【MLB日本人選手列伝】青木宣親 低評価を覆しメジャーでも実...の画像はこちら >>

MLBのサムライたち~大谷翔平につながる道
連載25:青木宣親

届かぬ世界と思われていたメジャーリーグに飛び込み、既成概念を打ち破ってきたサムライたち。果敢なチャレンジの軌跡は今もなお、脈々と受け継がれている。

MLBの歴史に確かな足跡を残した日本人メジャーリーガーを綴る今連載。第25回は、自身への低評価を覆してMLBの先発選手となった青木宣親を紹介する。

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【懐疑的な評価を覆しレギュラーに定着】

 アメリカで青木宣親の試合を初めて見たのは、2012年の9月、ミルウォーキーでのことだった。

 メジャーリーグ1年目の青木は、その時点でミルウォーキー・ブルワーズの2番ライトに定着し、打率も2割8分台をキープ。ポストシーズンをうかがうチームの中心選手のひとりになっていた。

 チームの野手では誰よりも小柄。それでも、打撃練習で見せるパワーはメジャーリーガーそのものだった。

 私がミルウォーキーに2日滞在する予定だったこともあって、「せっかくだから、明日はランチを一緒に行きましょうよ」と誘ってくれた青木は、ミルウォーキーに一軒だけだった(と記憶している)日本料理店へ連れて行ってくれた。大都市ならば日本食の選択肢も増えるのだが、「一軒でもあるのがありがたいですよ」と青木は前向きに捉えていた。

 打撃についての考察も興味深かった。

「バットをボールに当てにいっちゃダメ。ぜんぜん前に飛ばないから。とにかくバットを振りきることが大切で、それもバットを振りきることを意識するんじゃなく、体の回転が大事。

アメリカの打撃コーチは、『ピブ! ピブ!』って言うから何のことかと思ったら、バスケットでよく使うピボットのことだった(笑)。足をしっかり固めて、体の回転を意識するイメージかな」

 打撃論は熱を帯びた。

 ああ、こういう街で頑張ってるんだな。

 応援というか、自然とリスペクトの念が湧いた。

 このシーズン、青木は打率.288、10本塁打でOPS(出塁率と長打率の総和)は.788を記録。さらには30盗塁をマークして、チームの主力として十分な働きをした。

 それでも、青木のメジャーリーグでのスタートは決して順調とは言えなかった。

 2011年のオフにポスティングを申請し、ブルワーズが応札したが、青木に待っていたのは契約ではなく、トライアウト。球団は2005年、2010年と2度、日本球界で200安打以上を記録した青木の実力に懐疑的だったとも言える。トライアウトでは、グラウンドに向かって一礼する青木の姿が忘れられない。

 ようやくのことでメジャー契約を結んだが、シーズンが始まってからは代打や守備要員としての起用が続く。4月のヒットはわずか7本。

出番に恵まれなかった。それでも5月下旬から出番が増え始め、6月にはレギュラーとして定着、OPSも.800を超える時期があった。トライアウトの屈辱を完全に晴らした格好だった。

【移籍先でワールドシリーズの舞台へ】

【MLB日本人選手列伝】青木宣親 低評価を覆しメジャーでも実力を証明した「安打製造機」
ワールドシリーズ進出を決め、地元のファンに応える青木宣親 photo by Getty Images

 2年間、ブルワーズでプレーしたあと、 2014年にはカンザスシティ・ロイヤルズに移籍。この年、青木はサンフランシスコ・ジャイアンツとのワールドシリーズの舞台にも立った。

 ただし、本拠地で行なわれた第1戦、第2戦とノーヒット。当時、ナショナル・リーグは指名打者制が採用されていなかったため、相手の本拠地に移った第3戦から青木は先発を外された。この年のオフ、当時の心境を青木は話してくれた。

「悔しかったですよ。結果を残していれば、出番はあったと思うから。それでも、ワールドシリーズって最高の舞台なんだから、落ち込んでいても仕方がない。自分ができることに集中しようとは思っていました」

 2勝3敗で迎えた第6戦、カンザスシティに戻ると、青木は2番ライトで先発に復帰。

2回裏、一死満塁のチャンスで打席に入ると、相手先発のジェイク・ピービーの7球目をレフトへのタイムリーヒット。塁上で笑顔がこぼれた。ようやく、青木がワールドシリーズで仕事をした瞬間だった。

「あの時は、うれしかったし、ホッとしたね。やっと、チームに貢献できたって。この試合に勝って3勝3敗のタイ。ワールドシリーズ第7戦の舞台は、そりゃもう特別な緊張感がありました」

 この試合、ジャイアンツが4回表に3対2と勝ち越すと、そのまま逃げきった。ロイヤルズはあと一歩、及ばなかった。

「悔しいよね。勝てるチャンスがあったのに、それをモノにできなかった。自分もこの大切な試合でヒットを打てなかったのは悔しかった」

 続く2015年はワールドシリーズで戦ったジャイアンツへと移籍。アメリカで4シーズン目を迎え、青木の打撃は熟練の域に到達していた。

6月11日には打率.336にまで上昇し、首位打者も狙える勢いだった。

 しかし、8月9日のシカゴ・カブス戦で相手エースのジェイク・アリエッタから頭部に死球を受けて退場。もしも、この出来事がなければ3割をキープしてシーズンを終えることができたかもしれない。この打席のことを、ヤクルトで引退間近になった時に話してくれたことがあった。

「アリエッタとか、踏み込まないと絶対に打てない。だから、あの時も打ちにいったら内角をえぐるような球が来て、避けきれなかった」

 2016年はシアトル・マリナーズでプレーし、打率.283と堅調な数字を残す。続く2017年はヒューストン・アストロズ、トロント・ブルージェイズ、ニューヨーク・メッツと、3球団のユニフォームを着て、2018年からは東京ヤクルトへ戻ることを決断する。

 メジャーリーグでは6年間プレーし、通算打率.285をマークしたのは、青木の打撃技術の高さを示している。日本の安打製造機は、アメリカでも実力を証明したのである。

 そしてスワローズに戻ってきてからも、アメリカでの知見を後輩たちに伝えてきた。青木の薫陶を受けたひとりに、2026年からシカゴ・ホワイトソックスに移籍する村上宗隆がいる。

 6年間で堅実な成績を残した青木。

彼の言葉は、次の世代へと受け継がれているのが、なんともうれしいではないか。

【Profile】あおき・のりちか/1982年1月5日生まれ、宮崎出身。日向高(宮崎)―早稲田大。2003年NPBドラフト4巡目指名でヤクルトに入団。
●NPB所属歴(15年):ヤクルト(2004~11、18~24)
●NPB通算成績:1724試合出場/打率.313/1956安打/145本塁打/667打点/177盗塁/出塁率.392/長打率.445
●MLB所属歴(6年):ミルウォーキー・ブルワーズ(2012~13/ナ)―カンザスシティ・ロイヤルズ (2014/ア)―サンフランシスコ・ジャイアンツ(2015/ナ)―シアトル・マリナーズ(2016/ア)―ヒューストン・アストロズ(2017)―トロント・ブルージェイズ(2017)―ニューヨーク・メッツ(2017) *ア=アメリカン・リーグ、ナ=ナショナル・リーグ
●MLB通算成績:レギュラーシーズン=759試合出場/打率.285/774安打/33本塁打/219打点/98盗塁/出塁率.350/長打率.387
●主なMLBタイトル&偉業歴:ワールドシリーズ出場(2014)
●日本代表歴:2006年WBC(優勝)、2008年北京五輪(4位)、2009年WBC(優勝)、2017年WBC(準々決勝敗退)

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