F1第3戦・日本GPレビュー(後編)
◆レビュー前編>>
アストンマーティン・ホンダの日本GP予選は、ついにキャデラック勢にも負けて、最下位の21位・22位。トップ集団はおろか、中団グループからも2.9秒、中団グループの下位からでも1.7秒もの後れを取った。
高速コーナリング性能と長いストレートでのパワーが求められる鈴鹿では、両ドライバーとも苦戦することを覚悟していた。
金曜はマシンバランスの悪さにかなり苦しみ、土曜はある程度改善することはできた。しかし、根本的なダウンフォース不足とパワー不足はどうすることもできなかった。
「正直に言って、開幕2戦と状況はほとんど変わっていないよ。同じマシンだし、同じチャレンジに直面したままだ。だからこういう結果も、ある程度は予想していた。マシンの弱点を考えれば、鈴鹿は僕らにとって最高のサーキットと言えないからね」(フェルナンド・アロンソ)「これはパワーユニットとマシンの組み合わせによるものだよ。ストレートでかなりのタイムロスを強いられているのは確かだけど、コーナーでも最速というわけじゃない。すべてはコンビネーションなんだ」(ランス・ストロール)
そもそも、決勝に向けたロングランのタイヤデータ収集やエネルギーマネジメントの確認作業も、決勝では使わないソフトタイヤで申し訳程度にしかできていない。
決勝でもキャデラック勢についていくことさえ難しいことは想定しており、だからこそアストンマーティンは2台がバトル状態で走り、"小さなアストン選手権"を楽しむしかなかった。実際にはドライバーの楽しみだけでなく、レース状況を想定したテストのためでもあった。
「これはレース前から話していたことで、ペース的に孤独なレースになることはわかっていたから、どうせなら2台で一緒に走ったほうがエネルギーマネジメントやいろんなエンジンマップの参考になる情報が得られると考えたんだ。
【特例開発の投入が認められれば...】
レースディスタンスを走りきれたのは、ただの自己満足的な目標ではなく、マシンの性能を高めていくうえでも重要なポイントになる。
レース中に刻々と変化していくマシン状況に合わせて、デフやブレーキバランスといった電子セッティングをアジャストしていくこと、タイヤマネジメントを最適化していくこと、さまざまなエネルギーの使い方を想定したモードを用意しておくこと──。
さらには、1レースを走りきったパーツを分析することで、運用上のマージンを削り取って、さらに攻めた使い方をすること。
日本GPでの完走は、ようやく攻めの姿勢へと移っていくためのターニングポイントなのだ。
もちろん、車体もパワーユニットも、さらなる性能向上のための開発が裏側では進められている。ただ、それは一朝一夕に変えられるものではなく、地道な努力と時間が必要とされる。そのことはわかっているとアロンソは語る。
「パフォーマンスは最下位だし、競争力がないわけだから、満足できる状況ではないよ。でも、チーム一体となって力強く改善・努力を続けていくしかない。
状況を改善するために(アストンマーティンとホンダの)両方のファクトリーには時間が必要だ。彼らも全力でがんばってくれているし、いくつか改善も果たせているし、いくつかアイデアもある。
でも、1日で完成するようなものではない。設計、CFD(コンピューター上で空気の流れを計算して可視化・解析する技術)、風洞実験、製造、実走といった工程を順番にやっていれば7月や8月、何カ月かはかかるだろう。
第6戦目を終えた段階でパワーユニットの性能が2パーセント以上の後れを取っていれば、特例開発の投入が認められる(※)。現時点で具体的な投入時期や内容は確定できないものの、HRC Sakuraでも懸命な開発が進められている。
※各メーカーのPU性能を公平に比較するため、FIA(国際自動車連盟)が「特定のメーカーのPU性能がトップのPU性能から2パーセント以上遅れている」と判断した場合、そのメーカーに特例としての開発を認める。エンジン(ICE)の出力だけでなく、エネルギー回生システム(ERS)を含めたPU全体のパッケージとしての性能が対象。
ホンダとアストンマーティンの関係悪化も報じられたが、技術者たちは強くタッグを組んで、ひとつの目標に向かって懸命に努力を続けている。その成果のひとつが振動問題の改善であり、レース完走でもあった。
【来年は満開の桜を咲かせるために】
アストンマーティンとしても、ホンダにとって地元・鈴鹿でのレースがどれだけ重要なものであるかを理解し、ホンダのためにレースを走りきろうと一致団結した。
「ここは我々のパートナーであるホンダのホームレースであり、我々はホンダに対して多大な敬意を払っている。今、我々が直面している問題を解決するためにどれだけ努力を尽くしてきたかを見てきたし、このレースを完走するためにやれることはすべてやろうというのが我々のリスペクトだったんだ。
今週も何度も話し合いをしてきたし、今後もそれは変わらない。関係を改善する必要なんてない。なぜなら、そもそも我々の関係に問題なんてないんだからね」
アストンマーティンのチーフトラックサイドオフィサーであるマイク・クラックはそう語る。
グリッド上ではそれをアピールするように、オーナーのローレンス・ストロールと渡辺康治HRC(ホンダ・レーシング)社長が固く握手を交わし、アロンソも渡辺社長と強く抱き合った。
最下位という屈辱に耐えながらも、まずは信頼性の確保に全力を投じ、「自分たちがもがき苦しむ姿を見て応援していただきたい」と語っていた折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネジャーは、鈴鹿の温かい声援があらためて大きな励みになったと語った。
「今日もファンの方に『がんばれ』と声をかけていただいたりしました。今は我々が求めているポテンシャルではありませんし、皆さんに見せたいポテンシャルでもありませんが、ファンの皆さんもそこを理解してくださって、ホンダなら盛り返してくれると信じてくれているんだということが伝わりましたし、すごく励みになりました。
我々としても、来年、鈴鹿に帰ってくる時にはもっといいパフォーマンスを見せられるように努力していかなければいけない、ということをあらためて感じました」
まだまだ、もがき苦しむ姿は続く。アストンマーティンとホンダが一体となってもがき、強くなっていく。その姿にこそドラマがある。
アストンマーティン・ホンダは、3戦目にしてやっと、ひとつのチームとして歩き始めた。来年の鈴鹿で満開の桜を咲かせるための旅路は、まだ始まったばかりだ。



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