タレントやスポーツ選手たちへのSNSでの誹謗中傷に対し、所属する団体・組織が法的手段を取るケースが増えている。
最近ではプロサッカーJ1チームのFC町田ゼルビアが、クラブに対するSNS上での誹謗中傷に対し、刑事告訴することを表明。
芸能ではベッキーやハリセンボンらが所属する芸能事務所「GATE」が「インターネット上の誹謗中傷等に対しては、迅速に証拠を保全し、発信者情報開示請求等の法的手段を含め厳正に対処してまいります」と宣言した。
プロスポーツや芸能はファンあっての商売。それゆえに、誹謗中傷も”有名税”として組織・団体も黙認してきた部分がある。しかし、インターネットやSNSでの誹謗中傷は、時に人が命を絶ってしまうほどの強い威力を持つものであり、近年は社会問題になっている。
このようななかで団体・組織側が法的手段を取る姿勢を打ち出すことにより、誹謗中傷に対する社会での扱い方が変わり始めている。

誹謗中傷に対し、毅然とした態度で立ち向かう効果

こうした対応を公にすることは、実際のところ、”抑止力”としてどの程度効果が期待できるのか。誹謗中傷問題での実績も豊富な荒木謙人弁護士に、こうした動きの背景や効果について聞いた。

ファン商売の組織や団体は、誹謗中傷に対し、これまではどちらかといえば静観していましたが、最近では毅然とした態度をとる傾向が目立っているように感じます。どのような背景が考えられるでしょうか。

荒木弁護士: 近年、インターネットやSNSで誰でも意見を表明できるようになっていることから、スポーツ選手や芸能人といった世間の注目を集める人たちに対して、意見の表明にとどまらず、誹謗中傷に至るものまで多く見られるようになってしまいました。
誹謗中傷は、被害者に対して多大な精神的な苦痛を与えることとなり、仕事や日常生活に大きな影響を与える可能性があります。そのため、個人が所属している組織や団体としても、対応しなければならない状況になったという背景があると思います。

FC町田のケースでは、伊東純也氏の弁護人を務めた弁護士がつき、誹謗中傷に対して法的手段を取る姿勢を打ち出しています。
内々で処理・対応するだけでなく、法的手段を取るという姿勢を示すことは、どれくらい有効で、どの程度の抑止力が期待できると考えられるでしょうか。

荒木弁護士: 誹謗中傷をしている人たちの多くは、相手がどれほど傷つくかということを考えず、民事・刑事事件に発展する可能性があることも認識していないと思います。
そのため、組織や団体として法的手段を取ることを示すことによって、誹謗中傷行為をとどまらせる抑止力は十分に期待できると考えられます。

弁護士の立場から、露出の多い組織や団体の誹謗中傷対策として、どういった戦略が効果的であるとお考えでしょうか。

荒木弁護士: 前述したとおり、安易に誹謗中傷行為を行ってしまうと、民事・刑事事件に発展する可能性をしっかり認識させることが重要だと思います。そのような点でいうと、ホームページ上に声明文を出したり、記者会見をしたりして立場を表明することは、今後の誹謗中傷対策として効果的であると考えられます。

誹謗中傷の悪質性、違法性の「境界線」

FC町田のケースでは、クラブ代表が「もう限界。既に多大な実害、実損が出ており、これ以上はもう看過しないことを決意しました。イジメの構図と同じです。この状況を変えるには、対象者がインパクトのある処罰を受けることで、コトの重大さを理解してもらうしかないと思っています」とし、泣き寝入りしない意向を表明しました。では実際のところ、SNS上での誹謗中傷の悪質性、違法性はどのあたりに「境界線」があると考えられるでしょうか。

荒木弁護士: 分かりやすくいえば、自らの意見や論評の表明にとどまらず、言われた人の社会的評価が低下したり、とても傷ついたりするような発言をした場合には、民事・刑事上の責任を問われる可能性は高くなります。
民事上の責任でいうと、名誉権侵害であれば社会的評価が低下したかどうか、名誉感情侵害であれば主観的名誉や自尊心が毀損されたかどうかが、判断の分かれ目になります。

また、刑事上の責任でいうと、事実を適示したか否かで、名誉毀損罪と侮辱罪の判断が分かれることになります。

誹謗中傷する人の実像や心理はどのようなものなのでしょうか。

荒木弁護士: 自分だけはやってもバレないというような、安易な考えで行う人が多数だと思います。また、スキャンダルなどで炎上したような人たちに対しては、みんな誹謗中傷しているから自分もしても問題ない、という心理が働いてしまっていると考えられます。

どうすればこうしたSNS上での誹謗中傷をなくすことできるとお考えでしょうか。先生のお考えをお聞かせください。

荒木弁護士: インターネットやSNSで誰でも簡単に意見を表明できるようになった反面、誹謗中傷をするハードルも低くなってしまった現状があります。誹謗中傷行為をする人たちの多くは、違法行為をしているという認識はないため、まずは民事・刑事上の責任を負う可能性があることを認識する必要があります。
また、そもそも誹謗中傷をしている人たちは、相手が一人の人間であるという意識が希薄になっていることが考えられます。自分の家族や友人に対して言えないことは、第三者に対しても発言するべきではありません。インターネットやSNSで発言する際には、自分の発言が誹謗中傷にあたらないか、いったん立ち止まって考える時間を作ったうえで発言すべきであると思います。


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