【「心震えた、魂震えたすばらしいゲーム」】

 チケット完売、サッカーの聖地、ウェンブリースタジアムで、観客動員約7万9000人のなか、日本代表がイングランド代表に1-0で勝利した。

 NHKで解説を務めた元Jリーガー・林陵平さんは、歴史的な勝利を収めた試合をこう振り返った。

「心震えた、魂震えたすばらしいゲームだったと思います」

 ブラジル戦に続いて歴史的な瞬間に立ち会った林さんは、その喜びを隠さない。

では、なぜ日本はあの強豪イングランドを下すことができたのか。試合の構造を丁寧に紐解くと、勝因が鮮明に浮かび上がってくる。

 日本のこれまでの戦い方は、シンプルだった。ハイプレスでボールを奪い、そのまま攻撃へと転じる。いわば"守から攻への直結型"だ。しかし、イングランドのように個々の技術が高い相手には、そのプレスをかいくぐられるリスクが生まれる。林さんはこの点を冷静に分析する。

「相手がうまくなると、5-2-3、3-4-2-1の構造上、全部が形を変えてプレッシャーをかけにいっているので、(日本人選手)ひとりがハメにいった時に、(イングランド選手に)少し剥がされるとか、ズレを作られる」

 構造上のリスクを抱えながらも、日本が機能させたのがミドルゾーン、そしてローブロックでの守備だ。林さんは「そこがめちゃくちゃうまくいった」と断言する。5-2-3のブロックをコンパクトに維持し、イングランドの攻撃を"前向き"で対処し続けた。「背後への動き出しがなかったので怖さがなかった。全部日本側が前向きでできていた。

うしろを使われなかったので、全体も間延びしなかった」と語る。

 ワールドカップで優勝を目指すなら、強豪にボールを持たれる時間帯は必ずやってくる。そのときいかに組織的に守れるか。今回のイングランド戦は、その答えのひとつを示した試合でもあった。

【「三笘がキレキレで完璧」 得点シーンの美しさ】

 唯一のゴールは、まさにその守備哲学が生んだ産物だ。

 ミドルゾーンで5-2-3のブロックを維持しながら、シャドーの三笘薫がコール・パーマーへのパスをうしろからつつく。こぼれ球をボランチの鎌田大地が奪い、三笘へ届けた。左ウイングバック(WB)の中村敬斗がその瞬間、一気に駆け上がった。上田綺世がニアに飛び込み、相手ディフェンスを引きつける。そのわずかなスペースへ三笘が流し込んだ。

 林さんが特に注目するのは、三笘の判断だ。

「普通だったらもう1個こっち側で打つこともできたわけですよ。ですけど、このボールを待って外側からインサイドに流し込んだ」

 落ち着きというひと言では表現しきれない技術と判断力。

林さんは「三笘がキレキレで完璧でしたね」と称賛を惜しまなかった。

 しかしゴールはチームの結晶でもある。林さんはこう強調する。「ピッチに立っている11人が輝いてないと、このイングランド代表に戦えないわけですよ」

【チーム力+光った個人の奮闘】

 三笘、鎌田だけではなく称えたのが、ボランチの佐野海舟だ。

「もう回収しまくりですよ! 本当にすごかった」

 足の速さとボール奪取能力で、エリオット・アンダーソンら"プレミアのオールスター"とも互角以上に渡り合った。

 また、3バックの組み合わせも機能した。伊藤洋輝の安定感、谷口彰悟の完璧なカバーリング、渡辺剛のマンマーク、それぞれが役割をまっとうした。ゴールマウスを守った鈴木彩艶は空中戦の強さを発揮し、セットプレー対応でも安心感を与え続けた。

 右の堂安律と伊東純也、左の中村と三笘というシャドー+WBのコンビネーションも林さんは高く評価する。

「このふたりのコンビのセットならシャドーもWBもできるから、状況に応じてポジションチェンジもできる。スムーズに流れると思います」

【「勝って兜の緒を締めよ」がベスト】

 一方、イングランドはハリー・ケインが欠場という事情もあった。試合後には「ケインがいなかったから」という声も聞こえてくる。しかし林さんは、こうした見方をきっぱり否定する。

「日本もケガ人がいる。

結局しっかり勝ちきったのは日本だし、僕はすばらしいゲームだったと思います」

 勝利によって生まれるもの、それは目に見えない"自信"だ。林さんはこのように説く。

「イングランドに勝ったことによって何が生まれるかというと、自信なんですよ。その自信って目に見えない部分だけど一番大切な部分で、選手たちもそうだし、監督もそうだし、それはあと周りから見る目ですよね」

 ボロ負けをして課題を見つけるより、勝って課題を見つけるほうがいい。

「『勝って兜の緒を締めよ』がベストなんですよ」

 この言葉に林さんの思いが凝縮されている。

【ワールドカップへの視線 「厄介な相手が来た」】

 この試合をもって、ワールドカップ前の最終遠征となった今回の2連勝(スコットランド戦、イングランド戦)。同グループのプレイオフ出場が決まったスウェーデンについても、林さんは早速触れた。

「タレント軍団なんですよ。厄介な相手が来たな」と率直に語る。スウェーデンはゲゲレシュ(アーセナル)、アヤリ(ブライトン)、リンデルフ(アストン・ヴィラ)、グズムンドソン(リーズ)、エランガ(ニューカッスル)ら、プレミアリーグで活躍する選手を多数擁する。システムも日本と同じ3-4-2-1で、「がっぷり四つで噛み合った状態だとよりタレント差が出やすい」と林さんは懸念を示す。

 ただ、心配だけで終わらせない。

「今の日本は、どのチームにも勝つ力があることを今回のイングランド戦で証明した」と言いきる。

「どのチームにも勝つ力がある」

 聖地・ウェンブリーでの1-0。数字以上の意味を持つ勝利だ。

 ミドルブロックの組織力、ボール奪取からカウンターへの鋭さ、そして1対1でも引けを取らない個の成長――。今の日本代表は、その3つが同居する稀有なチームになりつつある。林さんが「全員を褒めたい」と語ったこの一夜は、ワールドカップへの確かな自信として、選手たちの胸に刻まれただろう。

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