【ぜんぜん言うことを聞かね~部下・Xさん】が解雇された。
これを不服とするXさんは、解雇が不服であるとして提訴。

しかし裁判所は、Xさんが会社や上司の指示に従わなかった4つの事件を総合考慮して、「組織人としての適性を疑わせる。解雇OK」と判断している。(東京地裁 R6.3.29)

事件の経緯

会社の主な事業は、情報システムに関する企画・設計など。弁護士資格を持ち、企業法務での経験が評価されたXさんは、高度専門職スペシャリストという役職で採用され、管理本部法務グループで勤務していた(年棒約800万円)。
ところが約1年半後、Xさんは会社から解雇を言い渡される。理由をザックリ述べると「ぜんぜん言うことを聞かね~」というものである。裁判所は【4つの事件】に着目して「Xさんの組織人としての適性を疑わせる事件だ。解雇はOK」と判断した。各事件の詳細と裁判所の判断を順に見ていこう。

事件1:郵送指示を拒否

上司が「郵便物を発送するように」と指示したのにもかかわらず、Xさんは従わなかった。具体的なやりとりは以下のとおり。
Xさん
「これまで、法務で郵送対応はしていないはずです」
「(別事業部の)●さんの業務です」
上司
「私も書面の発送はしたことがありますよ」
「(中略)Xさんが対応してください」
Xさん
「法務の仕事ではないと思います」
上司は、チャットで1時間以上にわたり説得を続け、オンラインでの打ち合わせを行わざるを得なかった。
この事件について裁判所は「法務グループ内の案件に関する郵送業務はグループ内で対応すべき、という上司の命令に不合理な点はない。それにもかかわらず、Xさんは自分の考えに固執して上司の時間を1時間以上も奪っており、組織人としての適性を疑わせる事情と言える」と判断した。

事件2:契約書の保管

Xさんは上司から「契約書の保管業務をするよう」指示を受けたが、「それは法務グループではなく総務グループの業務である」と言い張り、「自分の専門性を生かせない契約書の保管業務を担当させられるのは納得できない。業務命令は不当である 」と拒否した。
この事件について裁判所は「上司の命令に不合理な点はない。それにもかかわらず、Xさんは自分の考えに固執し、上司らの指示の正当性を疑い、50分近い面談時間のうち多くの時間をXさんの説得に使わざるを得ない事態となっており、Xさんの上記行動は、組織人としての適性を疑わせる事情と言える」と判断した。
この事件後、会社はXさんに対して、けん責処分(書面による指導)を出した。

事件3:質問攻撃

別グループ(総務グループ)に対する質問メール攻撃である。そのメールには「PCの壁紙の設定について」など、Xさんの業務には直接関係しないような質問も含まれていた。また、パスワードを変更したことによるトラブルや、Xさんが業務とは無関係の設定をPCに行ったことを原因とするトラブルなどもあった。
Xさんは、自分が納得するまで細かい質問をし続け、対応者は何往復もやりとりすることを余儀なくされていた。
これについて上司が注意すると、Xさんは「心当たりがなく、具体的にお聞かせいただけますか」と回答。……おやおや、他部署の方を困らせているという自覚がなかったようである。
Xさんは、その後も他部署への問い合わせを続けたため、上司が「懲戒処分の対象になり得る」と言ったところ、Xさんは「情報の取り扱いを確認することに対し、このような威嚇的な抑止を要請すること自体が問題と考えます。今後も必要な確認はいたします」と返答し、自分の行動を改めようとはしなかった。
この事件について裁判所は「業務上の必要性の乏しい問い合わせにより、他部署の業務に支障を生じさせる行為と言わざるを得ない」と判断した。

事件4:報告書を作成しない

以上のような事件が発生したため、会社はXさんを「管理本部法務グループ」から「管理本部付」へ配置転換した。
その後、会社はXさんに「業務」として報告書を作成するよう命じた(具体的な作業内容は、「会社に関係する法令が事業に与える影響など」をまとめること)。提出期限は1か月後に定められたのだが……Xさんはそれを守らなかった。
しかも、それだけではなく!
Xさんは独自の考えに基づき、「提出期限はさらに1か月後に変更された。あなた方(上司)の認識が間違っている」と反論したのである。
この事件について裁判所は「当該の報告書は、Xさんの信頼回復のための重要な機会であったと解されるが、それにもかかわらず、Xさんが上記のような発言をしたことは、自分が置かれている状況を正確に理解できていなかったことを推認させるものであり、組織人としての適性を疑わせる」と判断した。
以上の4つの事件を総合考慮した上で、裁判所は「Xさんの勤務態度の改善はもはや期待できない」と認定し、解雇OKと結論付けた。
「能力不足」を理由とした解雇はなかなか認められないが、組織不適合レベルが高ければ解雇がOKになることがある。ご参考になれば幸いだ。

他の裁判例

参考までに、下記の【自己チュー事件】もご覧いただければと思う。課長に向かって「課長の資格はない」と言い放つ、「私は変えませんよ」と反抗するなどした事件だ。本件でも「解雇OK」と判断されている。
「私は変えませんよ」入社1年で解雇された“自己チュー社員”が会社を提訴も「撃沈」した“もっともな”理由


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