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【火の国に帰ってきたGⅠ】

「勝った選手が強かったです」

 GⅠの決勝戦で、敗れた選手にそう言わしめた脇本雄太(福井・94期)が、2026年最初のGⅠ『第41回 読売新聞社杯全日本選抜競輪』を制した。

 熱戦の舞台となったのは熊本競輪場。2016年の熊本地震ではバンクにヒビが入るなど甚大な被害を受け、一時は廃止も検討されるなど再開が危ぶまれたものの、熱烈な地元の競輪ファンの後押しを受けて再建された復興の証のひとつだ。

 2024年には従来の500mバンクから400mバンクへと生まれ変わった姿で再開し、先月にはすべての工事を終えて新たにグランドオープン。2012年以来、実に14年ぶりに"火の国"に競輪のGⅠが帰ってきた。

 出場選手の基準に、選考期間内に「各登録都道府県の平均競走得点が1位の者」「全国8地区ごとの平均競走得点の上位選手各3名」といった項目があるとおり、各都道府県や地域から選び抜かれた競輪界のトップ選手、108名が集結。2月20日から4日間にわたるこの激しい戦いに熊本のファンは連日大声援を送った。

【布石は「2日前の失敗」】

 そんな各地域のなかでも、とくに予選から強い存在感を放ったのが近畿地区だった。初日の特別選抜予選で上位に入った選手による2日目のレース「スタールビー賞」を古性優作(大阪・100期)が制すると、3日目の準決勝でも10レースで脇本、11レースで寺崎浩平(福井・117期)が1着で勝ち上がりを決めるなど、決勝に4選手が名を連ねる充実ぶりを見せた。

 迎えた決勝当日。スタンドを埋め尽くす観客を前にクライマックスを告げる号砲が鳴り響くと、勝ち進んだ9選手が一斉にスタートを切った。注目の近畿勢は、寺崎が先頭に立ち、その後ろに脇本、古性、三谷将太(奈良・92期)が並ぶ4車で先行集団を形成。昨年のKEIRINグランプリ王者である郡司浩平(神奈川・99期)がその背後に着き、後ろの選手たちも前方を伺いながら続いた。

「ヒジの状態は10%」でも脇本雄太がGⅠ全日本選抜競輪を連覇 決め手は2日前のレースと寺崎浩平の覚悟
先頭から寺崎、脇本、古性、三谷の近畿勢。その後ろに郡司がつく photo by Photoraid
 隊列も落ち着き、残り2周となったところで先頭の寺崎がしきりに背後を振り返ると、後続の動きを待つことなくグッと加速する。

 この動きの布石はスタールビー賞にあった。寺崎を先頭に脇本、古性が続くという決勝と同じ3名の並びだったが、この時には打鐘のタイミングで郡司に進出を許していた。

1着こそ古性がさらったものの、ラインは完全に崩れてしまっていた。


「生半可なペースだと郡司さんが中団からラスト1周にめがけてくると思ったので、今度は郡司さんに来られないよう、しっかりと主導権を取ろうと思っていました」

 レース後、寺崎はラインの先頭を走る者として「勝てる組み立て」を狙った覚悟の加速だったことを明かしたが、その気持ちは背後の脇本にしっかりと伝わっていた。

「2日前の失敗があったからこそ、残り2周の1コーナーで(寺崎の狙いを)察知しました」

 言葉にせずとも伝わる覚悟と絆でつながった近畿勢は打鐘を受け、さらにスパートをかける。バックストレッチで脇本が抜け出し、その背後をぴったりと古性が追う。選手が「壁に向かうよう」と形容するほど急なカント(勾配)の最終コーナー、そしてホームストレッチでもマッチレースは続いたが、最後までその差が縮まることなく、脇本が3/4車身の差をつけて11回目のGⅠ優勝を決める決定線へと飛び込んだ。

「ヒジの状態は10%」でも脇本雄太がGⅠ全日本選抜競輪を連覇 決め手は2日前のレースと寺崎浩平の覚悟
ゴール付近。脇本が猛々しく駆け抜けた photo by Photoraid

【左ヒジの大ケガをカバーする絆の栄冠】

「ケガで状態が万全じゃないなかで、仲間に助けられました」

 バンク内の表彰式で、そして優勝会見で、脇本は仲間への感謝の言葉を繰り返した。脇本は昨年10月に練習中の事故で左ヒジの関節脱臼と複雑骨折という大ケガを負い、復帰直後の昨年末のKEIRINグランプリでは9着。今月もドクターストップによる欠場を経て、今なお「ヒジの状態は10%にも満たない」という。

 それでも圧巻の走りを披露できたのは何度も連係を繰り返している近畿勢との絆があったからだ。昨年8月の『オールスター競輪』では今回とは逆の形で、脇本が先頭を走り寺崎が優勝を果たしている。デッドヒートを繰り広げた古性も「個人的には久々にいい感覚だった。前のふたり(寺崎と脇本)が強すぎた」と覚悟の走りを讃えた。

 これで脇本は昨年に続いて全日本選抜競輪を連覇し、2026年末のKEIRINグランプリ出場権も一番乗りで確定させた。

 大地震から念願の復活を果たした競輪場で、大ケガから復活の狼煙をあげた脇本の走りは、14年ぶりの大舞台を待ちわびたファンに勇気と希望を与えたことだろう。

「ヒジの状態は10%」でも脇本雄太がGⅠ全日本選抜競輪を連覇 決め手は2日前のレースと寺崎浩平の覚悟
仲間への感謝を口にする脇本 photo by Photoraid

【近畿勢でGⅠ独占を狙う】

「ヒジの完治はまだまだ先。3月のウィナーズカップ(GⅡ)では仕上げたい」

 喜びも束の間、次の目標へ視線を定めた脇本。これも、自分ひとりで戦っているわけではないからこその言葉だ。チャンピオンが「近畿は強い。もっと層を厚くしていきたい」と勝って兜の緒を締めると、古性も「すべてのタイトルを近畿勢で獲りたい。そのためにいいスタートが切れたと思うし、次は自分が獲るつもりで」と意気込んだ。

 近畿地区は今回決勝に駒を進めた4選手だけでなく、S級S班の南修二(大阪・88期)らまだまだ実力ある選手がひしめき合う。互いに切磋琢磨して実力を高め合い、大舞台でレースを掌握する姿を見せられると"GⅠ独占"も現実味のある言葉に思えてくる。

 敗れた郡司が「決勝はラインで乗ってなんぼだと思う」と同地区で勝ち上がることの意義に言及し、GⅠ常連の実力者・菅田壱道(宮城・91期)も「今回は北日本がひとりも決勝に乗れなかった」と悔しさを表したように、競輪は個人の戦いであると同時に地区の威信をかけた戦いでもある。

 前代未聞のタイトル独占を狙う近畿と、目の色を変えて襲いに来る他地区との戦いからは目が離せない。今年のGⅠはあと5回。

戦いは、まだ始まったばかりだ。

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