【連載】
松井大輔「稀代のドリブラー完全解剖」
第9回:ネイマール

 これまで世界のサッカーシーンをリードしてきた「南米の王国」ブラジルは、ペレ、ジーコ、ロナウド、ロナウジーニョといった歴史に名を残すレジェンドを数多く輩出してきた。

 彼らに共通しているのは、真剣勝負のなかであっても、いつもサッカーそのものを楽しんでプレーしていたことだ。

独特のボールテクニックやリズミカルな動きによって、対峙する相手を翻弄。プレーの随所に"遊び心"が詰まっていて、見る者を魅了した。

 そんなブラジルサッカーの伝統を継承する「クラッキ(名手)」が、現在ブラジルの名門サントスでプレーするネイマールだろう。

ネイマールのドリブルテクニックは「遊びの天才」ロナウジーニョ...の画像はこちら >>
 17歳でプロ契約を交わしたサントスにはじまり、バルセロナとパリ・サンジェルマン、そしてアル・ヒラル(サウジアラビア)でもプレー。世界中の各所でネイマールが披露した数々のテクニックは、プロを目指す世界中の少年少女に大きな影響を与えてきた。

 もちろん、選手としても多くの実績を残す。とりわけ2010年にデビューしたブラジル代表ではこれまで79得点を積み重ね、あの王様ペレを抜いて歴代最多得点記録を更新中だ。近年は度重なるケガに悩まされているが、現在は半月板の手術を終え、来たる北中米ワールドカップに向けて戦列に復帰したばかりだ。

 そんなネイマールの代名詞がドリブルだ。そのドリブルには、どのような特徴があり、どのようなテクニックが潜んでいるのか。現在育成年代を指導しながら、Fリーグ(日本フットサルリーグ)理事長も務める松井大輔氏が解説してくれた。

   ※   ※   ※   ※   ※

「まず個人的に思うのは、もうネイマールのようなドリブラーは生まれないかもしれない、ということですね。

ある意味、ドリブラーとしてのネイマールは現代サッカーのなかでは絶滅危惧種だと思います。

 現在もトップクラスのドリブラーは多くいますが、メッシも含め、ほぼ全員が効率重視というか、実戦的なドリブルで違いを生み出します。でも、ネイマールのドリブルには、フットサルやストリートサッカーで身につけた"遊び"が散りばめられています。ひと昔前にはロナウジーニョが独特のテクニックで世界のトップに君臨しましたが、ドリブルテクニックで言えば、ネイマールはそれ以上ですね」

【ヨーロッパサッカーの適応に苦労も】

 さらにネイマールのドリブルを深掘りする。

「たとえば、足のかかとを使って、相手の頭上をボールが越えるように宙に浮かせて抜き去るヒールリフトなどは、彼の代表的なテクニックです。足の裏でボールをなめるようにして転がして、相手の重心を傾けてから、逆足でボールを動かして一瞬で抜き去るドリブルも、ネイマールならではのテクニックです。

 細かいボールタッチでドリブル突破することもあれば、スペースに大きくボールを蹴り出してスピードで抜き去ることもできる。普通はどちらかひとつに偏るものですが、ネイマールはその両方を使い分け、しかもあらゆる体の部位を使ってボールを扱い、ブラジル人特有の『ジンガ』と呼ばれる体の動きも巧みに使うので、相手はネイマールが次に何をしてくるのかまったく予測できない。結局、最後はファウルで止めるしかありません」

 ネイマールと言えば、試合中の接触プレーのあと、わざと倒れて痛みに苦しんでいるように見せる姿が批判を浴びることもあったが、あれは自分をケガから守る術(すべ)でもあるのだろう。逆に言えば、それほどネイマールのドリブルを止めるのは難しいということだ。

「僕がポーランドのレヒア・グダニスクでプレーしていた時代に、プレシーズンマッチでバルセロナに加入したばかりのネイマールと対戦したことがありました。

 ただ、その時のネイマールは、ボールを持ちすぎて相手に囲まれてしまい、ボールロストしたりファウルで倒されたりするケースがほとんどでした。あれだけのテクニックを持つネイマールも、ヨーロッパのサッカーに適応するのに苦労していた、というのが当時の印象です。

 実際、プロデビューしたサントス時代のネイマールは試合のなかであらゆるドリブルテクニックを披露していましたが、バルセロナ時代になると少し効率的なドリブルに変化したと思います。ヨーロッパのサッカーはブラジルと比べてスペースが少なく、複数の相手が組織的に守ってくるため、自分のプレースタイルをそれに合わせて変えたのでしょう。

 その分、ヨーロッパのサッカーに順応してからのネイマールは、ドリブルだけでなく、シュートやパスのテクニックが磨かれました。結果的に、より完成された選手になったと思います」

【フットサルの足技に上達のヒント】

 チーム戦術がブラッシュアップされ、複雑化する現代サッカーにおいて、ネイマールのような生粋のテクニシャンを見る機会はほとんどなくなった。「ネイマールは絶滅危惧種」と松井氏が言う理由はそこにあるのだろう。

 とはいえ、ファンを楽しませることも、プロの世界では欠かせない要素であることに変わりはないはず。見る側からすれば、高度な戦術を楽しむのも悪くはないが、想像もできないようなテクニックを見せてくれる選手に魅力を感じるのも事実だ。

 では、ネイマールのような生粋のドリブラーになるためには、どのようなトレーニングをするのが近道なのか。松井氏がヒントを教えてくれた。

「個人的には、小学生年代はフットサルをプレーして、ドリブルなどの足技を磨くことを推奨したいですね。

 ブラジルでは、ネイマールのように小さい頃にフットサルをプレーしていた選手が多く、狭いスペースのなかでどのようにすればドリブルで局面を打開できるかを経験し、そのためのテクニックを自然と身につけることができます。

 たとえば、フットサルではボールを足裏で扱うプレーが当たり前ですが、サッカーでは指導者から『足裏を使うな』と言われることがあります。

でも、足裏でボールを止めるとボールが完全に止まるので、相手の守備の動きも止めることができます。そのほかにも、カットインのドリブルなどはフットサルで磨くことができますし、小さい頃にそのテクニックを習得することが、いずれサッカーでも役立つことは間違いありません。

 その意味でも、小学生年代は週2日程度、フットサルをやってほしいですね」

 ブラジルサッカー史のなかでも屈指のドリブルテクニックを持つネイマール。復帰後、無事にコンディションが戻ってくれば、6月のワールドカップの大舞台では類(たぐい)まれなドリブルテクニックで世界中のサッカーファンを魅了してくれるに違いない。

(第10回/最終回「久保建英」につづく)


【profile】
松井大輔(まつい・だいすけ)
1981年5月11日生まれ、京都府京都市出身。2000年に鹿児島実業高から京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)に加入。その後、ル・マン→サンテティエンヌ→グルノーブル→トム・トムスク→グルノーブル→ディジョン→スラヴィア・ソフィア→レヒア・グダニスク→ジュビロ磐田→オドラ・オポーレ→横浜FC→サイゴンFC→Y.S.C.C.横浜でプレーし、2024年2月に現役引退を発表。現在はFリーグ理事長、浦和レッズアカデミーロールモデルコーチ、U-18日本代表ロールモデルコーチ、京都橘大学客員教授を務めている。日本代表31試合1得点。2004年アテネ五輪、2010年南アフリカW杯出場。ポジション=MF。身長175cm、体重66kg。

編集部おすすめ