中居正広引退「お蔵入りした番組」出演タレントの“ギャラ”補償は誰がする? トラブルを起こした本人への請求は…
中居正広氏の女性トラブルに端を発したフジテレビを巡る一連の騒動は、番組降板ドミノから、その後の同局による"閉鎖的会見"を経て、同局のコンプライアンス問題に発展。さらにトヨタ自動車、日本生命など大手スポンサー企業のCM撤退ドミノにまで派生し、ついには23日に中居氏が芸能界からの引退を電撃発表する事態となった。

すでにフジテレビを含むテレビ各局は、放送休止や番組降板などを発表していたが、9日に中居氏がトラブルがあった事実を認める謝罪文を発表してわずか2週間後の突然の引退発表にメディアもざわめいた。
中居氏は、発表が23日になったことについて「これまでに携わらせて頂きましたテレビ各局、ラジオ、スポンサーの皆さまとの、打ち切り・降板・中止・契約解除等に関する会談がすべて終了」したと有料の会員向けサイト内のあいさつ文で明かしている。

お蔵入りした番組のギャラの行方は

これでフジテレビ問題がひと段落することはないが、中居氏のトラブル発覚でお蔵入りした番組の後始末も重要な業務だ。放送がなくなった中居氏の番組に収録で出演したタレントが「ギャラはもらう」と発言。中居氏自身も、上記引退表明文で「これで、あらゆる責任を果たしたとは全く思っておりません」としている。実際のところ、今後の出演報酬などの対応はどうなるのか。
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引退発表当日に削除された中居氏のX公式アカウント

エンターテインメント業界の法律に詳しい中野雄高弁護士は次のように説明する。
「私の知る限り、出演契約のギャラは番組等への『出演』行為に対する対価ですから、その番組が放送・配信されたか、お蔵入りになったかには関係なく、『出演』行為が完了つまり出演がなされて番組等の収録・撮影が完了すれば発生するものです。普通は、"番組がお蔵入りになったからギャラは支払わない・支払えない"などという事態は生じないと思います」

「他の出演者のギャラ補償」不祥事を起こした本人に転嫁は"ケース・バイ・ケース"

そのうえで、「例外がある」と中野弁護士が補足する。
「もっとも、お蔵入りの原因を当該出演者が作った場合は別です。出演契約において、出演者の禁止事項が規定されていることがあります(例えば、犯罪行為をしない等)。出演者がその規定に違反した場合、それを理由とする出演者から番組側に対する損害賠償責任によって出演者のギャラの受領(じゅりょう)権が相殺され、結果としてギャラが支払われないということが起こります。
損害賠償責任の金額が当該不祥事を起こした出演者のギャラを上回るようなら、当該出演者は自らのギャラが無くなるだけでなく、それ以外の賠償責任も問われることはあり得ると思います」
今回の中居氏のケースでは、この辺りが微妙であり、そこが問題の根深さといえる。本来なら、トラブルを起こした中居氏の責任が大きいといえそうだが、"きっかけ"を局が作った可能性もあり、そうだとすれば、損害賠償の責任の所在は宙に浮きかねない。

一般論として、中野弁護士は次のような可能性を指摘する。
「番組のメインキャストがお蔵入りの原因を作った場合、責任の所在はもちろんその人にあると思いますが、だからといって他の出演者に対する補償まで直接するということは考えにくいです。
通常、他の出演者は契約相手(放送局や制作会社など)に対して出演料の支払いを求めます。そしてその放送局や制作会社などが、不祥事を起こしたメインキャストに補償を転嫁するかはケース・バイ・ケースではないでしょうか」
"上納"が事実だとすれば、"あっ旋"した局は共犯ともいえ、中居氏に対し、補償の転嫁を迫るのは道理に合わず、現実的でないと考えるのが妥当だろう。
もっとも、フジテレビはすでにスポンサー撤退で数十億円単位の損失を被るとも推定される。中居氏にしても、出演CMの違約金が数億円に上るとみられ、どちらもすでに金銭面では大き過ぎるしっぺ返しを受けている。

事前の"身体検査"はどう変わっていくのか

後悔先に立たずだが、両者とも「なぜあんなことをしてしまったのか…」と深く反省し、悔やんでいるだろう。そもそも、こうした点は、コンプライアンス遵守が声高に叫ばれる昨今、万一に備え、契約時に厳重すぎるほどに徹底されていないものなのか。
「『スポンサーの意向』という表現はあまりに抽象的ですから契約書には使われないと思います。結局は常識で判断してスポンサーが望まないような行為、つまりスポンサーのイメージダウンを招きかねない行為を当該出演者がしてはならないという規定を、なるべく具体的に列挙するようにしていると思います」と中野弁護士は言う。
松本人志氏が過去の性加害トラブルで地上波から消えたように、スポンサーのイメージを損ねるようなコンプライアンスに反する行為は「問答無用で退場」が、地上波では常識だ。逆にいえば、地上波にはもはや清廉潔白でなければその居場所はないといっていい。

わずか2年で、大物タレント2人が退場させられたテレビ界。これまで以上に出演者の契約前の素行調査など"身体検査"が厳格になりそうだが、今後、地上波におけるタレントなどとの出演契約条項はどのように変わっていくのだろうか。
「(身体検査の厳格化は)ここ1、2年の話ではなく、10年ほど前から契約書の違反条項の書き方はより具体化する方向になっていると思います。特に番組の配信などの二次利用が当たり前になり、多くの番組がその放送後数年以上にわたって流通することが前提になっていますから、放送局・制作会社としては慎重になっています。その動きはますます加速するのではないでしょうか」(中野弁護士)
タレントの魅力は危険な香りと紙一重な側面もある。だが、地上波がそうしたリスクに過剰になり過ぎ、起用をちゅうちょする傾向が強まれば、良くも悪くも個性豊かで魅力的なタレントは配信系へ流れる。その結果、地上波のコンテンツの価値は低減し、媒体としての力を弱めていくことになる。
タレント不祥事で終了した番組の事後対応、現在出演しているタレントの身体再検査、タレントとの関係性、企業としてのガバナンス強化…。フジテレビはもちろん、他局も、今回の不祥事を他山の石として、組織をあげて総点検・再構築に、過去をリセットしてでも誠心誠意取り組む――。そこにしか、未来はないのかもしれない。


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