F1第1戦オーストラリアGPレビュー(前編)

 F1新時代の幕が開き、メルセデスAMGが0.7秒もの圧倒的な速さでポールポジションを獲得し、決勝ではフェラーリ勢と抜きつ抜かれつのバトルの末にワンツーフィニッシュを飾った。

 新規定に対し賛否両論が渦巻くなかでも、エキサイティングな戦いが繰り広げられたことは間違いない。

中団チームも予選ではレーシングブルズ、決勝ではハースが制するなど、複数のチームが入り乱れての激しい攻防が繰り広げられた。

 しかし、アストンマーティン・ホンダだけは、レースをしていなかった。

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 260秒遅れのキャデラックでさえ、どれだけ集団から離されようと"レース"を戦っていた。だが、アストンマーティンは違った。ピットイン&アウトを繰り返しながら、フェルナンド・アロンソが3本、ランス・ストロールが5本のランでそれぞれ22周と44周を走っただけで、つまりは"レース"ではなく"テスト走行"でしかなかった。

 決勝を迎える前の時点で、それが彼らの『プランA』だった。

 新時代のF1でタイトル奪取を掲げていた彼らにとって、それは屈辱以外の何ものでもなかったはずだ。

 開幕戦オーストラリアでアストンマーティン・ホンダに何が起きていたのかを正しく理解するには、きちんと情報を整理する必要がある。

 エイドリアン・ニューウェイをはじめとした首脳陣やドライバーたち、そしてホンダからの談話を含め、それらに関する報道や憶測など、あまりに整合性の取れない情報が錯綜しすぎているからだ。

 極力シンプルに整理すると、こうだ。

 ホンダは「バッテリーへの振動対策」を2週間にわたって講じ、複数のアイテムをメルボルンに持ち込んだ。

 金曜フリー走行でそれらを試し、現場でもさらに修正を加えた結果、「バッテリーへの振動」はかなり低減された。

振動によって物理的にダメージを負うという懸念はほぼなくなったことで、走行距離を制限する必要はなくなり、決勝の58周を走りきるだけの信頼性は確保できたという。

【ニューウェイの発言の意味】

 ホンダの折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーはこう説明した。

「この2週間で、HRC SakuraのHRC(ホンダ・レーシング)とアストンマーティンのエンジニアがいろいろと知恵を出して、かなりのテストをやりました。そのなかから絞ったアイテムをいくつか持ってきて、計測器をつけて走らせたところ期待どおりの効果が得られたので、バッテリーの振動レベルはかなり下がっているという確認ができました。

 振動に関しては、フルレース距離を走れる状態になっていると、自信を持っています。これはアストンマーティン・ホンダにとって大きな進歩ですし、非常に重要なキーポイントだと思っています」

 その一方で、アロンソがFP1、ストロールがFP1の大半とFP3、予選を走ることができなかったように、パワーユニット関連のトラブルが多発したことも事実だ。

 ストロールの土曜は、ICE(内燃機関エンジン)周辺にデータ異常が見つかり、予選出走に向けて準備が整ったかに思われたものの最後まで懸念を払拭することができず、走行を取りやめることになった。

 そして金曜にアロンソ車に起きていたのは、バッテリー関連のトラブルだ。金曜の走行前の段階で、メルボルンに持ち込んだ4基のうち2基に通信系の問題が見つかった。

「バッテリーそのものではなく、ユニット間の通信に関係する部分で不具合につながるデータが見つかりました。その結果、今週末のレースでは使えないということになりました。

 これは振動によるトラブルとは別の問題ですが、新しいレギュレーションの下で開発しているバッテリーですので、中のソフトウェアだったり通信系だったり、高電圧系(バッテリー本体)以外のところでもいろいろと予期せぬことが起きているのは事実です」(折原GM)

 ニューウェイが金曜に明かした「バッテリー4基のうち2基を失い、スペアがない状態で走っている」というのがこれだ。

【アロンソが笑顔だった理由】

 その結果、「振動によるバッテリー破損」の懸念は解消したものの、「残る2基」を絶対に失わないよう、細心の注意を払う必要に迫られる事態となった。

 テストから開幕戦まで走行距離が稼げていないことに加え、アストンマーティンがこのオーストラリアGPに新型フロントウイングやフロアボード、フロアといった空力面のアップデートを投入したことで、マシンのセットアップが十分にできていないままレース週末を戦うことになってしまった。アロンソ車がFP1に出走できなかったことで、大がかりな気流センサーを装着しての新旧比較データ収集もできないままだった。

 それでもアロンソは、金曜の4.933秒落ちから予選Q1では2.462秒差まで縮まったことに笑顔を見せた。

「正直に言って、FP2からFP3、予選とクルマはほとんどいじっていないんだ。それなのに4.5秒差だったのが2.5秒差まで詰められた。つまり、それだけマシンには大きなポテンシャルがあるということだ。

 ただ走行を重ねただけで、2秒も速くなったんだ。逆に言えば、信頼性がマシンの足を引っ張っていたということでもある。安定して走れないことでセットアップ作業が進められなかったりね。今回は普通のFP2とFP3を走ることができて、大きく前進することができた。この調子で力を合わせて前に進み続けるだけだよ」

 概算でストレートとコーナーのタイムロスがおよそ半々だった金曜に比べ、土曜はコーナーでのロスを半減させることができ、ストレートのロスが71%、コーナーのロスが29%という段階まで縮めた。

 それでも、アストンマーティン・ホンダが本来目指しているところからほど遠いことは事実で、キャデラック以外のライバルと戦えるレベルにないことも確かだった。

コーナーだけで1秒以上遅れているのであれば、メルセデスAMGのパワーユニットを積んでも中団トップを争えるかどうか、という状態でしかない。

 であれば、目の前のレースという自己満足よりも、今後につなげるためのデータ収集をやろうというのが、彼らの『プランA』だったというわけだ。

◆つづく>>

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