグビーは、サッカー以上に暑さのなかでのプレーに適さない。また、アメリカンフットボールでは最近は屋根付きスタジアムも増えてきたが、雪の降る寒さのなかで数万人がスタジアムを埋め尽くす光景が魅力のひとつになっている。
例外はアメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)や豪州のAリーグのような新興リーグで、それぞれの国で伝統のある他の形態のフットボールとの差別化を図るために春秋制を採用している(南半球の豪州の「春秋」は欧州の「秋春」に当たるので都合がいい)。
ただし、MLSは2027年から秋春制に移行することが決まっている。
アメリカではいわゆる「4大スポーツ」のうち、ベースボール以外はアイスホッケーもバスケットボールも、やはり冬がシーズンだ。欧米人にとって相手ゴールにボールを運び込むフットボール型のゲームは、やはり冬のスポーツとして認識されているのだろう。
気候的な制約は欧米諸国と異なるにしても、日本も本格的にフットボールを社会に実装していくためには、秋春制に慣れていくしかないのであろうか。
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