「独立して初めてのマラソンだったので、自分のなかでも今までのマラソンより大切にしていた部分もありました。そういう点ではいいスタートがきれたかなと思います」

 3月1日の東京マラソン2026を全体13位(日本人2位)で終え、明るい表情でこう話すのは、昨年10月に富士通を退社した鈴木健吾(横浜市陸協)だ。

 これで、2028年ロサンゼルス五輪につながるマラソングランドチャンピオンシップ(以下、MGC)の出場権を獲得した。

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 午前9時10分のスタート時の気温は10.9℃ながら、ゴール時には15℃まで上がり、陽も射していた今回のレース。海外トップ勢を警戒したのか、先頭集団のペース設定に挑戦したのは5km手前から飛び出した橋本龍一(プレス工業)のみで、全体的に抑え気味の展開になった。鈴木は、大迫傑(LI-NING)らと、海外勢のあとの第2集団となる日本人の先頭集団で走っていた。

 ペースメーカーがいなくなった32km過ぎからは、前に出て仕掛ける姿も見せたが、レースに向けての準備はまだ60%程度だったという。

「海外の選手たちが前に出たので、その流れで自分も行きたいなと思ったんですが、ガンガン行っていたので、彼らについていくことができませんでした。あそこで行ききれれば、自分の本来の走りだと思えるので、その点はまだまだかなと思います」

 最後は日本人のトップ争いになり、大迫も「あそこはもう対決というより、サバイバル。ペースを上げるよりも落ち幅をどれだけ少なくするか、みたいな感じでした」と振り返る展開になった。

 鈴木は40.7kmあたりから大迫に遅れ、10秒差の2時間06分09秒でゴールした。それでも鈴木は清々しい表情だった。

【フリーになったからこそ見えるもの】

 富士通退社後、合同会社Kemmmyを設立。キューピーとスポンサー契約を結んでプロランナーとして歩み始めて、神奈川大時代の恩師でもある大後栄治氏が統括アドバイザーを務める"Team Kengo"としての初レースだった。

「スポンサー探しなど、環境作りはチームのスタッフなどが力を尽くしてくれたので、自分は練習に集中できていました」と話す鈴木は、「まずはMGCの出場権を獲得しないと、自分のなかで(Team Kengoとしての)スタートをきれないなと思っていたので、そこはなんとかクリアできてよかったと思います」と安堵の表情を浮かべた。

 富士通退社から、東京マラソンまでの5カ月をこう振り返る。

「ケガもなく練習を継続して土台を作るという面では、独立してから自分と向き合う時間が長かったので、やるべき練習は淡々とできたかなと思います。独立してプロランナーになったことが本当によかったのか、悪かったのかというのはまだわからないですが、後悔ないようにというか、2028年ロス五輪に出場するという目標に向けてやりきりたいなって思いで飛び出しました。今こうやって活動をスタートできていることに、本当に感謝しかないと思っています」

 練習は基本的にひとりでやっていて、まだ手探り状態だとは言うが、逆に今はそれを新鮮な気持ちで楽しめているという。様々なことを柔軟にやれるという面ではメリットも大きいと笑顔を見せる。

「今までも練習はわりと自由にやらせてもらっていましたが、環境はもちろん練習場所も海外に行きたいと思えばチャレンジできる状態になったことが、プロになってのいい部分かなと思います。

 あとは、練習だけではなく、生活の部分でもいつあとがなくなるのかわからない状況で、常に結果が大事になってくるので、日々の向き合い方っていうのは今まで以上に大事に、丁寧にやっているかなとも思います。自問自答する時間がより長くなっていると思います」

 そんな自問自答の答えを探すひとつとして、大迫が高地トレーニングの拠点にしているアメリカのボルダーも訪ねた。

「今回トレーニングはしていないんですけど、ボルダーに行かせてもらって大迫さんにいろいろ話を聞いたりしました。今後、高地トレーニングで大成できるように、その準備として今回は行ったというところもあります」

【すべては2028年ロス五輪に向けて】

 大迫には昨年の12月、鈴木が5年間保持していた日本記録を更新された。それもまた刺激になったという。

「若い人に抜かれるより、(4歳上の大迫に抜かれたことで)僕ももう1回頑張らないと、という気持ちになりました。

5年間記録を更新されていなかったなかで、抜かれた時にはどういう気持ちになるんだろうとずっと考えていましたが、実際に抜かれてみると、心のなかで『悔しい』という思いが強く沸いてきたので、まだまだ自分もアスリートだなと思いました」

 12月の日本記録更新から3カ月でこの大会に出場してきた大迫の走りを見て、目を輝かせる。

「ああいう短いスパンでのマラソンもやってみたいと思っています。意外とそっちのほうが合っているかもしれない。実際にやってみないとわからないけど、それも含めてこれからはいろいろなことができるのが個人でやるメリットだと思うので、チャレンジしていきたいなと思います」

 そして、これからに向けてはこう話す。

「目標にしているのはロス五輪で世界と戦うこと。今は若い選手たちもチャレンジングなレースをガンガンやってきているので、MGCではしっかり勝ちきらないと話にならない。だから、タイムより勝負が重視されているレースも経験したいと思っています。そういう練習もこれからしたいですし、もちろんタイムアタックみたいなハイレベルのレースにも挑戦したいなという思いもあります。東京(マラソン)までは『MGCの出場権獲得』(が第一)と思っていたので、これからはいろんなチャレンジができるかなと思います」

 今回MGC出場権を獲得したことで、プロランナーとしての新たなチャレンジへの期待を膨らませる。

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