大谷翔平×中村悠平バッテリーが明かすWBC2023決勝秘話(前編)

「スイーパー、捕れますよ!」

 日本代表に合流した大谷翔平と再会を果たしたら、中村悠平は第一声、そう声がけしてニッコリ微笑んでみせるのだそうだ。

「翔平のあの言葉、うれしかったんですよ。

年上イジり、バンバンじゃないですか(笑)。だから、本当にうれしかった。だから、翔平がチームに合流したら、バンバン、イジってほしいし、僕もバンバンイジろうかなと思ってます。『スイーパー、捕れますよ』のネタでね(笑)」

 そのネタの"ココロ"、そして「翔平のあの言葉」とは何か、順を追って説明しよう。

【WBC】初球スイーパーに込められた大谷翔平の真意 中村悠平...の画像はこちら >>

【WBC決勝で初めて大谷翔平とバッテリー】

 3年前の第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、アメリカとの決勝戦。3対2と日本がリードして迎えた9回表、マスクを被っていたのは中村だった。そしてマウンドへ大谷が向かう。

 じつはこの時、中村どころかほとんどのコーチ、選手たちには大谷がクローザーで登板する可能性があることさえ知らされていなかった。なぜならこの日の大谷のリリーフ登板は栗山英樹監督と大谷の間に通う阿吽の呼吸から実現したウルトラCで、栗山監督も試合前の段階では大谷が投げられるかどうか、100%の確信が持てていなかったからだ。

 そして中村はこの時点で、まだ一度も大谷の球を受けたことがなかった。試合だけでなく、ブルペンでも大谷の投げる球を捕ったことがなかった。WBC決勝で1点差の9回表、ここで中村は初めて大谷のボールを受けたのである。中村はこう言っていた。

「いや、そうなんですよ(笑)。それまでの翔平を受けてたのが甲斐(拓也)でしたから、決勝でも9回は甲斐となってもおかしくなかった。それでも村田(善則コーチ)さんが『悠平で大丈夫』と言って、僕に任せてくれたのは本当にうれしかったですね」

 そもそも大谷は、チームに合流してからほとんどブルペンで投げていない。投げたとしても試合の出力からはほど遠い強度でしか投げず、その少ない機会は試合で組む甲斐が優先されてきた。

 大谷は東京ドームでの初戦と準々決勝の2試合に先発し、この2試合のキャッチャーは甲斐で行くことが決まっていた。それでピッチャーとしての仕事は終わりだという起用法がチームの中で共有されていたのだ。とあっては、ブルペンで大谷と中村を組ませる必要がなかったことも頷ける。

【大谷翔平からの「大丈夫ですよねー」】

 しかしマイアミに舞台を移した準決勝以降、栗山監督はこれまでの流れからキャッチャーを中村で戦うことを決める。だからといって、決勝当日まで投げるかどうかわからない大谷と組ませておくこともできない。

 決勝のスタメンは中村、そして展開次第では最終回のマウンドへは大谷を送り出したい──そんな栗山監督の思惑のなかには、ぶっつけ本番、大谷が投げる時には中村、でもいざとなればキャッチャーは甲斐に代える、という選択肢もあった。ただ、8回までアメリカと渡り合ってきた中村を代えることは、いい流れを手放すことにもつながりかねない。

 そして、日本が3対2と1点をリードして迎えた9回表。栗山監督はクローザーとして大谷を送り出した。

キャッチャーは中村のままだ。マウンドで大谷を待ち受ける中村に、グラブで口元を隠した大谷は何やら話しかけている。この時に何と言ったのかをこのオフ、大谷はこんなふうに語った。

「組んだことがなかったので、中村さんに訊いたんです。『大丈夫ですよねー』って......たぶん、僕のスイーパー(曲がりの大きいスライダー)は初めて見る軌道だったと思います。だから難しかっただろうし、(準々決勝の)イタリア戦で組んでおけばよかったと思いました」

 まず、これが中村の言う「翔平のあの言葉」だ。そしてマウンドの上で大谷に「大丈夫ですよねー」と訊かれた中村は、こう返答している。

「ハイ、たしかにそうやって訊かれました(笑)。その『大丈夫ですよねー』が『僕の球、捕れますかー』みたいな感じに聞こえたんですよ。だから『だ、だ、だ、大丈夫』みたいな感じで応えて......(笑)」

【初球のストレートのサインに首を振ったワケ】

 しかし、大谷の真意は少し違っていた。「大丈夫ですよねー」は「僕の球、捕れますかー」ではなかった。

 中村は9回表、先頭バッターのジェフ・マクニールへの初球、ストレートを要求した。

しかし大谷が首を振る。そしてスライダーのサインに頷いた。この瞬間、中村はこう考えた。

「先頭バッターの初球ですから、まずは真っすぐでいこうと思いました。先頭を切りたかったので、先頭を出してしまうとややこしくなりますから、バットに当てさせたかったという意図がありました。でも、首を振ってスライダーだったということは、スライダーに自信があるんだろうと思いました。事前にメジャーでもスライダーの率のほうが高いというのは聞いていましたからね」

 ところが、このサインに首を振った大谷の意図は思いも寄らないところにあったのである。大谷がこう明かした。

「いや、今、思えば中村さんに失礼だったと思うんですけど、あの時のスイーパーは、僕の一番いい球だったんです。日本には90マイルで大きく曲がるスイーパーを投げるピッチャーがいないと聞いていたので、単純に、中村さんが捕れるかなというのを確認したくて......(笑)」

 だから「スイーパー、捕れますよ」がネタになるのだ。そのネタの"ココロ"が昨年末、雑誌のインタビューに掲載され、この大谷の言葉をいろんな人から聞かされた中村は仰天する。

「そうか、オレ、試されてたんだ......(笑)」

 しかも、ネタはこれだけでは終わらない──。

つづく>>

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