アメリカの識者たちが予想する井上尚弥vs中谷潤人 前編

【世界王者たちも待ち望む日本人同士のメガ・ファイト】

「楽しみだねぇ、本当に。最高の試合になるだろう。実力伯仲した2人の激突。

ワクワクするよ」

 かつてパウンド・フォー・パウンドの名をほしいままにした男、ロイ・ジョーンズ・ジュニア(57歳)はそう語った。

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 2026年3月28日、米国ネバダ州ラスベガス。この日、MGMグランドガーデンではWBCスーパーウエルター級タイトルマッチが催された。5月2日の東京ドーム決戦、WBA/WBC/IBF/WBOスーパーバンタム級チャンピオン、井上尚弥vs.挑戦者、中谷潤人戦が行なわれる前に、本場のボクシング関係者、およびメディアが最も集まる場所である。同会場で、あるいはその前後にロスアンジェルス(LA)で顔を合わせたエキスパートたちに、井上vs.中谷戦を占ってもらった。

 ミドル、スーパーミドル、ライトヘビー、ヘビーと4階級を制したジョーンズは、「(試合の展開を)見通すのは難しいなぁ」と数秒間唸ったあと、「井上の判定勝ちかな」と呟いた。そして、「あえて述べるなら、だけどね。中谷が勝利しても驚かない」とつなげた。

「中谷は長いリーチと伸びるパンチを持っている。そして井上は、とにかくアグレッシブだ。一瞬も目を離せないハイレベルな闘いになるだろう」

【ボクシング】井上尚弥vs中谷潤人をアメリカの識者たちが予想 元世界王者たちも「歴史に残る熱戦」を期待
ロイ・ジョーンズ・ジュニア

 57歳になったジョーンズは、自らが指導する選手が前座に出場するため、チーフセコンドとしてMGMグランドガーデンのリングに上がった。

 そのジョーンズと同じ年で、パウンド・フォー・パウンドを倒すことに執念を燃やした元ライトヘビー級世界チャンプのアントニオ・ターバーは、188cmの長身を折り曲げながら話した。

「中谷は俺と同じサウスポーで、実に賢いボクサーだと感心しながら見ていた。ただ、昨年末のサウジアラビアで苦戦を強いられたよな。あのファイトを見て、井上に挑むのは早いと感じた。6回くらいで、チャンピオンがKO防衛するんじゃないか」

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アントニオ・ターバー

 ジョーンズと3度拳を合わせて、2勝1敗のターバーはそう告げた。ゆっくりMGMのロビーを歩く彼は、現役時代とさほど変わらないスリムな体型を維持していた。

 ジョーンズ、ターバーの3歳下で、スタイリッシュなサウスポーだった元スーパーウエルター級王者のロナルド・"ウィンキー"・ライトは笑顔でこう応じた。

「歴史に残る熱戦になるでしょう。待ちきれないなぁ。超一流同士のぶつかり合いですね。これぞボクシング、という闘いを見せてくれると信じています」

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ウィンキー・ライト

 気になる予想を訊ねると、ライトは「まったく予想は立てられません。本当に五分五分。その日のコンディションや作戦が明暗を分けますよ。

僕の口からは、それしか言えない」と結んだ。ガードが高く、ディフェンスを疎かにしなかったライトらしい、慎重な口ぶりだった。

 筆者は彼ら3名を、それぞれ現役時代にインタビューしている。ジョーンズとターバーと私は、日本式に記すなら同学年だ。まさか、米国のスターチャンピオンたちにジャパニーズ対決のメガ・ファイトについてコメントをもらう日が来るとは......嫌でも隔世の感を覚える。それだけの逸材が、日本からも誕生したのである。

【井上のウィークポイントを指摘する記者も】

 プレスルームでは、25年来の友人であるロン・ジェラード(69歳)と再会した。

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ロン・ジェラード

「私は中谷のKO勝ちだと考える。あの長いリーチとパンチ力が魅力だし、伸び盛りさ。井上は確かに強かったが、この1年ほど、以前の勢いが感じられない。(ルイス・ネリ戦とラモン・カルデナス戦での)ダウンシーンもインパクトが大きかった。若さを武器にした中谷が、ステップアップする試合になるだろう。

21歳だったトーマス・ハーンズが、11度の防衛に成功していた磐石王者、ホセ・"ピピノ"・クエバスを2ラウンドでノックアウトしてWBAウエルター級王座を奪取した試合のようになるんじゃないかな」

 当時のクエバスは22歳。世界タイトルマッチを12戦し、11度のKO勝ちを誇るハードパンチャーだった。

「時代を築く新しいスターは、そんなふうに生まれるものさ」

 38年間ボクシングを取材し、現在は『アメリカン・アーバン・ラジオ・ネットワークス』のパーソナリティーとして活動するジェラードは、そう言うとニヤリとして眼鏡をかけ直した。

 15年、ボクシング・メディアで働く『BOXEOMUNDIAL.COM』のアルマンド・ロモ記者(43歳)は、ひと言で片付けた。

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アルマンド・ロモ

「井上に勝てる選手なんて、どこにもいやしない。彼はスーパーチャンピオンであり、唯一無二の男だ。中谷も善戦するだろうが、10か11ラウンドでチャンピオンが試合を終わらせるよ」

 ボクシング取材歴20年で『FIGHTHYPE.COM』の記者のケネス・コリンズ(45歳)も井上の勝利を唱えた。

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ケネス・コリンズ

「スキル、パワーで井上に一日の長がある。7~8回でモンスターが挑戦者を倒すだろう。ここ数試合、井上は慎重な試合運びをしているが、そういうスタイルもできるんだ。一昨年の5月、昨年5月とダウンを喫してピークを過ぎた感もあるが、まだまだ強い。ボクシングをしていれば、倒れることだってあるよ」

 同じく『FIGHTHYPE.COM』の記者で、20年ボクシングの現場に立ち続けているクリストファー・ブストメンテ(36歳)は、モンスターのウィークポイントを指摘しながら述べた。

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クリストファー・ブストメンテ

「あごに問題があるね。喰らったら倒れてしまう。とはいえ......中谷もいい選手なのは間違いないが、経験値が違う。井上はトラブルの対処法を知っているし、ピンチを乗り越えられるだけの肉体とメンタルを持っている。(キャリアの)ピークは過ぎただろうが、この試合に勝つだけのものは身に付けているよ。モンスターが10ラウンド以内にノックアウトで勝利すると見る」

(後編:中谷潤人が井上尚弥をノックアウトするという見立ても......米国の識者たちに訊く5・2東京ドーム決戦の行方>>)

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