西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 
第90回 イェンス・ペッター・ハウゲ

 日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。

 チャンピオンズリーグ(CL)の決勝トーナメントが今週からスタート。今季最大のサプライズとして注目されているのが、プレーオフでインテルを下してベスト16へ進出した、ノルウェーのボデ/グリムトです。

【ボデ/グリムトの快挙】

 ノルウェーのボデ/グリムトがCLベスト16進出を果たしている。

 プレーオフで昨季準優勝のインテルに連勝。ホームで3-1、アウェーで2-1、合計5-2の快勝だった。リーグフェーズでは2勝3分3敗の23位、プレーオフに出場できるのは24位までなのでぎりぎりである。第6節までは勝利なしだったのだが、第7節でマンチェスター・シティに3-1、第8節ではアトレティコ・マドリーを2-1で破ってプレーオフ進出を果たしていた。

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 ノルウェーのヌールラン県のボデは県内最大の都市で、北部では二番目の規模。といっても人口は約5万人にすぎない。北極圏の半島で強風が吹くことで知られている。グリムトの意味は「閃光」。1916年創立だが、エリテセリエン(1部)優勝4回はすべて2020年以降。ここ5、6年で急速に力をつけたクラブだ。

 ホームスタジアムの収容人数は8200人にすぎない。この北辺のクラブがシティ、アトレティコ、インテルのビッグクラブを倒し続けたのは驚きだが、昨季はELベスト4に進出していてUEFAランキングでは34位につけている。31位がリヨン、32位がナポリなので、それなりの実力はあったわけだ。

 少なくとも一連のジャイアントキリングは、内容的にも偶然ではない。

 ボデ/グリムトは洗練されたパスワークを示し、相手ゴール前ではクラブ名どおりに閃光のコンビネーションを見せていたのだ。ノルウェーと言えば堅守が特徴でテクニカルなイメージはなかったが、ボデ/グリムトのプレースタイルはそのイメージを完全に覆すものだ。

 攻撃をリードするのはイェンス・ペッター・ハウゲ。ミラン、フランクフルト、ヘントを経て2024年に加入した26歳。ただ、ハウゲはもともとボデ/グリムトのアカデミー出身で、2020年の初優勝の原動力だった。

 この時の3トップはハウゲ、フィリップ・ツィンカーナーゲル、キャスパー・ユンカー。3人で60ゴール35アシストの大暴れだった。ところがハウゲがミランへ移籍、ツィンカーナーゲルはワトフォード、ユンカーは浦和レッズへ移籍。

3トップ放出で大幅な戦力ダウンは必至と見られたが、翌年もリーグ連覇を果たした。さらに2023、2024年には二度目の連覇。ヒェティル・クヌートセン監督は3年連続で最優秀監督賞に選出されている。

 2021年にはUEFAカンファレンスリーグに初出場、ジョゼ・モウリーニョ監督率いるローマを6-1で粉砕して注目された。リーグ優勝4回、ELベスト4、CLベスト16と結果を残し、近年の欧州で最も伸びたチームかもしれない。

【洗練された攻守】

 ハウゲは184センチのスラリとした体型。ポジションは3トップの左、トップ、MFの左サイドと多彩だが、実は役割の変化はほとんどないとも言える。

 というのも、ボデ/グリムトの守備は相手と状況に応じて微妙に変化していて、その流れのなかでハウゲはトップに残り、あるいは中盤に引くので、3つのポジションでプレーしているようで実質的にやっていることは変わらないのだ。

 例えば、3バックのインテルに対してボデ/グリムトは3トップをそのまま当てていたが、相手がサイドのウイングバックへ展開した時には、3人のMFがボール方向へスライドし、その時にはボールと反対側のウイングがひとつポジションを落として4-4-2に変化する。これは両サイドともそうで、左のハウゲだけでなく右も同じだ。

 ただし、最初からハウゲがトップに残る形の4-4-2で対応することもあり、逆に右のオーレ・ブロンベリを2トップのひとりとしてハウゲがMFになることもある。

 基本は4-3-3なのだが、状況に応じてウイングの役割が変わるので、ハウゲはカスパー・ホグと組むトップや、左ウイング、左サイドハーフにもなる。そして、どのポジションでもハウゲらしい技巧とアイデアを発揮している。

 右利きの左サイド。とくにスピードがあるわけではないが、相手の重心を見て逆をつくドリブルがあり、それ以上に長短のパスが正確で狙いも面白い。ボールコントロールとインサイドキックのスキルが安定しているのは、ボデ/グリムト全体の特徴でもある。

【技巧派台頭のノルウェー】

 ホームのアスプミラシュタディオンのフィールドは人工芝だ。ボデ/グリムトに限らず、ノルウェーのサッカーを変えたのは人工芝だった。冬が長く雪でピッチが使えない事情から、屋内ホールが各地に作られた。90×55メートルとほぼ正規のフィールドに近いものも多く、やや小さい80×50メートルも多数。子ども用8人制向けでも60×40メートル。日本のフットサル場と比べると巨大施設と言っていい。

 大小の(小でもけっこう大きいが)屋内ホールの多くは人工芝で、こうした環境面の変化が技術の向上につながったのは想像に難くない。かつてはノルウェー代表でもハウゲのようなタイプはひとりかふたりしかいなかったものだが、現在はマルティン・ウーデゴール、アントニオ・ヌサ、オスカー・ボブなどの技巧派が台頭している。

 ノルウェーの強豪となったボデ/グリムトは技巧的ノルウェーの象徴と言える。

アカデミー出身の選手も多い。外国籍選手もデンマーク人が数名いるくらいで、大半はノルウェー人。キャプテンのパトリック・ベルグは父、祖父、叔父、大叔父がボデ/グリムトの選手というボデ一族だ。

 クラブは過去4シーズンで移籍金獲得記録を更新し続けている。カスパー・ホグとフレドリク・ショーヴォルの移籍金は推定800万ユーロ(約15億円)で、おそらく来季には移籍しているだろう。

 典型的な育成型でありながら国内最強、欧州でもビッグクラブを洗練された攻守でなぎ倒す。今季CL最大のサプライズチームである。

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