「おそらく僕にとっては、これがF1で最後のバルセロナになるだろう」

 バルセロナ・カタルーニャGPを前にした木曜日、フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)はそう語った。

 引退宣言かと、その場の空気は一瞬こわばったが、そうではなかった。

 バルセロナ・カタルーニャ・サーキットは来年からスパ・フランコルシャン(ベルギー)との交互開催となり、次の開催は2028年。つまり、再来年まで現役を続けているかどうかはわからない、というのがアロンソの発言の趣旨だった。

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 しかし、来季も続けるかどうかはまだ決めていない。今シーズンが最後になるかもしれないという思いは常にあると、アロンソは語る。

「来年どうするか決めていないということは、再来年のことを考えるなんてほぼ不可能だ。いずれにしても、僕は今年出走するすべてのレースがもしかすると最後になるかもしれないと思いながら戦っている。オーストラリアでも、中国でも、モナコでもそうだったし、そして来年の開催がないこのバルセロナではそうなる可能性がほかよりも少し高いということだ」

 1週間前のモナコでは、攻めと粘りの走りで10位に入り、今シーズン初の入賞を勝ち取った。

 しかし、ガードレールに囲まれた低速のモナコでは、アストンマーティン・ホンダのマシンはひどいアンダーステアとドライバビリティの一貫性のなさが際立ち、両ドライバーともに予想以上の大苦戦を強いられた。

 そしてこのバルセロナ・カタルーニャ・サーキットは、低速から高速までコーナーのバラエティに富み、ストレートも豊富。つまり、マシンの総合力が試されるサーキットであり、今のアストンマーティン・ホンダにとっては最も苦手とする場所である可能性が高い。

 レースの現場チームを取り仕切るチーフトラックサイドオフィサー(CTO)のマイク・クラックはこう語る。

「理論上は、バルセロナはかなりタフな週末になるだろう。

バルセロナのサーキットではごまかしがきかないし、アップグレードを投入した際に現状を明確に把握できたり、時には厳しい現実を突きつけられたりもする場所だ。

 そのことはよくわかっているので、最大限の学びを得るためにミスなくレース週末を遂行する必要がある。マシンパッケージが厳しい要求に晒(さら)されるサーキットだからこそ、ドライバーたちにやれることは限られており、最もタフなレース週末になるだろう」

 モナコの入賞に浮かれることなく、むしろ厳しい現実を突きつけられているという思いのほうが強い。

【AMR26の空力性能が試される】

 ドライバーたちも、今週末に向けては厳しい見方をしている。

「レースではいろいろあったけど、実力で言えばモナコでは予選21位・22位で最下位だったし、おそらく今週末も同じだろうね」

 モナコでクラッシュを喫したランス・ストロールはそう言う。モナコではブレーキング時にエンジンブレーキが思いのほか効かず、うしろから押されるような感触になってガードレールに突っ込んでしまった。

 ホンダの折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネジャー兼チーフエンジニア(GM)は、350kW(約470馬力)に及ぶ強力なMGU-K(運動エネルギー回生システム)モーター制動発電に対して、ICEの燃焼が安定したトルクを出しきれていないことがドライバビリティの安定しない理由だと述べる。

 マイアミGP以降はその燃焼を安定させる方向性が見え、ようやく改善の歩みを進めつつある。

 しかしその大元には、ギアボックスのダウンシフト挙動が不安定であることが影響しているというから、改善はひと筋縄ではいかない。

「エンジンブレーキとダウンシフトの一貫性のなさには今シーズンずっと苦しんできたし、ダウンシフトのアグレッシブさがトルクやエンジンブレーキのかかり方やブレーキバランスを不安定にしている。それが今週すぐに改善できるとは思っていないけど、ここはランオフエリアが広いから問題にはならないだろうね」

 ストロールがそう指摘するように、ガードレールに対してミリ単位で攻めていかなければならないモナコではその不安定さが大きな不利になったが、コースもランオフエリアも広いバルセロナでは多少の一貫性のなさは許容できる。

 問題は、速度域の高いコーナーも多く、空力的にも多くを求められるバルセロナでどこまで戦えるかだ。パワーユニットの不利はすでに明白だが、今週末は特にAMR26の空力性能が試されることになる。

「このサーキットにはいろんな思い出がある。いつまでも忘れないだろう。初めてシングルシーターのテストをしたのもここだったし、ベネトンでの最初のテストもここだった。

 ルノー・メガーヌにフアン・カルロス国王を助手席に乗せて走ったこともあったし、ターン3で彼があまり心地よくなさそうだったのを見て、となりに乗っているのが国王だということを忘れていたのに気づいたりね(笑)。本当にこのサーキットではいろんなことがあったし、特別な場所だよ」

【アドレナリンのあふれ出るレースを渇望】

 アロンソは苦しい週末になることを覚悟のうえで、思い出のたくさん詰まったこのバルセロナで、最後にもうひとついい思い出を作りたいと願っている。

「おそらくコンペティティブではないだろうし、予選でも(早々に敗退して)そんなに長く走ることはできないだろう。決勝でもみんなが望むような速さはないと思うけど、長く走りたいと思っているし、みんなにこの週末を楽しんでもらいたい。僕自身もこの週末を楽しみたいと思っている」

 感傷に浸っているわけではない。アロンソが渇望しているのは、ただただ競争力のあるマシン、アドレナリンのあふれ出るレース、そして勝利だ。

「僕にとって一番つらいのは、レースに勝てないことや競争力がないことだ。最後のレースかどうかはあまり関係ない」

 アストンマーティン・ホンダは、どんな競争力をアロンソに用意できるのか。アロンソの、バルセロナでの最後のレース週末が始まる。

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