正確には、定年を65歳未満としている事業主は以下の3つの措置を経過措置期間に実施する必要がある。
(1)65歳まで定年を引き上げる
(2)希望者全員を対象とする、65歳までの継続雇用制度を導入する
(3)定年制を廃止する。
(1)(3)のように、正社員として65歳以上の雇用確保を実施しない事業主であっても、(2)の65歳までの継続雇用制度導入が必要になり、どのような形でも事業主は従業員の65歳までの雇用確保を実施しなければならなくなった。それが正解だ。
一般企業での人事・総務として勤務後、社労士に転じた社会保険労務士法人ベリーベストの雲雀田(ひばりだ)孝志氏は、4月以降の「改正後」について次のように解説する。
「これまでは改正案施行までの経過措置期間でしたが、3月で完全終了ということになります。雇用確保義務が例外なく、65歳までになったということです。経過措置に対応している企業は、現在、64歳までの雇用確保義務で良かったのですが、4月以降は、65歳までの雇用確保が義務付けられます。
雇用確保はあくまでも本人の意思がある場合に再雇用して就労を継続する形ですが、定年自体はあくまで、60歳以上が法的義務ということで変わりません」
意思があれば65歳まで就労可能に
定年が65歳未満の場合、65歳までは働く側が働き続ける意思を示せば、企業はそれを受け入れ再雇用する。4月からはこの対応が完全義務化される。一方、本人が申し出ない限り正社員として雇用が継続される定年制度は60歳以上でこれまでと変わらない。いずれにせよ、4月からは60歳がひとつの節目となり、たとえば定年が60歳に設定されている場合、該当する労働者は「リタイア」もしくは65歳まで「働き続ける」を定年の60歳前後のタイミングで選択することになる。
ちなみに、定年が60歳の企業で継続雇用を希望した場合、60歳時点で退職金が支給される。
リタイアか就労継続かをどう判断?
忘れてならないのは、今回の高年齢者雇用安定法改正の背景に少子高齢化があることだ。今のまま人口動態が推移していけば、労働人口が不足する。それを補完するために、シニア人材を有効に活用していこうというわけだ。ただ、高齢者が増え、若者が減る弊害として年金問題があることは見過ごせない。老後の生活費となるはずの資金が目減りしていくことが確実な情勢の中で、リタイアという選択をするのは簡単でない。
しかも、年金をもらいながら働いて収入を得た場合、その支給額を減らす「在職老齢年金制度」があり、就労を続ける意欲がそがれる状況にある。厚労省は廃止を含めた改革案を調整中だが、なんとも悩ましいところだろう。
雲雀田氏はこうした状況を踏まえ、改正後のライフプランの考え方として、次のように助言する。
「少子高齢化が進む状況をみますと、今後の年金制度が現状より良化することは考えられません。また、高齢者の就業ブランクは大きいと考えられますので、できる限り、働き続けるのが理想です。社会や国の制度も、高齢人材の活用を真剣に考える時期に来ています。
まずは定年後または60歳以降の就労について、早い段階で検討を開始するといいでしょう。
かつてなら、定年まで職務を全うすれば、あとは年金暮らしで悠々自適というシナリオも描けたが、それも今はむかし。選択肢として会社の定年でリタイアする道はあるものの、できれば体がいうことをきく限り働き続ける。それが人口減少時代の堅実かつスタンダードな労働スタイルとなりそうだ。
定年なし企業へ早めの転職も選択肢に
人材不足に備え、早い段階から手を打っている企業の中には、(1)(3)のように定年制を延長したり、廃止したり、また年齢制限を設けずに求人しているところもある。そうした企業への転職も、老後の収入不安定時代の働き方として、視野に入れておいた方がいいのかもしれない。最後に雲雀田氏は人材不足の慢性化に備え、企業へ向けてもアドバイスを送る
「まずは高齢者のマイナス面ばかりに目をとらわれずに、豊富な経験などプラスの面にフォーカスしていき、そういった資質を活かせる業務の創設を検討していくことが望ましいです。
また、在職老齢年金や雇用保険の高年齢者継続給付など、今後改定が予定されている情報を早めにキャッチし、高齢者の労働条件の適正化を常に検討していくことも必要になります」
老後のために働き続けなければいけない…。そう受動的に捉えると気持ちは沈みがちになるが、社会が高齢ワーカーを当たり前のように受け入れる環境が整備されれば、いつまでも生きがいを持って働き続けることも現実的になる。4月はそうした社会への成熟へ向けた、ひとつの転換点となるだろう。