世界に魔法をかけたフットボール・ヒーローズ
【第56回】ウェイン・ルーニー(イングランド)
サッカーシーンには突如として、たったひとつのプレーでファンの心を鷲掴みにする選手が現れる。選ばれし者にしかできない「魔法をかけた」瞬間だ。
第56回はイングランドのウェイン・ルーニーをピックアップする。16歳でトップデビューしてからユニフォームを脱いだ35歳まで、常に最前線に君臨し続けた。世界屈指のフォワードであり、唯一無二のオールラウンダーでもあった。
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「マンチェスター・ユナイテッドと対戦する場合、最も警戒すべき選手は、ライアン・ギグスでもクリスティアーノ・ロナウドでもポール・スコールズでもない。オフ・ザ・ボールのポジショニング、ボールロスト後の即時奪回など、ウェイン・ルーニーがこのうえなく厄介だ」2006-07シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝・第1戦。ミランはマンチェスター・ユナイテッドのホームで2-1とリードしながら試合を進めるも、後半14分に続いてアディショナルタイムにもルーニー弾を食らい、まさかの逆転負け。ミランを率いていたカルロ・アンチェロッティ監督は試合後、ルーニーを褒めざるを得なかった。
ギグスやスコールズ、クリスティアーノ・ロナウドはボールを失うと、一瞬プレーが止まる。しかし、ルーニーは即座にリアクションを起こし、深く、鋭いタックルで即時奪回を図る。この継続性と献身的な姿勢を、稀代の名将は高く評価した。
ある時は相手のボールホルダーにプレッシャーをかけ、またある時は全速力で自陣に戻ってスペースを消し、そしてまたある時はスプリントして前線に現れる。
【10年遅く生まれていれば...】
さらにルーニーは、汎用性も高かった。マンチェスター・ユナイテッドで同じ釜の飯を食ったエドウィン・ファン・デル・サールの証言である。
「PKの練習をしていた時、ルーニーがGKのポジションに入ったのだが、次々に止めたんだ。キッカーが自信をなくすからやめようぜってなったんだよ」
GKだけではない。適性とされるシャドーはもちろん、丁寧かつ力強いポストワークを生かして1トップ、迫力あふれるドリブル突破と正確なクロスで左右のウイング、そして中・長距離のパスをコントロールする中盤センターまで、ルーニーはチーム事情に即しながら多くのポジションに対応した。
緻密な戦略に基づく高度な戦術は、近代フットボールにおいて成功を手にする必須要素である。全ポジションに多くの役割が求められるようになった。リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドもルーニーほどの守備的タスクや献身性を全ポジションで発揮するタイプではなく、現在のフットボールで異彩を放つキリアン・エムバペやアーリング・ハーランドも同様だ。
ルーニーがあと10年ほど遅く生まれていれば、もっともっと高く評価されていたに違いない。
第一印象は悪ガキ風で、ボールごと相手をえぐり取るようなタックルはまさに荒くれだ。童顔にもかかわらず、粗野なイメージもある。ただし、「気遣いの人」でもあった。
「新入団の選手がリラックスできるように心がけてくれた。どのようなパスが好きなのか、すぐに理解もしてくれた。ピッチの中でも外でも、ルーニーは周りがよく見えている」
また、パク・チソンやダレン・フレッチャーなど、縁の下の力持ち的だった選手を「彼らの運動量こそが我々のストロングポイント」と称えた。ノリッジ戦でハットトリックを決め、メディアのインタビューに応える香川真司の背後で、静かにサポートする心遣いも見せていた。彼は単なる荒くれ者ではない。
【代表では活躍できなかった】
カルロス・テベスとのエピソードも心温まる内容だ。マンチェスター・ユナイテッドから支給されたクルマで満足していたアルゼンチン人のストライカーを、高級車を乗り回す多くの同僚がからかったという。見かねたルーニーは「これに乗りな」と、ランボルギーニのキーを渡した。
「優しいヤツなんだよ」
テベスは今も感謝を忘れない。
2010年に移籍を志願した際は、アレックス・ファーガソン監督の情報操作によって「裏切り者」の烙印を押された。サポーターからブーイングを浴び、「自分のことしか考えていない」と批判もされた。だが、チェルシーやマンチェスター・シティの積極的な補強に比べ、マンチェスター・ユナイテッドが動けなかった事実を訴えたかっただけかもしれない。
もし、自己中心型であれば、周りに気を遣ったりはしない。
当時エバートンの練習生だった16歳のルーニー。2002年10月19日、アーセナルの無敗記録を30試合で止めた鮮やかなミドルシュートに、多くの関係者がスター誕生を確信した。
2004-05シーズン、マンチェスター・ユナイテッド移籍後初戦のフェネルバフチェ戦。ルーニーは聖地オールド・トラッフォードでいきなりハットトリックを決めて、一瞬にしてサポーターの心をつかんだ。
さらには2010-11シーズンのマンチェスター・シティ戦。マンチェスターダービーで見せたオーバーヘッドキックは、プレミアリーグ史上最も美しいゴールといって差し支えない。ファーガソン監督も「比類なき一撃」と大絶賛した。
プレミアリーグ通算208ゴールは歴代3位、103アシストは同4位。ゴール、アシストともに三桁を記録しているのは、フランク・ランパード(177ゴール・102アシスト)とライアン・ギグス(109ゴール・162アシスト)の3人だけだ。
ただ残念ながら、イングランド代表では活躍できなかった。
2006年ドイツワールドカップのポルトガル戦では、クリスティアーノ・ロナウドの煽りに乗ってしまい退場を宣告された。4年後の南アフリカワールドカップでは極度の不振に悩まされた無得点。「決勝トーナメント1回戦での撤退は、ノーゴールに終わったルーニーにすべての非がある」と多方面からバッシングを浴びた。
しかも南アフリカ大会でのイングランド代表は、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、リバプールに所属する選手たちのライバル意識が災いし、チーム内は常に異常な緊張感が漂っていた。これでは勝てるはずがない。
【メッシやリネカーから称賛の声】
代表での通算成績は120試合53得点。出場試合数、得点数はともに歴代2位。2018年に最後の代表キャップを記録したあとも、ルーニーは2021年まで現役選手として走り続けた。
ルーニーのプレーは人々の心に深く刻まれている。ゴールやアシストはもちろん、身を粉にして戦い続ける姿に感銘を受けた者も少なくない。そしてフットボールの世界からも、絶賛が聞こえてきた。
「一世代にひとりしか生まれない特別な存在」(リオネル・メッシ)
「インテリジェンスにあふれている」(ゲーリー・リネカー)
「イングランド史上最も偉大な選手」(スティーブン・ジェラード)
ズラタン・イブラヒモヴィッチもこう言った。
「ルーニー? あいつは完璧だな」
世界中の一流に愛されたフットボーラーだった。

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