1月23日、立憲民主党の有田芳生(よしふ)・衆院議員が、自身に対して旧統一教会が行った名誉毀損訴訟は「スラップ訴訟」であるとして、団体および会長と弁護士の不法行為責任を問う「反撃訴訟」を提起した(東京地裁)。

2022年提起の名誉毀損訴訟に対する「反撃訴訟」

有田氏はジャーナリストとしても活動しており、1980年代から統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の問題を追及してきた。
2022年8月、日本テレビの報道番組「スッキリ」に出演した有田氏は、自民党の萩生田(はぎうだ)光一・政調会長(当時)と家庭連合の関係について「やはりもう、(家庭連合が)霊感商法をやってきた反社会的集団だって言うのは警察庁ももう認めているわけですから、そういう団体とは今回の問題をきっかけに、一切関係をもたないと、そういうことを(萩生田氏は)スッキリ言わなきゃだめだと思うんですけどね」などと発言。

同年10月、上記の発言は団体に対する名誉毀損にあたるとして、家庭連合は有田氏と日本テレビ放送網株式会社を被告とする名誉毀損訴訟(以下「先行訴訟」)を提起した。
今回の訴訟は、先行訴訟は「スラップ訴訟」であったとして、家庭連合および会長の田中富広氏と、団体の顧問でもある福本修也弁護士に、連帯して1100万円を支払うよう請求するもの(民法719条、民事訴訟法38条参照)。
なお、本訴訟は、先行訴訟の手続きのなかで行われる「反訴」ではなく、別個に提訴されている。提訴後の会見で、原告代理人の澤藤大河弁護士は「反撃訴訟」と表現した。
先行訴訟のなかで反訴を行うと争点が増え、判決が出るのが遅れてしまうため、先行訴訟とは別途に本訴訟を提起する判断になったという。

家庭連合と会長・弁護士の責任を問う

スラップ訴訟とは、言論封殺を目的とする民事訴訟のこと。
民事訴訟を提起することは、「裁判を受ける権利」の一環として憲法32条で保障されている。しかし、以下の二つの要件を満たす場合、「裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く」と判断されるため違法となり、不法行為が成立する。
客観的要件:当該訴訟に勝訴の見込みがないこと。
主観的要件:勝訴の見込みがないことを提訴者が知っていたか、あるいは容易に知り得たこと。
そして、本訴訟では、各被告について以下のような責任があると原告側が訴えている。
家庭連合:違法なスラップ提訴者としての責任。
田中会長:法人の代表役員として、違法なスラップ提訴を決定し実行した責任。

福本弁護士:違法なスラップ提訴を受任し、訴訟追行した責任。
また、被告3者には客観的にも主観的にも共同関係があり、共同不法行為が成立するとして、各被告が全損害を賠償する責任がある、と原告側は主張している。

将来のスラップ訴訟を抑止して「表現の自由」を守る

会見で有田氏は、1980年代に週刊誌『朝日ジャーナル』が「霊感商法」を批判する報道を行うと抗議電話を殺到させるなど、過去から統一教会はメディアによる批判に対して攻撃を行ってきたと指摘。
そして、2022年7月に安倍晋三・元首相の銃撃事件が起こり旧統一教会に対する世論が厳しくなった時期から、家庭連合やその関係者はジャーナリストや弁護士を対象にした多数のスラップ訴訟を提起するようになったという。
日本テレビも被告になったことが影響して、先行訴訟が提起された翌日から、有田氏は旧統一教会を扱うテレビ番組には一切呼ばれなくなった。これにより経済的な損害も負ったというが、訴訟の主な目的は、言論の自由・報道の自由などの「表現の自由」を守ることだとしている。
有田氏は「先行訴訟が原因で金銭的にも時間的にも、精神的にも多大な負担が生じた」と語る。訴状では、スラップ訴訟は対象となった者に対して多大な負担や損害を与えることを通じて、広く社会に向けて「批判をすれば大きな負担を伴う」というメッセージを発することができる、と指摘されている。
原告代理人の澤藤統一郎弁護士は「スラップ訴訟の被害は個人に限らない。『うるさい相手は批判しない方が得だ』という考えをまん延させることで、社会全体に対して、表現の自由を萎縮させるという実害をもたらす」と語った。
また、先行訴訟の原告である家庭連合のみならず、田中会長と福本弁護士を反撃訴訟の被告としているのも、将来のスラップ訴訟を抑止するためであるという。
「スラップ訴訟を提起したら、団体のみならず代表者や弁護士も大変なことになるという前例をしっかり作っていくことで、違法なスラップ訴訟を抑止する」(澤藤大河弁護士)
先行訴訟は一審でも控訴審でも有田氏が勝訴しており、他の人々を原告とした訴訟についても家庭連合側は敗訴している。
しかし、自身が番組に呼ばれなくなった事態が示しているように、家庭連合は訴訟を通じて言論を萎縮させることに成功してしまっている、と有田氏は指摘する。
「言論に圧力をかけることで発言者を萎縮させ、報道の自由の封殺を目的とした不当なスラップ訴訟は統一教会によるものだけではありません。
私はジャーナリストとしていかなる圧力にも屈することなく弁護団とともにこれからも毅然(きぜん)と闘っていきます」(有田氏)


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