「スターダム」葉月 インタビュー後編

(前編:葉月が振り返る、中学卒業後から始まったスターダムでの日々 引退からの復帰も経て得た「幸せな場所」>>)

 タレントのフワちゃんをプロレスラーへと脱皮させた"師匠"の葉月。指導をする過程で感じたフワちゃんのポテンシャルや真剣度、そしてコーチとして意識することとは。

 一方で、世界を見据える現役トップレスラーでとして、海外遠征で直面した過酷なサバイバル生活を経験し、かつての師・紫雷イオ(IYO SKY)との再戦や、手が届かずにいる「白いベルト」への思いも強く胸に抱いている。そんな2026年に懸ける覚悟を聞いた。

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【フワちゃんに感じたプロレスラーとしての覚悟】

――昨年12月にプロレス再デビューを飾ったフワちゃんのコーチを務めましたが、どんな経緯があったんですか?

葉月:最初はテレビの企画の流れで、当時所属していたユニット「STARS」に指導の依頼があり、最終的に私が教えることになりました。私は物ごとを感覚ではなく、「これをこうしたら、なぜこうなるのか」と理論的に理解するタイプ。だからフワちゃんに対しても、さまざまなことを言語化して教えることができたのかなと思っています。

――フワちゃんに対して、レスラーとしてのポテンシャルを感じますか?

葉月:かなり吸収が早いですし、「本当に新人なのかな」と思う瞬間があります。芸能界で培われた"舞台慣れ"もありますが、何より思いきりのよさがすばらしい。相手の技を受ける際も、全力で受身を取ってくれます。その姿勢を見ていると、自分の新人の頃は「これほどできなかったな」と感心させられます。

――再デビュー後もフワちゃんのコーチを続けていますが、デビュー当時から変化はありましたか?

葉月:当初から真剣でしたが、より真剣度が増したと感じます。「プロレスの世界で生きていくんだ」という覚悟を持っている。私も必ず、週に2、3回は練習を見ています。

――再デビューは葉月選手自らシングルマッチの相手を務めました。

教え子と戦う心境はいかがでしたか?

葉月:楽しみもありましたが、実は不安もありました。フワちゃんのプロレスラーとしての覚悟を、ふたりでお客さんにしっかり伝えなければならない。「彼女が覚悟を見せられるかどうかは、私次第な部分もある」と考えていたので、プレッシャーも含め、複雑な感情がありました。

【コーチとして、フワちゃんの姿勢に応えたい】

――現在はフワちゃんとタッグを組む機会が増えていますね。

葉月:今は「フワちゃんを強くしてあげたい」「自力で勝利をつかませてあげたい」という気持ちが強いんです。そのなかで、タッグならではの楽しさを伝えたいと思っています。

――将来的にはフワちゃんとタッグベルトも見据えていますか?

葉月:いずれは狙いたいですが、私だけの気持ちだけでは決められません。パートナーとしてのフワちゃんの気持ちも大切ですから、お互いに話し合いながらですね。ただ、現在のトップ戦線で活躍するユニット「H.A.T.E.」の選手と渡り合うには、もう少し時間が必要ですね。

――フワちゃんが使う技は、葉月選手のアドバイスで決めたんですか?

葉月:私から提案することもありますし、彼女から「この技を使ってみたい」と相談されることもあります。彼女自身、動画を見て熱心に勉強していますからね。

――ご自身の試合に加え、コーチという大役。精神的にパンクすることはありませんか?

葉月:ありますね(笑)。

オフでもプロレスのことを考えてしまいます。今は自分のこれからも考えなければいけない時期ですが、つい「フワちゃんをどうよくするか」を優先して考えてしまう。それがまとまってから、ようやく自分のことを考える、という順序になっています。

――まさに"師匠"のような視点ですね。バックステージでも、落ち込むフワちゃんに対して的確なフィードバックをしている姿が印象的です。

葉月:彼女は練習の時から自分の動きを動画に撮って、ドロップキックなどひとつひとつの技を何度も見返して反省しています。その姿勢に、私もしっかり応えたい。最近は「フワちゃんが評価されているのはコーチがいいからだ」と言っていただけることも増えましたが、指導者としても報われていると感じています。

【メキシコで経験した過酷な連戦】

――葉月選手自身は現在、CMLL日本女子王座(メキシコ)とスパーク女子王座(アメリカ)を保持しています。昨年はFWC(コグマとのタッグ)として海外遠征も経験しましたね。

葉月:日本と海外では戦い方もファンの評価もまったく違います。ただ、これだけ長くプロレスを続けてきたからこそ、どんな環境でも戦える対応力は備わっていると感じました。メキシコでも、FWCのタッグワークを見せることができたし、大きな収穫でした。

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自身のプロレス人生と今後について語った葉月photo by Shogo Murakami

――メキシコは食事の面で過酷だと聞きます。

葉月:実は、食事はできるだけ食べないようにしていました。連戦が続く過酷なスケジュールだったので、お腹を壊して試合に出られなくなるのが一番怖かったです。とにかく、水ですね。水道水は絶対に口にせず、ペットボトルの水しか飲まないようにしました。リング上だけでなく、衛生面など"見えない敵"とも戦っている感覚でしたね。

――海外ではバス移動でのトラブルもよく耳にします。

葉月:出発時間もよくわかりませんし、点呼も一切ないんですよ(笑)。自分の座席は決まっていても、いつ出発するのかわからない。通訳の人から「12時出発だと思います」と言われても、実際には13時すぎまで動かなかったり......移動中の車内で、大音量でサスペンス映画が流れていて、悲鳴が響くなかでまったく眠れなかった時もありましたね。「静かに寝かせてよ!」と思いましたよ(笑)。

――そう考えると、日本の環境は恵まれていますね。

葉月:日本は食べ物がおいしいし、治安もいい。海外だと「スリに気をつけろ」「ポケットにスマホを入れるな」と常に気を張っていないといけませんでしたから。安心して生活できるありがたさをあらためて感じました。

【紫雷イオ、白いベルトへの思い】

――二冠王者として、今後どのような活動をしていきたいですか?

葉月:スターダムのベルトではないですが、だからこそ、より世界に広く発信していけると考えています。世界を舞台に活躍するのが一番の目標ですね。

――プロレスを始めるきっかけになったWWEなど、海外への意識が強いのでしょうか。

葉月:それもあります。海外で活躍している選手、特にイオ(紫雷イオ)さんとはもう一度戦いたい。イオさんとは渡米前の壮行試合(2018年6月17日)で戦って以来、対戦していませんからね。きっとイオさんのなかの「葉月」は、当時のまま止まっていると思うんです。対戦が実現したら、「今の私はあの頃とは違うぞ」と積み重ねてきたものを見せたいですね。

――今年7月でデビュー12周年目を迎えます。

プロレス人生を振り返っていかがですか。

葉月:ひと言で言えば「険しい道」でした。もちろん、ベルトを獲って脚光を浴びる時期もありましたが、自分のなかでは「耐えなければならない時期」のほうがずっと長かったな、という印象です。でも、その耐える時期があったから今がある、とも思っています。

――今の目標は?

葉月:「白いベルト(ワンダー・オブ・スターダム王座)」を巻くことです。私が意識し始めたのは、2016年12月にカイリ選手(現WWE所属のカイリ・セイン)とタイトルマッチをしてからなんです。それから何度挑戦しても届かない、悔しい経験が続いています。その"忘れ物"を、今年こそは執念で掴み取りたいと思います。

――2026年、ファンの方にどのような姿を見せていきたいですか?

葉月:お客さんに満足して帰ってもらうのはプロとして当然ですが、今年は「レスラー・葉月」としての評価をもっと高めたいです。今はコーチとしてフワちゃんのことを第一に考えて動いていますし、今年も彼女につきっきりになるつもりですが、一方で「自分のことを一番に考えられる年」にしたい。それが、私を応援してくれるファンの方々への最大の恩返しになると思っています。

【プロフィール】

葉月(はづき)

1997年9月29日生まれ、福岡県出身。

身長155cm。中学時代、独学でトレーニングを開始し、卒業から半年でスターダムに入団。2014年7月6日にデビュー。紫雷イオ率いる「Queen's Quest」での活動を経て、2018年に「大江戸隊」へ移籍。2019年12月に突如引退。約2年間のブランクを経て、2021年10月にスターダムへ電撃復帰。現在はコグマとのタッグ「FWC(福岡ダブルクレイジー)」として活躍する傍ら、CMLL日本女子王座・スパーク女子王座の二冠を保持。タレント・フワちゃんのコーチも務めるなど、技術・信頼ともに団体を支える柱のひとり。

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