報道によれば、女子生徒は小学5年生だった2020年、3人から授業中にやじを飛ばされる、避けられるなどのいじめを受け、登校できなくなったという。
判決では特に「○○(女子生徒の名前)エキス」と言いながらタッチし合ったり、女子生徒が触ったプリントの箇所を避けたりする3人の行為について「他者をばい菌のごとく扱うに等しく、尊厳を著しく損ない人格権を侵害する言動」と厳しく追及した。
被害者に訴訟をすすめることは「まずない」?
この報道を受けて、インターネット上でも「良い判例!司法はどんどんやってくれ!」と肯定的な意見が多く見られたが、一方でいじめの被害者やその家族から相談を受けることも多い杉山大介弁護士は、相談者に最初から訴訟をすすめることは「まずない」といい、その理由について以下のように説明する。「本件で、被害者としてはおそらく、違法性が認められたことは喜ばしい一方、慰謝料の額などでは到底満足とか納得と言えない感情を抱えていらっしゃるのではないかと推察します。訴訟は相手にも傷を負わせられますが、経済的にも、時間的にも、心理的にも、自分も傷を負うものなのであくまで“最終手段”です。
実際、いじめが原因で被害者が亡くなったなど、いじめの後に重大な出来事が起きた事案での訴訟は見られますが、いじめそのものへの評価を問う訴訟はまだまだ少ないと認識しています」(杉山弁護士)
慰謝料30万円が「妥当」とされてしまうワケ
中でもいじめ問題で訴訟のネックとなっているのが、判決で認容される慰謝料の額の低さだ。今回の判決でも女子生徒側は300万円の慰謝料を求めたが、認められたのは3人合計で30万円だった。
インターネット上では「一生消えない心の傷を負わされて30万円は安すぎる」というコメントもあったが、杉山弁護士はこの金額について「いつもどおりの金額だと思う」と話す。
「請求額は、あくまで原告の意思表明のようなもので、請求すれば認められるというわけではありません。
いじめの慰謝料に関して具体的に言えば、インターネット上の嫌がらせや名誉毀損などでの認容額などと同水準で考えられています。
盗撮のような、より違法性や侵害度の高い事案でも50万円を容易には超えませんから、計30万円という慰謝料は判例から考えれば妥当と言えてしまうでしょう。とにかく、慰謝料相場が、今の民法の理屈だとあらゆる分野で低すぎるんです」(杉山弁護士)
「本人証言だけでは足りない」立証の難しさ
また今回のケースでは、いじめが実際にあったことが裁判所によって認められ賠償命令が出たが、こうした“違法行為の存在”の立証もネックになる。「暴力でのいじめだったとしても、ケガなど形として残らない限り、当然、いつどこでどうやったという部分の立証にはハードルが生じます。言葉でのいじめについても、後からそれを立証できるかという問題が生じます。訴訟の場合は、これらを被害者側が立証しなければいけません」(杉山弁護士)
特に、言葉での暴力や避ける・無視といった態度は「直ちに違法となる暴力行為に比べ、違法にならない領域も広い」(杉山弁護士)という。
では、どのように違法行為の存在を立証すれば良いのか。
「基本的に本人証言だけで足りることはまずなく、SNSでのやりとり、録音、第三者の証言など、客観性が必要になってきます。
また、その違法行為によってどういう損害が生じたかという因果関係を広く立証できないと、賠償額は結局、違法行為に対応する精神的慰謝料だけになってしまいます」(杉山弁護士)
「いじめ」被害の訴訟は最終手段
いじめ被害を受けた場合、弁護士への相談は「早くて早すぎるということはない」という杉山弁護士。「刑事的な事案に発展しない限り、法律が加害者をぶっ倒してくれるような展開にはなりませんが、弁護士に相談することで、お子さん(被害者)の心をどう守るか、そのためにはどういう法律、防御策が使えるか一緒に検討できます」(杉山弁護士)
その上で、“最終手段”には訴訟がある。
「いざとなったら『刺し違えてでも』という覚悟がないと、加害者や学校と交渉ができないのも事実です。一定の心構えをしつつ、まずは訴訟をしなくとも、最低限の謝罪と関係性の再構築や、安全な学校環境など、お子さんにとって“必要なもの”が獲得できないか、考えていきましょう」(杉山弁護士)