残酷な現実を突きつけられた開幕戦オーストラリアGPからわずか4日──。アストンマーティンとホンダは上海へと移動し、第2戦・中国GPの週末を迎えた。

 決勝レースで1チームだけ実走テストを行なうという姿は、現実を突きつけられたと言うよりも、彼ら自ら飛び込んだ現実と言っていい。

【F1】アストンマーティン・ホンダはまだポイントを争う状況に...の画像はこちら >>
 パワーユニットのデータ異常で、フェルナンド・アロンソはFP1、ランス・ストロールはFP1の大半と土曜日の走行機会を失った。しかし、バッテリーの振動問題は大幅に改善し、決勝は普通に走るだけの信頼性は確保できていたはずだった。

 事実、入賞のチャンスがあればレースを戦う「プランB」も用意されており、VSC(バーチャルセーフティカー)が出た瞬間には、そちらの作戦にシフトしてもいた。実際にはピットミスで大幅にタイムロスをしたことによって、レースを捨てる「プランA」に戻したわけだが......。

 いずれにしても、「決勝をテスト走行にあてる」という屈辱的な行為は、オーストラリアGP週末の信頼性不足で選ばざるを得なかったわけではない。週末を迎える前からドライバーの神経系ダメージ問題やバッテリーのスペア不足といった内部情報が漏れ、その結末に向かう前提でイメージ誘導が行なわれていたことは確かだ。

 もちろん、その大元はバーレーン合同テストで振動によるバッテリー損傷が発生し、十分に走り込めなかったことにある。さらに元をただせば、マシンの完成が遅れてバルセロナテストで1日しか走行できずに事前シェイクダウンや実車を使ったVTT(バーチャルトラックテスト)ができなかったことに端を発する。

 アストンマーティン・ホンダは圧倒的にデータ収集が進んでおらず、決勝でもさまざまなセッティングを変えながら比較データ収集を進めなければならなかった。まさに文字どおり、アストンマーティンだけ、まだバーレーンでやるべきだった開幕前テストに"居残り"をしている状態だった。

【チームの機密情報が漏れた】

 それは今週末の中国GPでも変わらないかもしれないと、アロンソは言う。

「メルボルンから4~5日だから、残念ながら特に変わったことはないよ。

だから今回も厳しい週末になると思うし、できるだけマシンに対する理解を進めるだけだ。

 僕らはまだ本当に走り出したばかりの状態だ。とにかく周回数を稼ぐ必要がある。フリー走行で走り込み、マシンの車体側のポテンシャルを引き出すためのウインドウを見つける必要がある。

 これが今週末、とても重要なポイントになるし、普通にフリー走行や予選を戦って周回数を重ね、決勝でフルレースを戦いきれればと思う。可能ならね。パーツ不足だから周回数を制限しながらの走行になるけど、ポジティブな要素を見つけ出していければと思っているよ」

 アロンソの言う「パーツ不足」というのは、メルボルンの走行前にスペアを失ったバッテリーのことだろう。

 ホンダはダメージを負ったエナジーストア(※)内部の通信関連部品をなんとか現場で修理し、スペアとして使える状態に復帰しようと試みてきた。結果、どうやらそれはうまくいったようだ。

※エナジーストア=運動・熱エネルギー回生システム(ERS)で回収した電気エネルギーを一時的に蓄えるリチウムイオンバッテリー。

「具体的な数字は申し上げられませんが、スペアの数を増やすために(メルボルンで問題を抱えた)バッテリーの修復を試み続けています。修理作業に関しては着実に進捗が果たせていますし、この問題自体は振動とは関係のないバッテリー(エナジーストア)内の小さなものなので、修復が可能だと考えています」(折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャー)

 年間を戦うなかでの運用・戦略に関わる機密情報と言うべき部分が外に漏れ、そこに質問が集中していることに、マイク・クラック(チーフトラックサイドオフィサー)はやや不快感を表わした。

「メルボルンで公表されてしまった、このバッテリーの数については、ここで語っても仕方がないし、議論を続けるべきではないと思っている」

【車体側もまだまだ熟成が必要】

 重要なのは、オーストラリアGPの週末には1レースを走れる信頼性を確保するところまで改善を果たし、さらに決勝を犠牲にして次に向けたデータ収集をしたということだとクラックは言う。

「メルボルン(の決勝)では走ろうと思えばもっと走ることはできたが、(さまざまなテストをしたからこそ)今までにわかっていなかったことが把握でき、この第2戦に向けてさらに改善を進めることができた。引き続き信頼性を高めていくための努力を続けていくことが必要だ。なぜなら信頼性のあるマシンがなければ、パフォーマンスを向上させていくことはできないから。それが今の最優先事項だ」

 開幕戦の走行データをもとに、パワーユニットとしては今季のラップタイムや競争力を大きく左右する要のエネルギーマネジメントや、電動比率が高くなったことでモーターのトルクが太く、扱いが難しくなったドライバビリティの改善もさらに進められると折原GMは語る。

 開幕前に1000周走り込んだアルピーヌやハースが「最適化できていない」と文句を言うのを聞いて、「彼らがダメならその10分の1しか走り込めていない僕らはどうなるんだ」とアロンソは言う。今のアストンマーティン・ホンダの置かれた状況は、そういうことだ。

 ランス・ストロールはパワーユニットの信頼性やドライバビリティの改善も必要と言いつつ、車体側もまだまだ熟成が必要だと語っている。

「信頼性が十分でないがゆえに走り込めていないのも事実。マシンのセットアップを煮詰めるチャンスすらほとんどなかった。バルセロナの初日からね。

 だからマシンの性能は、まだフルに引き出せていると思っていないよ。車体側のいいところとよくないところはわかっているし、ライバルよりも速いコーナーもあれば、車体側で改善が必要な部分もわかっている」

 ストロールは「高速コーナーよりも低速コーナーのほうが少しいい」と、逆説的に高速コーナーでの速さが足りていないことを示唆した。

実際に高速コーナーのボトムスピードは、上位チームに比べて10kmほど低かった。ただ、走行距離を重ねてセットアップの熟成や開発が進んでいけば、それも改善できるはずだ。

【開幕前テストはいつ終えられる?】

 今週末は今季初のスプリントがあり、金曜は1回のフリー走行のみでスプリント予選に臨む。土曜日はスプリントレースと予選だ。

 アストンマーティンはフリー走行で周回を重ね、アロンソが18番手、ストロールが20番手。ひとまずはノートラブルだった。

 しかし、スプリント週末にどう立ち向かうか、といったレベルの状況ではまだない。ストロールは言う。

「僕らは今、さまざまな問題と格闘していて、周回数を積み重ねるだけでも苦労している状況だ。だからレースでライバルとポイントを争うといった、普通の週末に向けたアプローチではない。今のマシンにできるのは、とにかくコースに出て信頼性を確立するために走ることだけだ。

 オーストラリアGPや開幕前テストで抱えていたいくつかの問題を、今週末は改善する必要がある。

振動、信頼性......とにかくコースインして走行距離を稼ぐことだ。とにかくバルセロナの初日から、走行距離だけでも大きくライバルたちから遅れを取っているわけだからね」

 厳しい現実に直面したチームに、さらに厳しいスプリントレース週末。

 今週末の上海で彼らがどれだけ前に進み、少しでも早く開幕前テストを終えられるのか。辛抱強く見守るしかない。

編集部おすすめ