F1ハース・リザーブドライバー
平川亮インタビュー(前編)

 ハースのリザーブドライバーに就任してから10カ月──。開幕前テストが行なわれるバーレーンに、平川亮はいた。

「今年はレギュレーションが大きく変わったので、基本的にはその理解を深め、ドライバーとして何をしなければいけないかを勉強するための見学です。

 もしレースで走らなければならないとなった時に、きちんと理解しておかなければならないので。そのための勉強という意味で、テスト現場に帯同しています」

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 平川は、静かに闘志を燃やすタイプだ。

 決して外に向けて派手に存在をアピールしたり、雄弁に語ってみせたりはしない。

 だから、彼がどれだけ真剣にF1のレギュラーシートを渇望し、そのために努力をしているかを知る人は、決して多くはないだろう。

 昨年4月にハースのリザーブドライバーに就任して以来、平川は自身が参戦するWEC(世界耐久選手権)をはじめとしたスケジュールとバッティングしないすべてのグランプリに帯同し、FP1にも4回にわたって出走してきた。

 セッション中はピットウォールに、セッション後はレギュラードライバーやエンジニアたちの技術ブリーフィングに、平川の姿は常にあった。

 現場のエンジニアやメカニックたちとコミュニケーションを取り、チームが何を目指し、何に苦戦し、何をトライしているのか──。それを肌身で理解して、チームの一員になること。そのうえでマシンをFP1でドライブし、ただの新人枠消化ではなく、チームにとって価値のあるフィードバックをもたらそうと努力してきた。

 F1の世界では新人でも、平川自身はスーパーフォーミュラやスーパーGT、そしてWECで世界チャンピオンに輝いた経験もある。生まれ持った速さのあるドライバーだ。

「2024年は初めてのFP1だったので、正直、何もわからなかったです。でも、2025年は何回もTPC(旧型車テスト)でドライブしたり、FP1も(ハースの)4回すべて乗らせてもらったり、経験や準備という意味では完璧な準備をしてきました。1年前とは違って、クルマの限界を引き出せるような走りができたかなと思います」

【F1はWECよりもタフな環境】

 その自信の裏では、2年前のマシンを使ったTPCでの習熟も重ねてきた。昨年8月には富士スピードウェイで実施されたが、それはあくまで特殊な例であり、それ以外にもシルバーストン(イギリス)やザントフォールト(オランダ)などヨーロッパ内のさまざまなサーキットで走行してきた。

「リザーブドライバーとしてチームに帯同して、ミーティングに参加しつつ、FP1に加えてシーズン中盤からはTPCもけっこう走らせてもらってきました。クルマだったりシステムだったり、チームが何を求めているか、どこをどう改善しようとしているかということを理解して、同じ言語を話せるようになったという手応えはあります。

 ここはもう直せないという部分は言っても仕方ないので、チームがメインに追い求めていることを理解したうえで、そこをフィードバックできるようになったのが大きいかと思います」

 2026年はマシンがガラリと変わった。開幕前テストでは、レギュラードライバーたちも適応するのに苦労したほどだ。

 そのような状況のなかで、実際に2026年型マシンをドライブする機会がないリザーブドライバーの立場は、今まで以上に苦しい。

「LMP1時代のWECマシンと似たところが少しあるかもしれません。でも、少し違う部分もあります。以前のLMP1はエネルギーマネジメントなど自動でやることが許されていましたけど、今のF1はドライバー自身が(充電・放電を)マネジメントしなければならないので、そういう点ではまったく違うと言えます。

 かつてのWECよりも、F1ではドライバーがやらなければならないことが多い。

ドライバーにとってはタフな環境だと思います。それと同時に、実際に走行する機会がなかなかない僕のようなリザーブドライバーにとっても厳しいですね。FP1に出走するだけでなく、何かあってレースに代役出場するとなったら、準備を整えるのはかなりトリッキーだと思います」

【1時間ごとに進化している状況】

 バーレーンでチームやレギュラードライバーがどのように2026年型マシンを扱い、どのような感触だとフィードバックしているのか、つぶさに観察して学ぶ。そしてレギュラードライバーがフィードバックし、誤差補正を施して実車の感触に近づけたシミュレーターを、平川もバーレーンからヨーロッパに戻ってドライブし、2026年型マシンの学習に勤しんでいる。

「バルセロナ(今シーズン初回テスト)からいろんなことが変化してきているので、シミュレーターの側もまだ最新の状態の実車とのコラレーション(誤差補正)ができていない状態でした。ようやくその準備が整って、来週(バーレーンテストの翌週)ドライブできるということです。

 まずは僕自身が、2026年型マシンのシステム自体やエネルギーマネジメントの仕方を学ぶためのセッションです。今年はすべてが新しくなっていますし、それこそ毎日どころか1時間ごとに進化しているような状況なので、リザーブドライバーとしてそれをキャッチアップしていくのはとても大変ですから」

(つづく)

◆平川亮・後編>>今年32歳。F1のレギュラーシートは夢ではなく目標


【profile】
平川亮(ひらかわ・りょう)
1994年3月7日生まれ、広島県呉市出身。中学卒業後にトヨタの育成となって当時最年少で限定A級ライセンスを取得。2012年に全日本F3選手権を制し、2017年には史上最年少でスーパーGT王者に輝く。2022年よりトヨタからWECに参戦してル・マンを制覇。

WEC世界王者を連覇した実績を掲げ、2024年にマクラーレンF1のリザーブドライバーへ。その後はアルピーヌを経て2025年途中よりハースのリザーブドライバーを務めている。177cm、68kg。

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