
寒い冬が続く。気象庁によると、特に12月28日から1月3日にかけては、全国的に気温がかなり低くなる可能性があるといい、「風呂に入って温まりたい」と考えるタイミングも増えるのではないだろうか。
ただ、高齢者の場合、この時期の入浴は死に至る可能性があり、注意が必要だという。
さらに、東京消防庁の救急搬送データ(2021年)を見ると、冬場は「溺れる」事故により救急搬送される人数が多くなっている。
「溺れる」事故の発生現場の9割以上は「住宅等居住場所」で、多くが浴槽で溺れており、救急搬送された高齢者の約9割は、生命の危険がある重症以上(うち約半数は死亡)と診断されたとのことだ。
「温かい室内と寒い脱衣所や浴室との寒暖差などによる急激な血圧の変動や、熱い湯に長くつかることによる体温上昇での意識障害があげられます」
また、政府広報オンラインも、その理由について以下のように記載している。
「特に65歳以上の高齢者は、血圧を正常に保つ機能も衰えてきている場合がありますので注意してください。また、血圧が不安定なかた、風呂場でめまいや立ちくらみを起こしたことのあるかたも注意が必要です」
入浴時に急激な血圧の変動が起きるしくみ(政府広報オンライン「交通事故死の約2倍?!冬の入浴中の事故に要注意!」より)
消費者庁や政府広報オンラインでは、高齢者本人や、同居人に向けて、下記の注意すべきポイントを挙げている。
・前もって脱衣所や浴室を暖めておく
・温度計やタイマーを活用し、部屋間の温度差や湯音、入浴時間を見える化する(目安は湯温41度以下、湯につかる時間は10分まで)
・入浴前後に水分補給をする(入浴中も、喉が渇いたらこまめに水分をとる)
・食後、飲酒後、医薬品の服用後の入浴を避ける
・同居者がいる場合は、同居者に一声掛けてから入浴する
・浴槽から急に立ち上がらない
・意識がもうろうとしたら、気を失う前に湯を抜く
・高齢者が入浴中の場合、同居人は様子を確認する
年末年始は特に、家族との会食や飲酒をする機会も多いだろう。しかし、飲食や飲酒は血圧を下げる要因となるので、入浴に際しては注意が必要だ。
考えたくもないことだが、もし万が一、この年末年始に会食や飲食を楽しんでいたところ、高齢家族が浴室で亡くなってしまった場合、その家族に何らかの法的責任が生じることはあるのだろうか。
刑事事件に詳しい杉山大介弁護士に、例として以下4つのケースについて聞いた。
①知らぬ間に高齢家族が風呂に入っており、浴室内で溺死していたのを発見した
②高齢の家族と会食・飲酒後に「風呂に入る」と言った高齢家族を止めず、その後、高齢家族が浴室で溺死してしまった
③風呂に入っている高齢家族が、長時間風呂から出てこないのに、放置した。高齢家族は浴室内で溺死した
④高齢家族と会食・飲酒後に、高齢家族に風呂に入るよう勧めたり、せかしたりするなどし、その後、高齢家族が浴室で溺死してしまった
杉山弁護士は「全体的な印象として、法的責任の話にはあまりなりにくい内容だと思います」としたうえで、次のように解説する。
「仮に刑事事件の視点で考えるとすれば、理屈としては、『保護責任者』の身分を持つ人に成立しうる犯罪が浮かんでくるかな、とは思いました。
試しに、『保護責任者不保護罪』(刑法218条後段)との関係で考えてみると、①のケースの場合は、家族も認識していませんから、どうしようもないのではないかと思います。法律は、不可能なことをしろとは要求できません。
また、②③と比べると、④は危険な状況をより積極的につくったということで、何らかの責任を観念しやすい状況にはなると思います。
ですが、まずは家族に『保護責任がある』という前提が必要になるでしょう。
大正・昭和の時代には、保護責任をある程度積極的に認める見解も有力で、扶養義務を直ちに『保護責任』に転化させた判例もあります。また、病人の雇い人を解雇して立ち去らせたり、堕胎により出産させた未熟児を放置したといった事案で保護責任を肯定していたりもしました。
ただ、いずれにしても、もう少しわかりやすい『危険な状態』における話ですから、風呂という場面に、どこまで危険性を認めるのかは、かなり議論の余地があるように思います。
確かに、飲酒した高齢者を積極的に風呂に入らせた場合、それが法的責任に至るのかはともかく、生命の危険に対する寄与があるのは確かだと思いますので、少し考えてみたくなる要素はあります。
現在、NHK BSで再放送中の連続テレビ小説『カーネーション』でも、主人公に関係する重要人物が、傷病を負っている状態で飲酒後に風呂に入って亡くなるのですが、『一緒にいた人に、責任が生じるのか』などと考えてみると、興味深いことには、この質問を受けて気が付きました。
ただ、あくまでも、現状としては、刑法の教室でやるような思考実験の領域であって、犯罪に問われるリスクを、現実に指摘するものではありません」(杉山弁護士)
基本的には責任を問われることはないとはいえ、もちろん年始早々このような悲劇はあって欲しくないもの。家族での見守りや環境づくり、適切な入浴方法を徹底し、新年も健やかに過ごしたい。
ただ、高齢者の場合、この時期の入浴は死に至る可能性があり、注意が必要だという。
救急搬送後、約9割は重症以上と診断
厚労省の「人口動態調査」や、消費者庁の資料などによると、2022年に不慮の事故で亡くなった高齢者のうち、交通事故で亡くなったのは2154人。その倍以上の5824人が、家や居住施設の浴槽で溺れ、亡くなっているという。さらに、東京消防庁の救急搬送データ(2021年)を見ると、冬場は「溺れる」事故により救急搬送される人数が多くなっている。
「溺れる」事故の発生現場の9割以上は「住宅等居住場所」で、多くが浴槽で溺れており、救急搬送された高齢者の約9割は、生命の危険がある重症以上(うち約半数は死亡)と診断されたとのことだ。
寒暖差などで急激に血圧変動
消費者庁は、冬場にこうした事故が増える原因について、HP上で次のように解説している。「温かい室内と寒い脱衣所や浴室との寒暖差などによる急激な血圧の変動や、熱い湯に長くつかることによる体温上昇での意識障害があげられます」
また、政府広報オンラインも、その理由について以下のように記載している。
「特に65歳以上の高齢者は、血圧を正常に保つ機能も衰えてきている場合がありますので注意してください。また、血圧が不安定なかた、風呂場でめまいや立ちくらみを起こしたことのあるかたも注意が必要です」
入浴時に急激な血圧の変動が起きるしくみ(政府広報オンライン「交通事故死の約2倍?!冬の入浴中の事故に要注意!」より)
目安は「41度以下で10分まで」
では、どのようにすれば、高齢者による溺死・溺水事故を防ぐことができるのだろうか。消費者庁や政府広報オンラインでは、高齢者本人や、同居人に向けて、下記の注意すべきポイントを挙げている。
・前もって脱衣所や浴室を暖めておく
・温度計やタイマーを活用し、部屋間の温度差や湯音、入浴時間を見える化する(目安は湯温41度以下、湯につかる時間は10分まで)
・入浴前後に水分補給をする(入浴中も、喉が渇いたらこまめに水分をとる)
・食後、飲酒後、医薬品の服用後の入浴を避ける
・同居者がいる場合は、同居者に一声掛けてから入浴する
・浴槽から急に立ち上がらない
・意識がもうろうとしたら、気を失う前に湯を抜く
・高齢者が入浴中の場合、同居人は様子を確認する
年末年始は特に、家族との会食や飲酒をする機会も多いだろう。しかし、飲食や飲酒は血圧を下げる要因となるので、入浴に際しては注意が必要だ。
万が一のとき、家族の法的責任は…?
上記の通り、消費者庁の注意ポイントの中には、同居人が高齢家族の様子を確認することや、食後・飲酒後の入浴を避けることが含まれている。考えたくもないことだが、もし万が一、この年末年始に会食や飲食を楽しんでいたところ、高齢家族が浴室で亡くなってしまった場合、その家族に何らかの法的責任が生じることはあるのだろうか。
刑事事件に詳しい杉山大介弁護士に、例として以下4つのケースについて聞いた。
①知らぬ間に高齢家族が風呂に入っており、浴室内で溺死していたのを発見した
②高齢の家族と会食・飲酒後に「風呂に入る」と言った高齢家族を止めず、その後、高齢家族が浴室で溺死してしまった
③風呂に入っている高齢家族が、長時間風呂から出てこないのに、放置した。高齢家族は浴室内で溺死した
④高齢家族と会食・飲酒後に、高齢家族に風呂に入るよう勧めたり、せかしたりするなどし、その後、高齢家族が浴室で溺死してしまった
杉山弁護士は「全体的な印象として、法的責任の話にはあまりなりにくい内容だと思います」としたうえで、次のように解説する。
「仮に刑事事件の視点で考えるとすれば、理屈としては、『保護責任者』の身分を持つ人に成立しうる犯罪が浮かんでくるかな、とは思いました。
試しに、『保護責任者不保護罪』(刑法218条後段)との関係で考えてみると、①のケースの場合は、家族も認識していませんから、どうしようもないのではないかと思います。法律は、不可能なことをしろとは要求できません。
また、②③と比べると、④は危険な状況をより積極的につくったということで、何らかの責任を観念しやすい状況にはなると思います。
ですが、まずは家族に『保護責任がある』という前提が必要になるでしょう。
大正・昭和の時代には、保護責任をある程度積極的に認める見解も有力で、扶養義務を直ちに『保護責任』に転化させた判例もあります。また、病人の雇い人を解雇して立ち去らせたり、堕胎により出産させた未熟児を放置したといった事案で保護責任を肯定していたりもしました。
ただ、いずれにしても、もう少しわかりやすい『危険な状態』における話ですから、風呂という場面に、どこまで危険性を認めるのかは、かなり議論の余地があるように思います。
確かに、飲酒した高齢者を積極的に風呂に入らせた場合、それが法的責任に至るのかはともかく、生命の危険に対する寄与があるのは確かだと思いますので、少し考えてみたくなる要素はあります。
現在、NHK BSで再放送中の連続テレビ小説『カーネーション』でも、主人公に関係する重要人物が、傷病を負っている状態で飲酒後に風呂に入って亡くなるのですが、『一緒にいた人に、責任が生じるのか』などと考えてみると、興味深いことには、この質問を受けて気が付きました。
ただ、あくまでも、現状としては、刑法の教室でやるような思考実験の領域であって、犯罪に問われるリスクを、現実に指摘するものではありません」(杉山弁護士)
基本的には責任を問われることはないとはいえ、もちろん年始早々このような悲劇はあって欲しくないもの。家族での見守りや環境づくり、適切な入浴方法を徹底し、新年も健やかに過ごしたい。
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