
この事件を契機として、自民党では派閥が名目上「解散」し、裏金議員の「処分」も行われた。また、国会議員(現職・元職)、秘書、派閥の会計責任者の合計11人が起訴された。さらに国会では政治資金パーティーのパーティー券の購入者の公開基準額が「20万円超」から「5万円超」へ引き下げられるなどの規制政治資金規正法の「改正」も行われた。
しかし、「政治資金オンブズマン」代表として一連の裏金事件に関する調査、刑事告発等の活動を行ってきた神戸学院大学法学部の上脇博之教授(憲法学)は、「抜け穴だらけの『改革』でごまかされ、政治責任が問われることのないままうやむやになってしまう」と危機感を表明する。本連載では、政治資金規正法「改正」により解消されずに残された問題点を中心に、「政治とカネ」の問題について上脇氏が解説する。
第2回は、「合法」「違法」を問わず政治資金収支報告書に記載されずに政治家の手に渡った「裏金」が、どのような目的に使われているのか、具体的な事例を交えて考察する。(全5回)
※この記事は上脇博之氏の著書『検証 政治とカネ』(岩波書店)から一部抜粋し、再構成しています。
※【第1回】裏金の温床は「政治資金パーティー」だけじゃない? 「政治資金規正法」改正も看過できない“抜け道”の問題点
想定される「裏金」の“二つの使い道”とは
政治家たちは、最近問題になった自民党派閥の「政治資金パーティー」以外にも、法の隙間を突いた様々な手法で「裏金」をつくっています。では、「裏金」はどんな目的に使われているのでしょうか。結局、「裏金」はその性質上、使途をチェックする術がないのですが、常識的に推測すると、使い道は大きく二つに分かれると想定されます。
一つは、政治活動には使わず、自らの懐に入れ、ポケットマネーにしてしまっている場合です。プライベートの食事で高級なレストランに行った際に使ったとか、夜の街で豪遊するために使った、といったケースもこちらに入るでしょう。
永田町の自民党本部(ibamoto/PIXTA)
このような、本人がプライベートで使うために得たお金は個人の「所得」にカウントされますから、本来ならば確定申告の対象となって、「所得税」や「住民税」を収める必要があるはずです。
ただ、本人たちはあくまでも「全額を政治活動に使った」と主張するでしょう。使途が明らかにならない限りは誰もそれをチェックできません。本来は税務署が政治家に対しても容赦なく調べてくれればいいのですが、これまでの歴史を見る限り残念ながら期待できません。
使途としてもう一つ考えられるのは、政治活動や選挙に使ってはいるものの、もし収支報告書に記載したら批判を浴びるような「後ろ暗い」使い方をしている場合です。選挙のための買収であったり、その一歩手前の違法な寄付であったり、といったことが行われている可能性は排除できません。
河井元法相夫妻の大規模買収事件でばら撒かれた「手持ち資金」も「裏金」の疑い
最近でも、2019年の参院選を舞台に、自民党の河井克行元法相と妻の河井案里参議院議員が地元議員らに現金を配っていたことが発覚し、公職選挙法違反で逮捕・起訴された大規模買収事件がありました。河井氏は100人に計2871万円を配った加重買収などの罪、案里氏は県議4人に計160万円を渡した買収の罪で、いずれも有罪判決が確定しています。
河井夫妻側には自民党本部から選挙資金として1億5000万円が提供されており、このお金が買収費用に使われたのではないかという疑惑を呼びました。一方、河井元法相は裁判で「手持ち資金を使った」と証言しています。
配ったお金が政治家の「手持ち資金」だった場合、この支出については配った側の収支報告書に記載する義務がありませんから、比較的簡単にお金をばら撒くことができてしまいます。
「手持ち資金」といっても、その原資が自民党幹事長などの党幹部が掌握する「政策活動費」などであった可能性も考えられますが、「政策活動費」はどのように使われたのかチェックしようがありませんから、真相はわかりません。
もちろん、使途が公開されていない内閣官房報償費(機密費)が投入された可能性もあります。
「買収」は“違法”だが「陣中見舞い」は“適法”? その微妙な“違い”とは
こうした選挙をめぐっての「買収」に当たるか、その一歩手前のような手法は、他の議員の間でも横行していることが推測されます。自民党の柿沢未途元法務副大臣は2023年4月にあった江東区長選で、自身が応援する木村弥生氏(事件を受け辞職)を当選させる目的で地元区議ら10人に計約280万円を提供したなどとして、公職選挙法違反(買収など)の罪に問われました。2024年3月には有罪判決(懲役2年執行猶予5年)が確定しています。
この時は統一地方選で江東区長選と江東区議選が同日に行われており、柿沢氏は区議選の「陣中見舞い」の名目で区議らに現金を配ったと説明していたのですが、東京地検は実質的には木村氏への支援を促すための「買収」だったと見て、柿沢氏を逮捕しました。
この事件はやや複雑ですが、柿沢氏が自分自身や自分が応援する候補、この場合は区長選の候補だった木村弥生氏の当選を得るために選挙区内の有権者や選挙運動をする人にお金を配ってしまったら、これは「買収」になります。
ところがそれとは別に、区議選に立候補する候補者に「陣中見合い」を配ることは買収とはみなされず、選挙区内の地盤を固めるための「政治活動」として認められているのです。
区長選と区議選が同日だったこともあってわかりにくい構図になっていますが、柿沢氏が配ったお金に「木村氏の選挙応援もよろしく頼む」という意味合いが含まれていたならば買収になるわけで、そもそもそんな微妙なタイミングでお金を配っていた時点で弁明の余地はないでしょう。
「陣中見舞い」だけじゃない…買収一歩手前の行為にも「裏金」が?
前述の件は「買収」とみなされて刑事事件となりましたが、このように国会議員が「陣中見舞い」などの名目で地元の地方議員にお金を配る行為は普段から行われています。
神戸学院大学法学部教授 上脇博之氏(本人提供)
基本的には政治資金収支報告書に記載をしたうえで行われる「表」のやり取りですが、中には収支報告書に載らない「裏金」がやり取りされている可能性も否定できないと思います。
先述の柿沢氏の例を見てもわかる通り、どこからが「買収」に当たるのかグレーゾーンの部分も大きいですから、こうした「陣中見舞い」自体を規正すべきなのではないでしょうか。
ちなみに、買収というのは立証のハードルが高い犯罪なので、公職選挙法ではその一歩手前の対策として、選挙中以外の期間も含めて、自分の選挙区内の有権者に財産的な価値のあるものを配るのを禁じています。
ところが、このルールはたびたび破られて問題になります。
選挙区内の有権者に自身の名前とイラストの入った「うちわ」を配っていた松島みどり元法相や、メロンやカニなどの高級品を配っていた菅原一秀(いっしゅう)元経産相などの例が記憶に新しいかと思います。
小渕優子元経産相は、地元名産の下仁田ネギや姉が経営するブティックの子ども服を政治資金で購入して贈答品として送っていたことが問題視された際に、「私の選挙区内には送っていません」と弁明していました。仮にそうだったとしても、お世話になった方への贈り物ならば政治資金ではなくポケットマネーから出すべきであって、道義的な問題は残るでしょう。
このように、「買収一歩手前」の行為はあちこちで行われています。こんな現状を正そうともせずに「政治にはお金がかかる」と言うのであれば、そんな主張はまったく聞く必要がないと思います。