
現在、一般道路の車の法定速度は時速60キロに定められている。標識がなくてもあてはまり、原則、生活道路もその対象だ。ただし、エリアによっては安全対策のため、時速を40キロや30キロに規制するなどしているケースもある。
今回の法改正で、「生活道路」(※)は原則、時速30キロ規制が適用される。
※道幅5.5メートル未満で中央線・中央分離帯などのない一車線の公道(警察庁)
生活道路に速度規制を適用する背景
背景には、歩行者が巻き込まれる死亡事故が減らないことがある。2021年6月には千葉県八街道市で飲酒運転のトラックが小学生5人をはね、2人が死亡、3人が大けがを負う痛ましい事故が起こった。現場は見通しのよい直線道路で道幅は約7メートル。歩道やガードレールはなかった。こうした痛ましい事故が繰り返されるなか、社会的機運も高まり、ようやく法改正による、速度規制が導入されることになった。
実は欧米では早くから生活道路の“時速30キロ規制”が導入されている。歩行者の死亡事故率が日本と比べ、低いこともわかっている。
警察庁の資料によれば、交通事故の死者数に占める歩行者の死亡事故の割合は、ドイツ14%、フランス11.4%、イギリス21.1%、アメリカ11.2%。これに対し、日本は33.1%。
一因として考えられているのが、 “歩行者優先”の軽視といわれる。たとえば信号のない横断歩道では車は一時停止義務があるが、十分に守られていない実状がある。加えて、いち早く生活道路対策として時速30キロ前後の速度規制を導入した欧米に後れを取っていることを指摘する声もある。
時速60キロでは致死率が8倍に跳ね上がる
現状、「生活道路」は標識がなくても原則、制限速度は時速60キロとなっているが、すぐそばを人が歩行する状況でこの速度がどれだけ危険かーー。ブレーキ後の停止距離は「空走距離+制動距離」で計算されるが、時速60キロの場合、ドライバーがブレーキを踏んでから止まるまで35メートル超前進する。つまり、前方30メートルに子どもが飛び出してきた場合、時速60キロ走行では衝突を回避できない計算だ。
データ上は速度の違いで致死率に大きな差(警察庁HPより)
さらに、致死率でみると、時速30キロで約10%に対し、時速50キロだった場合は80%以上と、8倍以上に跳ね上がることも警察庁の資料で示されている。
東京都初の「ゾーン30プラス」の成果は
国や警察などはこれらの状況について決して無策だったわけではない。生活道路の安全施策はこれまでも随時実施されている。たとえば、「ゾーン30」と呼ばれる安全対策は、区域規制によってゾーン内の最高速度を時速30キロに規制。加えて、路側帯の設置や拡幅などで、物理的にも速度抑制が行われるよう整備し、複合的にゾーンの安全を確保する。2009年ごろから議論されてきた。東京都では2023年3月に、墨田区がこの施策をさらに強化した「ゾーン30プラス」としてはじめて設定。最高速度時速30キロの区域規制「ゾーン30」と併せ、スラロームや狭さくといった「物理的デバイス」との適切な組合せにより、交通安全の向上を図る施策をスタートした。
現場周辺は小学校と公園の間を通る道路もあり、子どもを中心とした歩行者の通行が多い。加えて、自転車を含む車両の交通量や路上駐車も多く、抜け道として車が30キロ超で走行することもあり、危険な状況だった。

公園(左)、小学校(右)の現場の道路は速度抑制のため、ポール等で補完したスラローム状になっている
「実施前には、車両のスピード抑制及び路上駐車対策の要望並びに 児童と車両の交錯を心配する周辺住民のみなさんからの意見がございました」(墨田区都市整備部道路・橋りょう課計画調整担当)といい、同区では都内他区に先駆け、同施策を設定した。
設定から1年が経過し、同区は成果について次のように説明した。
「 (1)自動車の走行速度が減少、(2)自動車交通量の抑制、(3)路上駐⾞台数の減少、(4)⾃転⾞の⾞道通⾏の増加・歩道通行の減少 の効果が得られました。今後もゾーン30プラス実施箇所について、状況を確認 PDCAを回しながら、継続的な維持管理に取り組んでまいります」

ハンプ設置の実証実験の結果(杉並区HPより)
2024年12月には、杉並区も同様の施策を実施。同区ではハンプ(※)を設置することで、物理的な減速効果を図る。実証実験では、設置前の平均速度時速27.1キロから設置後は平均速度時速23キロと時速4.1キロの減速効果が認められたという。周辺環境への影響では、騒音は昼のレベル低下が認められ、振動レベルは微増した。
※速度抑制を促す、道路の一部を隆起させた構造物
これまでは原則、時速60キロ制限だった生活道路。